ESPPと外国株式の売買に関する税金知っててトクする株式講座(5)

» 2000年09月29日 12時00分 公開
[杉山靖彦,@IT]

インテルショックにみる米国株式市場の日本への影響力

 インテルショックともいえるような衝撃が、2000年9月22日の米国NASDAQ市場を襲いました。米インテル社が2000年9月21日に7月〜9月期決算について業績の下方修正を発表したことにより、株価が前日比で実に23%下落し、47ドル程度となりました(2000年の最高値は8月31日に付けた75.875ドル)。

 今回の下方修正の主な要因としては、パソコン市場の成長を高めに見積もっていた可能性があるほか、AMDなどとの競争激化により、「製品単価が下落」「シェアを奪われる」などの固有の問題も挙げられていますが、それよりも半導体市場の先行きに関する不安が広がっています。NASDAQ市場の影響を受けやすい日本の株式市場でも、半導体企業の業績悪化に対する懸念から、翌22日(日本時間)には大きな影響をうけ、投資家の間では見送り姿勢が強まっていました。

 日本の株式市場がNASDAQ市場の影響を受けやすい理由には、1)特にIT業界ではすでに完全な国際競争が繰り広げられており、米国の情勢がそのまま日本に影響を及ぼす可能性が高いこと、2)機関投資家や外国人投資家が、NASDAQ市場での損失をカバーするために、日本市場の株式を売却することによって益出しを行う傾向が頻繁にみられること、などが挙げられます。

 ですから、NASDAQ市場の株価が大きく下落した翌日は、日本の証券市場が開く前から、私のまわりで大きな悲鳴やため息がなぜかよく聞こえてきます。というのも、ふとまわりを見回すと、意外にNASDAQ市場に公開されている株式を中心とした、外国株式に投資している人間が多いからなのです。

 もっともその方たちは、意識的に投資しているというよりは、ESPP(Employee Stock Purrchase Plan)によって給与から無条件で天引きされ、親会社の株式を購入しているという場合が多いのでしょうが……。というわけで、今回は、ESPPによる外国株式の売買に関する税金について解説していくことにします。

キャピタルゲインと為替差損益にかかる税金

 キャピタルゲインにかかる税金については何度も繰り返し解説していますが、外国株式を売買した場合であっても、売却時にそのキャピタルゲインについて、売却した個人に対し、原則、下記のような税金が課せられることになっています。

税額

=(売却価額−取得価額−売買にともなう経費)×26%

=売却益×26%


 しかし、外国株式の場合、取得時、売却時、送金時では、為替レートがそれぞれ異なり、どの時点の為替レートを採用するかによって、円換算によるキャピタルゲインの金額が大きく変わってくることになります。では一体、どの時点の為替レートをどのように採用するのか、数式の順番に解説することにしましょう。 上記の「売却価額」は、外貨建ての売却価額に売却日の為替レート(TTB)を掛け合わせることによって求められます。また、「取得価額」は、外貨建ての取得価額に取得日の為替レート(TTS)を掛け合わせることによって、「売買にともなう経費」は、それぞれ外貨建ての経費を支払った日の為替レート(TTS)を掛け合わせることによって求められることになります。

外国株式取得・売却・売買にともなう経費算出時に採用される為替レート

売却価額=外貨建ての売却価額×≫売却日≪の為替レート(TTB)

取得価額=外貨建ての取得価額×取得日の為替レート(TTS)

売買にともなう経費=外貨建ての経費×支払い日の為替レート(TTS)


 ここで気になるのが、為替差損益の取り扱いです。株式の取得や売却の事務手続きには必ず時間を要するので、為替レートの変動により、実際に送金する時点では、ほとんどの場合、為替差損益が発生してしまいます。

 まず、為替差益ですが、為替差益は基本的には雑所得として確定申告をする必要があります。基本的にと述べたのは、年収2000万円以下の一般的なサラリーマンで、給与所得、退職所得以外の所得合計額が20万円以下の場合は、申告義務がないからです。逆に、それ以外の方には申告義務があるということですので、ご注意ください。

 ところが、問題なのは為替差損です。最近の為替は日によって信じられないほど大きく動くことがあります。昨日まで108円だったのに、今日になったら105円台に突入していたなんていうことも珍しくありません。この2円3円の差が、場合によっては何十万円、何百万円になる場合もあります。しかし、この差損はほかの雑所得がない場合、残念ながらほかの所得から控除、つまり差し引くことができないのです。損失が発生しているにもかかわらず、税金まで課税されるという二重の損失ということになるのです(もっとも、場合によってはそれを回避できる裏技がないわけではありませんが、公には書くことができないので、残念ながら個別対応ということで…)。

 しかし、公開株式の場合は、どこの市場に公開しているかは関係なく、現時点においては、おなじみの源泉分離課税(売却価額×1.05%)という選択肢がありますので、タイムリーな株式取引ができないリスクと税制のリスクをはかりにかけ、取引する証券会社を選択する必要があるでしょう。

 ただし、ここで注意しておかなくてはならないことがあります。それは、源泉分離課税を選択するには、「日本国内に本店または支店などを有する証券会社を通じた取引についてのみ認められている」ので、そうした証券会社を選択することが必要である、ということです。ただし、日本国内においてそうした証券会社と取引をする場合には、時差のため、米国などの海外市場の株式をタイムリーに取引することが、事実上、極めて困難となりますから、かえって、株取引自体のリスクが大きくなるということも念頭に置いておかなければならないでしょう。

ESPPによる株式取得上の課税問題

 ところで、外資系企業の多くが採用しているESPPにより取得した株式への課税に関しては1つ大きな問題があります。ESPPにより取得した株式は、実際に取得した株式となりますから、ストックオプションなどとは異なり、前述のような課税関係が成り立ちます。つまり、売却価額と取得価額との差額に対して前述のキャピタルゲイン課税が適用されるのです。

 となると、その取得価額が重要になってきます。ESPPの多くは、取得価額を一定期間の期首と期末のいずれか低い価額からある一定比率でディスカウントした価額としています。日本企業の持ち株会にも似たような制度がありますが、実はこのディスカウント率によって、極めて大きな問題がおこるかもしれないのです。

 現在の所得税法では、新規発行の株式について、市場価額と取得価額の差が「社会通念上相当」=「10%相当」以内である場合には、課税はおこなわないと規定されています。また一方で、社員が会社の資産を「著しく低い」=「1/2以上」安い価額で取得した場合は課税をおこなう、と規定されています。

 これらの規定からすると、ディスカウント率が10%以下の場合は課税なし、50%以上は課税ありとなることは明確なのですが、10〜50%の範囲でディスカウント率が設定されている場合にはグレーゾーンとなってしまうのです。つまり、問題とは「このディスカウント部分全体について課税が行われるのかどうかが不明である」ということです。そのせいか、日本企業の持ち株会では、このディスカウント率を10%以下に抑えているところが多く見受けられます。

 現時点では、ESPPにおけるこのディスカウント部分について、課税されたという話はほとんど聞きませんが、実は皆無ではありません。税法は本来、「規定なしは課税せず」というのが原則なのですが、最近、この原則を侵すような国税側の行為が目につくようになってきているので、金額的には僅少ですが、ESPPを実施している外資系企業の社員は注意を払う必要があるでしょう。

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