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» 2001年03月16日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン (28):本当にBtoCに未来はないのか?〜パソコンショップに見る、BtoCの実情〜

[三浦優子(コンピュータ・ニュース社),@IT]

苦境に立つBtoCサイト

 最近、ネットバブルがはじけた米国から、「BtoCサイトの苦境」を伝えるニュースが次々に入ってくる。華々しく登場したBtoCの新会社が、規模を縮小したり、倒産したりする憂き目にあっている。極端な意見としては、「BtoBに未来はあっても、BtoCに未来はない」というものまである。

 「BtoCサイトが苦戦している」との声は、日本で取材していてもまったく同じである。むしろ通信販売が発達している日本の方が、米国よりもなおのことBtoCには適さないという指摘もあるくらいだ。

 だが、1年前は決してBtoCに厳しい声ばかりではなかった。特に、ECの先端といわれるパソコン販売においては、「将来、すべてのショップがなくなるのではないか」という見通しを示す人もいたくらい、もう本当に猫もしゃくしもBtoC向けのECサイト作りに励んだ感がある。

 これが最近では「いや、実店舗は絶対になくなることはない」と実店舗の存在価値をあらためてアピールするショップ経営者が多くなった。実際にECサイトを運営した経験から、その問題点を認識したようなのだ。

 なぜ、一時は実際のショップを駆逐する勢いがあったBtoC向けECがこれだけ減速しているのか。パソコンショップの実情からその謎に迫ってみたい。

パソコンショップに見るBtoCサイトの実情

 まず、下記の表に示したのは、大手のパソコンショップにおけるECサイトの売り上げと店舗事業の売り上げを比較したものだ。

全店舗の売り上げ EC販売の売り上げ
ラオックス 1755億円(2000年3月期) 年商20億円(2000年度目標)
ソフマップ 1304億円(2000年3月期) 年商100億円(2000年度目標)
ムラウチ 146億円(2000年3月期) 年商30億円(2000年度目標)

 皆さんは、この数値を見てどんな感想を持たれただろうか。

 いま、ECショップでは最大手といわれるソフマップが、年間売り上げ100億円という目標を掲げているわけだが、最大手でさえ100億円規模の年商にすぎない。ソフマップを追っている2番手グループの実情を聞くと、2000年に月商1億円をコンスタントに超えるペースとなり、調子がよいときには月商2億円を超えるペースとなったようだ。さらにこれを追う3番手以下のグループでは、月商数千万円レベルのところがほとんだ。

 こうして数値だけを羅列しても実感がわかないかもしれないが、秋葉原の大手ショップでは1階にパソコン関連書籍販売フロアを設けているところがあるが、そのフロアで月に1億円の売り上げをあげているという話を聞いたことがある。

 つまり、2000年に入ってようやく、大手ECサイトでは、実店舗のパソコン関連書籍フロアと同等、もしくはそれを超える売り上げ規模となったところなのである。華々しく見えるECサイトだが、売り上げ規模で見れば、まだまだ厳しいのが実情だ。

苦境に追い込んだのは売り上げを上回るシステム投資だった

 ところで、BtoC向けECサイトが成功するために欠かせないのは、商品メンテナンスや顧客からの質問などに迅速に答えるために人手をかけることと、省力化できるところはできるだけ省力化するよう、システム面での増強を図ることだ。売り上げが順調に伸びてきたBtoC向けECサイトは、いうまでもなくこの2つの課題をクリアするだけの体制を整えている。

 とはいうものの、月商2億円を超える売り上げをあげているところの話を聞くと、1日の商品販売件数は200件に及ぶという。200件の注文に即座にこたえながら、さらに購買前の質問、購買後の質問に答えるとなると、ECサイト専任の人材が不可欠となってくる。中には、10人のアルバイトを雇い、顧客からの注文に応じた配送を人手でこなしているというところもあり、収益はどんどん悪化する傾向にある。

 人手をかけずに販売数量をアップしていくためには、配送まで含めたシステムの増強が必要になるが、そのための設備投資は、まだまだ売り上げの少ないBtoC向けECサイトにとっては、かなり思い切った先行投資とならざるを得ない。

BtoC向けECサイトの中でも、売り上げは伸ばしていながら、事業が左前になったところの内情を聞くと、システムへの投資額が売り上げを上回っていったということだ。

 最近では、配送についてはメーカーや卸と連動し、ショップ側は在庫を持たず、メーカーや卸の倉庫から直接商品を発送する仕組みを採用し、配送面での手間を軽減する方式もある。

 だが、これを利用するためにはある程度の売り上げ規模と信用があり、さらにシステム面でメーカーや卸と連動ができることが条件となることから、やはりある程度のシステム増強は避けられない。

 BtoC向けECサイトでの商品販売に関しては「とにかく安さだけを追求する顧客が多い」とECショップは口をそろえる。「他店よりも、10円でも安ければ顧客は来るが、10円高くなれば顧客は来ない」とあるショップ経営者は苦笑いしていたが、ただでさえ収益が薄いところに、先行投資でシステムを増強するということになれば、決してECショップを経営するということは生易しい商売ではないということがお分かりいただけるであろう。この傾向、日本だけでなく、米国でも同様の根本的な問題点があったのではないか。

 この厳しい現実から、BtoC向けECサイトに対する見方は厳しいものとなっているが、まだ「ECから撤退する」というパソコンショップの話は聞こえてこない。なぜか……ここが商売人ならではのたくましさかと思うのだが、「だってさ、ECは厳しいとは思うけれど、一応パソコンというITに直結するものを扱っているんだから、この時期、簡単にやめるわけにはいかないでしょう」と、見事に本音と建前を使い分けている。

 ある大手ショップ経営者はこう指摘する。「配送、通信料などを考えれば、ECで商品を購入するというのは顧客にとってそう割安なものではない。もちろん、ショップにとっても決して収益面で大きなプラスがあるとはいえない。大体、BtoCに本当にビジネス・チャンスがたくさんあるとすれば、商売上手のデルコンピュータがもっと本格的に参入してきますよ。コンシューマの購買のメインはやはりショップになると思う」

本当にBtoCには未来はないのか?

 では、BtoCには、本当に未来はないのか? そう疑問を持って取材を進めると、面白い意見に出合った。

 「ソフマップさんのように、ナンバー1になろうと思わず、そこそこの売り上げをあげることを考えれば、ECだってそう悪くないよ」という意見である。これは地方の小さなショップの意見なのだが、「地方で、知名度のないショップを運営していれば、売り上げにも限界がある。そこにプラスアルファで数百万円、数千万円だけECで稼いで、店舗の売り上げと合算してみたら、実店舗だけの商売よりも面白い」というのである。

 確かに、トップを目指し、売り上げを右肩上がりにしていこうとすれば、かなりの投資、スタッフが必要かもしれないが、現状のスタッフで、もう少しだけ売り上げを増やす手段としては、ECも悪くないといえるのかもしれない。

Profile

三浦 優子(みうら ゆうこ)

株式会社コンピュータ・ニュース社

1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。

メールアドレスはmiura@bcn.co.jp


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