第4章 セールス・システム 〜eCRMにおいては“逆転の発想”が効く〜eCRM実現のためのメソドロジー入門(4)(2/2 ページ)

» 2001年05月09日 12時00分 公開
[松尾順,@IT]
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[2]セールス・システムに欠かせないSFA

 今回は具体的な事例として、あるメール・マガジンを紹介しましょう。

「徳川家康型メール」と「織田信長型メール」

 転職サイトを運営するエン・ジャパン株式会社が1998年7月に開始した、無料の週刊メール・マガジン“[en]Career News”は、発行部数9万5000部に達しており、メール・マガジンとしては屈指の購読者数を抱えています。

 このメルマガがこれだけの購読者を獲得した理由は簡単で、コンテンツが面白いからです。創刊号から続く「転職の法則」、ビジネスに役立つ本を紹介する「Book Review」、編集者のパーソナル感あふれる「コラムジョブ」など、いますぐ転職したいとは思っていない一般のビジネスパーソンにとっても興味深い内容となっています。

 “[en]Career News”は、直接的な求人情報は最低限にとどめ、潜在的な転職候補者である多くのビジネスパーソンに役立つ情報を毎週送信し続けることによって、本人がその気になって自ら転職の意思表示をしてくるのを待っているのです。

 私はこのような方法を「徳川家康型メール」と呼んでいます。「鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス」ということです。「徳川家康型」は長期的な関係維持を前提とした“待ちの戦略”という点で、eCRMを実践するうえでも効果的な方法です。

 それに対して、顧客の十分条件である「購入のタイミング」とは無関係に、無理やり購入情報だけを送りつけるようなやり方は「織田信長型メール」といえるでしょう。

 例えば、一方的に求人情報をだらだらと掲載しているだけのメール・マガジンは、いまは転職する気のない人、あるいは転職が決まった人にとっては必要のない情報となり、いつまでも購読者の興味・関心をひきつけておくことは困難です。そして、特に購読する意味もないということで、すぐに購読が中止されてしまうでしょう。

まつおっち先生の“ココがポイント”

顧客の購入のタイミングを待つ「徳川家康型」メールは、電子メールという低コストのツールを用いることのできるeCRMでこそ有効な手段となる


eCRMにおけるセールス・システムを支えるIT施策

 継続的なコミュニケーションを通じて見込み客との良好な関係を維持し、顧客の購買タイミングを待つ、そして、購入の意思表示をしてきた見込み客に、最後の購入の決断を促して「購入客」へと変換させるのはそう難しいことではありません。eCRMにおけるセールス・システムの理想形がこれです。

図2 eCRMにおけるセールス施策の理想形 図2 eCRMにおけるセールス施策の理想形

 さて、この理想的なセールス・システムを支えるIT施策についてもお話ししておきましょう。

 顧客のパーミションを得てから購入に至るまでのプロセスには、従来の広告宣伝、ダイレクト・マーケティングなど、さまざまな手法が活用されるため、前回お話ししたマーケティング・オートメーション、キャンペーン・マネジメントの機能を備えたソフトウェアも必要です。ただ、それらのソフトウェアに加えて、セールス・システムに特有のIT施策としては、いわゆるSFA(Sales Force Automation)系ソフトの活用が有効です。

 これは主に営業担当者の営業活動を支援するソフトで、見込み客のプロフィール情報や購入見込みの度合い(本気度)に関する情報を管理するための「顧客管理機能」、これまでの顧客とのやりとりを記録する「顧客対応履歴管理機能」、面談日時を管理する「スケジューリング機能」などで構成されています。

SFAを導入するメリット

 SFAソフトを利用することのメリットは2つあります。1つは顧客情報の厚みが増すことです。見込み客と数度にわたり直接会い、相手の要望や意見、感情などを知ることのできる営業担当者が、それらの情報を顧客データベースに入力することで、見込み客についてのより多面的な情報が蓄積されていくのです。

 これらの情報は、データマイニングでの分析などを通じて、性別・年齢といった基本的な顧客情報だけでは分からない、“真のニーズ”を探ることのできる貴重なものになるはずです。

 もう1つは、どちらかというと経験と勘に頼りがちで無駄の多かった営業活動を大きく改善する可能性を秘めているということです。SFAをうまく活用すれば、例えば、営業担当者当たりの購入客獲得数を増加させることも可能となります。

 つまり、見込み客との面談内容の記録を分析することで、見込み客の購入意欲の強さを把握できれば、営業担当者はそれぞれの見込み客に対して、次にどのようなアクションを取ればいいのかをより的確に判断することができるようになるからです。

 このような分析を、化学工場のような製造プロセスになぞらえて「パイプライン分析」といいます。文字どおり、インプットである「見込み客」が製造パイプラインを通じて、最後には「購入客」というアウトプットになって出てくるわけですが、そのプロセスのどのあたりに見込み客がいるのかをSFAを活用して分析するというわけです。

 SFAソフトは、実際に見込み客のところまで出向いて商談を行う、いわゆる営業担当者だけでなく、電話を活用したセールスを行うコールセンターにも実装されます。コールセンターのオペレータと営業担当者が連係してセールスを行う場合も多いため、営業担当者とコールセンターが同じSFAソフトを利用するケースもあります。

 従って、コールセンターに導入されることの多い、CTI(Computer Telephony Integration)ソフトとSFAソフトはほとんど一体化しています。具体的なソフト名としては、Siebel、Vantiveといったソフトがよく知られています。

まつおっち先生の“ココがポイント”

SFAは単純に営業効率を高めるためだけに導入するものではなく、eCRM実現において重要な顧客からの信頼感を得るために、顧客との接点となる営業担当者やコールセンターのオペレータなどで顧客データを共有するためには欠かせないシステムである


第5章では、「エクスペリエンス・システム」についてご説明します。

※本文中に「まつおっち先生の“ココがポイント”というコーナーがでてきますが、「まつおっち先生」とは、筆者の松尾氏が仲間内では“まつおっち先生”と呼ばれて いることに由来しています。
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