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<vol.27の内容>
インタビュー特集:AII企画株式会社取締役チーフ・ストラテジスト 八尋俊英氏(3)
独自のコンテンツ制作は手がけない。したがって、収益構造はコンテンツ配信料とアプリ会員費。単なる広告による収益モデルは考えていない
━━韓国はじめ海外への展開も視野に入れているようですが、その勝算は?
八尋:実際、台湾や韓国などのADSL事業者や、日本でいうところのジュピタータイタスのようなCATVインターネットを束ねているところから事業オファーがきています。韓国などは確かにネット先進国でして、インターネット・カフェの数も目をみはるものがありますが、私どものような業務を賄い、統括するセクションがありません。
加えて日本のコンテンツは近隣アジアに対して根強い人気があります。国際電話回線を使用することになりますが、AIIのサーバを韓国国内に設置し、増資後はさらに早い段階で整備を行っていくつもりです。
私どものコンセプトとしても、スケール・メリットが出れば出るだけ良いものになると思っています。広告に関しても、グローバルに展開できれば新たな付加価値が生じるでしょうし。
━━事業スタート時のコンテンツの数はどのくらいになるとお考えですか?
八尋:当初50、やがてすぐに100くらいにはなると予測しています。最初は私ども独自のコンテンツ制作は考えておらず、配信業務に徹した方がよいと思っています。載せたい、とお考えのコンテンツ・プロバイダさんを優先します。
━━ジャンルとしてはどのようなものを網羅しようと考えていますか?
八尋:こちらで選定する気はあまりありません。優れた品質でのインターネット・ライブ、各種イベントなどのエンターテインメント・コンテンツから地域情報やニュースなどのインフォメーション・コンテンツまで、さまざまなジャンルのコンテンツを提供していく予定です。
加えて、インターネット・メッセンジャーのような、ユーザー同士のコミュニケーションを満たすようなアプリケーションの開発には注力していきたいです。ユーザーの情報配信ツール、とでもいいましょうか。
同時に課題は、コンテンツが増えるにつれ、サーバへの投資がかさんでいくわけですが、そうしたときに人気のないコンテンツを外すのか外さないのか、という点です。
━━収益構造はどのようになりますか?
八尋:1つは、コンテンツ・メーカーさんからいただく配信料です。私どもと各局さんは、インフラの整備やマーケティング、エンド・ユーザーに近い位置からのプロモーションを行うことでコンテンツ・メーカーさんに還元します。このあたり、アットホームさんなどと差別化できている部分ですね。
もう1つは、私どもの開発したアプリを提供することによる対価です。先に申し上げましたボイスチャットのようなコミュニケーション・ツールを「会員」という形でユーザーに提供し、会員費をいただく、といったような収益モデルです。
こうした開発は私どもだけでなく、ほかのベンチャーさんや各局さんと共同開発してシェアを分け合う、といった形もとれるかと思いますね。
加えて広告ですが、これは収益の柱としては考えていません。例えば、証券会社さんがアナリスト講演会の録画を配信するとします。そうすればおのずと、動画内に証券会社名が登場するかもしれませんし、講座内容もその証券会社の事業にシンクロするかもしれません。しかしそれらは広告料として換算されるものではなく、あくまでもコンテンツ配信料ということになるでしょう。
━━なるほど。確かに従来のバナー広告やメールマガジンの5行広告における、独立した看板的なイメージはなくなりますね。
八尋:ある特定の目的のもと、ユーザーが集うチャット・ルームなどでも同様です。要はその部屋自体のスポンサーになってもらうようにします。コミュニティを育んでいくとともに、広告的要素を織りまぜていく、といった具合で進行することでしょう。
さらに、口頭だと少々伝わりにくいかもしれませんが、ユーザーの口コミ情報をニーズに合わせて発信するようなツールの提供も考えています。
━━コンテンツを提供する際に「映像素材はある、あとはお任せしたい」「課金システムは自社で持っているので、配信だけお願いしたい」など、コンテンツ・メーカーによってそれぞれの意見があるかと思いますが。
八尋:あります。そこでむげにお断りするよりは、コンサルに近い形でお話しさせていただいています。例えば、学生映画祭の動画コンテンツなどは、著作権の処理について調べるところから相談に応じました。
━━ブロードバンドとナローバンド、その効果の違いは「大容量コンテンツの配信」以外にもありますか?
八尋:あるコンテンツ配信で、ブロードバンドとナローバンド両方に同一のコンテンツを配信しました。当然ナローバンドでは全国1000万人の不特定多数層に届きますが、ブロードバンドでの対象は5万〜6万人に絞ってありました。
その結果、ブロードバンドで配信した方がアクセス数が多かったのです。これは告知効果の大きさと、現状ヘビー・ユーザーの多いCATVインターネット層に合ったコンテンツならば確実な効果が上がることの立証です。
加えて、当然ながらブロードバンドで受信した方がクオリティは高い。そんな要素から、提供する側、される側双方のニーズを満たす可能性を持っている、といえるのではないでしょうか。
(おわり)
八尋俊英(やひろとしひで)氏 略歴 | |
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国内金融機関にて約10年、通信・IT分野のM&A、海外プロジェクト・ファイナンス、事業提携戦略のコンサルティングに従事。1995〜1996年にかけて、英国ロンドン市立大学コミュニケーション政策センターにて通信・メディア政策分野の修士号取得 | |
1998年 | ソニー株式会社に転職。出井社長(現会長)直属の通信サービス事業室に設立時から参加 |
1999年6月 | ソニー第1種電気通信事業進出において、ネットワーク企画部 統括課長として現場指揮 |
2000年4月 | ブロードバンド・コンテンツ・ディストリビューション事業としてAII企画取締役を兼任する一方、ソニーCSNCカンパニー通信サービス事業部戦略開発課統括課長として、ソニーの東急ケーブルテレビジョン10%出資を現場で交渉 |
2000年9月 | 東急ケーブルのブロードバンド事業推進室室長代理を兼任 |
2000年11月 | ソニーのコンシューマ向けブロードバンド配信事業を主として行う新設のソニー(株)CSNCカンパニー事業企画室室長を拝命。また近々のAII事業化においても取締役に留任の予定 |
(取材:Netinsider編集部/文:古場俊明)
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