調査につきまとう「不確かさ」〜インターネットと世論(1)〜eマーケティングの現場から技術者向けの、eマーケティングTIPS(14)

» 2001年03月31日 12時00分 公開
[水島久光,株式会社 インフォシーク]

 マーケターにとって、インターネットの普及が何よりもありがたく思えるときがある。それは急きょアンケート調査を実施する必要に迫られたときだ。かつてはマーケティング・プランを立案する際に調査をかけるとなると、準備やら何やらで1カ月くらいかかったものだ。

 しかも、1サンプル当たりの費用を含め、調査費や手間もばかにならなかった。こんな時代を経験している僕たちとしては、このところ次々とオープンした「デスクトップ・サーベイ」をはじめとしたASPサービスの「速さ」「安さ」「便利さ」には、隔世の感が否めないのが正直なところだ。

 しかし、オーソドックスな調査業界にとっては、インターネットを調査へ活用すること自体、これまでの社会調査、世論調査の常識からして、なかなか承認し難いモノらしい。最大の問題は、サンプルの“代表性”であることはいうまでもない。

 現在ようやく2割を超えたか超えないかというインターネットという媒体を通じて、標本を構築するのだから、それは市場全体から見ると大きな偏りがある、という以前に、すでに「インターネット利用者」という1セグメント内における「クロス」がかかったサンプリングであるという指摘は否定できるものではない。

 ただし、この“代表性”の問題は、2つの視点によって解決できなくもない。1つは、普及がおのずとこの問題を解決してくれるというものだ。いまや、そのサンプル収集方法に異を唱えなくなった「電話調査」にしても、電話の普及率が低かった時代には“代表性”が確立できなかったはずだ。

 一方、現在都市部の20〜30歳代では、インターネットの普及率はすでに50%を超えているという見方もある。対象を限定して行う調査としては、もはや“代表性”は確保されつつあるともいえる。

 もう1つは、収集手続きの問題。きちんとした住民台帳から、RDD(ランダム・ディジッド・ダイヤリング)によって許諾を得たモニタを構築し、質問と回答の方法としてだけインターネットを用いた場合、ある意味“代表性”は確立できたといえるのか、いえないのか、どちらだろう(実際に、インターネットの視聴率調査は、こうした手続きを踏んでいる)。

  こと“代表性”の問題からいうと、オーソドックスな調査業界側のなかば“アレルギー”にも似たこの拒否反応は、インターネット推進側があまりに安易に調査データを扱う姿勢に起因しているともいえる。

 もともと、インターネット上では、アクセス・ログやコミュニケーション・ログが非常に簡単に蓄積できることから、手をかけて調査の環境や手続きを整えなくても、ある意味最もマーケッターが手に入れたかった「市場の生の声」が聞けるという特性がある。これまで、それが手に入らなかったからこそ、苦労して“科学としての調査技法”を磨いてきた側からすれば、なんとも言い難いものだろう。

 しかも、そのログの残り方の“自然さ”といったら、調査する立場からしてみれば、“何らかのバイアスのかかったもの”でしかない。特に、初期のインターネット・アンケートがプロモーションと不可分であったことから、余計に旧体制側の神経を逆なでしたのだ。

 旧来の調査手法との比較をしていくうちに、僕らは皮肉なことに、旧来の手法の問題にも気付くことになる。“代表性”の問題にしても、例えば、電話帳をもとにサンプリングしていくと、もはや「固定加入電話」を持たないような若者層を取りこぼすことになる。また、これだけ、昼夜人口の差がある都市部の住宅地で、もはや「訪問面接」なる伝統的手法は成立するのだろうか。

 問題は代表性だけではない。“科学としての調査”という立場では、極力排除すべき対象でしかないバイアスが、既存の調査手法においても、あらゆるところで避け難く絡みついている。

 プライバシー侵害スレスレの訪問面接や、突然の電話調査の依頼に、二つ返事で応じてくれる人の“態度”は、果たして「普通」のものなのだろうか? 同じ調査でも、筆記式の質問票に比べて、インターネットの調査フォームではフリーアンサーの回答率やその冗舌さ加減が、同じ人でも著しく異なることは、調査経験者であればだれもが体験している。

 インターネットの利用を通じて、僕らがこれまで正しいと信じ、拠り所にしてきたものの前提の不確かさ、危うさが暴かれる現象は、本来「正しさ」を立証する手続きであったはずの領域(調査)にまで押し寄せている。

Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

株式会社 インフォシーク 編成部長

mizu@infoseek.co.jp

1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、現職に着任。現在、日本広告主協会傘下のWEB広告研究会広告調査部会幹事も務めている。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)。


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