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はじめに

 ネットワークを使用する場合に,必ずといってよいほど利用されるサービスが「名前解決」である。たとえば,ブラウザでWebサイトに接続する場合を考えてみてほしい。IPアドレスを直接指定して接続することは,ほとんどないだろう。通常は,ドメイン名に基づくURL(Uniform Resource Locator)を入力する。すると,入力されたドメイン名はDNS(Domain Name System)サーバーに送信され,DNSサーバーはドメイン名と一致するIPアドレスを探してクライアントに返す。こうして,ブラウザはドメイン名に対応するIPアドレスを取得し,該当するWebサーバーと接続することができる。この例のように,人間にとってわかりやすい名前からコンピュータ上で扱われているアドレスへと変換することを「名前解決」,名前解決を実現するネットワーク上のサービスを「名前解決サービス」と呼ぶ。

Fig.0-1 DNSによる名前解決
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 名前解決サービスの代表例としては,先に示したDNSがある。DNSはインターネットやTCP/IPネットワークで利用され,人間の理解しやすい名前である「ホスト名」から,コンピュータが利用しやすい形式である「IPアドレス」へと変換してくれる。DNSはクライアント/サーバー方式で実装されており,基本的には「クライアントがサーバーに名前解決を依頼し,サーバーから結果を受け取る」という流れで名前を解決する。また,1台のサーバーがすべての名前を管理しているわけではなく,「ゾーン」と呼ばれる単位で分散管理されている点も特徴である。今日のインターネットは,DNSの分散データベースに依存して動作しているといっても過言ではない。

 ところで,従来のWindowsのネットワークサービスでは,インターネットやTCP/IPの世界では標準となっているDNSを名前解決サービスとしているわけではない。なぜなら,従来のPC LANではNetBEUIプロトコルが主流であり,アプリケーションもNetBIOSインタフェースに基づいて開発されていたからである。NetBEUIプロトコルは,TCP/IPと比べると必要となるリソースやオーバーヘッドが少なく,当時のPCでも実装が比較的容易であった。NetBEUIプロトコルはブロードキャスト(LANに存在するすべてのコンピュータにパケットを送信すること)を利用して名前解決を実現しており,この点はNetBIOSインタフェースをTCP/IPでカプセル化したNBT(NetBIOS over TCP/IP)でも基本的に変わらない。Windows NT 4.0までのWindowsプラットフォームは,ネットワークアプリケーションインタフェースとしてNetBIOSを採用してきたため,WindowsのネットワークサービスではNetBIOSによる名前解決が前提となっていたのである。

 これに対して,Windows 2000では名前解決の方法がWindows NTから大きく変更されている。Windows NT 4.0まではWindowsのネットワークサービスにNetBIOSインタフェースを利用していたため,NetBIOSによる名前解決が必要であった。これに対してWindows 2000では,Active Directoryと呼ばれるディレクトリサービスが搭載され,DNSを使用して名前解決を図ることになっている。

 この連載では,Windows 2000における名前解決を中心に解説を進める予定である。Windows 2000では名前解決にDNSを利用するので,連載の内容も必然的にDNSの話題が中心となる。ただし,DNSのみで環境を構築できるのは,Windows 2000をネイティブモードで運用し,Active Directoryに対応したクライアントとアプリケーションを使用している場合だけである。クライアントにWindows 95/98が存在する場合や,既存のWindows NT Serverが存在する場合は,やはりNetBIOSによる名前解決も必要となってくる。つまり,Windows 2000の導入やWindows 2000への移行をスムーズに実現するためには,Windows 95/98/NTで利用されているNetBIOSの知識のほかに,DNSの知識が必要となってくる。すでに組織内にDNSが導入されていて,DNSの管理者とWindows 2000の管理者が一致している場合はともかく,既存のWindows NTユーザーの多くは,必ずしもDNSについて明るくないと思われる。特に,Windows NTはソリューションの必要性から組織内でボトムアップ的に導入されてきた経緯があるのに対して,DNSは一般的にネットワーク上の必要性から組織内でトップダウン的に導入される経緯がある。この導入経緯の違いから,DNSの管理者はWindows 2000について,Windows 2000の管理者はDNSについて,それぞれ学ばなければならないケースがほとんどだろう。

 そこでこの連載では,まず現行のWindows NTで採用されている名前解決メカニズムについて解説したあと,Windows 2000で採用された名前解決方法について説明する。特にWindows 2000における名前解決については,DNSにかかわる基本的な知識はもちろんのこと,既存NTドメインや既存DNSとの統合方法も含め,実務の現場で役立つ実践的な情報を提供してゆきたいと考えている。

 なお,この連載は,ネットワークプロトコルとしてTCP/IPのみを想定し,オペレーティングシステムにはWindows 2000のRC2(Release Candidate 2)を用いる。製品版では仕様が変更される可能性もあるので,注意してほしい。連載中,前提とするWindows 2000のバージョンに変更があった場合は,その都度アナウンスする予定である。

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