中堅・中小企業がERP導入に成功するためにはミドルサイズERP大研究(2)

前回は、大企業だけでなく、サプライチェーン・マネジメントへの対応やリアルタイム経営実現に向けて、中堅・中小企業にもERPパッケージの導入が進んでいることをリポートした。今回は、中堅・中小企業がどんなパッケージを利用しているのか、また、中堅・中小企業のERP導入が成功するための要件について述べていこう

» 2002年05月21日 12時00分 公開
[小林 秀雄,@IT]

中堅・中小企業が利用するパッケージ

 ERPパッケージは、SAP(R/3、mySAP.com)、オラクル(Oracle Applications、E-Business Suite)、バーンピープルソフトなど、海外の有力ERPベンダが日本市場をけん引してきた。

 ERP研究推進フォーラムの「企業アプリケーション・システムの導入状況に関する調査」(2001年7月)では、ERPパッケージを「導入済み」または「導入予定」という回答で示されたERP製品のシェアを調べている。トップはSAP、2位がオラクルと海外勢が上位に立っている。この2社で全体の約40%を占める。3位がSuperStream(SSJ)、4位がGLOVIA(富士通)と国産勢が続く。

 中堅企業の回答にフォーカスすると、中身が多少異なってくる。従業員が300人以上1000人未満の中堅企業の場合、SAPの1位に続くのは富士通のGLOVIAで、オラクルは3位。同調査は、「外国製パッケージは大企業の検討比率が高く、一方、国産パッケージは1000人未満の中堅企業における比率が高い傾向にある」とコメントしている。SAPやオラクルの導入を検討する中堅企業が多いものの、中堅企業を対象にしたERPパッケージ市場では国産勢の存在感が増す。

 大企業と中堅企業では検討対象となるパッケージは、順位に違いがあるものの、その顔触れに顕著な違いは見られない。では、中堅企業と中小企業とで導入検討の対象となるパッケージに違いはあるのだろうか。

 中小企業の場合、登場する顔触れがかなり異なる。矢野経済研究所の「2001年版中堅・中小企業におけるERPパッケージの導入実態調査」によると、中小企業の製品別導入サイト数シェアは、1位が大塚商会のSMILEα、2位がSAP、3位がNECのNT-APLIKAとなっている。この3社で中小企業向け市場の50%を占有する。大塚商会やNECは、オフコン以来の付き合いの中で、中小企業に対する強みを発揮しているといえよう。

■中堅企業(年商100〜500億円の製造業・流通サービス業)

中堅におけるERPパッケージの製品別導入サイトシェア数(「2001年中堅・中小企業におけるERPパッケージの導入実態調査」矢野経済研究所 2001年6月)

■中小企業(年商50〜100億円の製造業・流通サービス業)

中小企業におけるERPパッケージの製品別導入サイトシェア数(「2001年中堅・中小企業におけるERPパッケージの導入実態調査」矢野経済研究所 2001年6月)

 オフコンが受け入れられてきた市場のさらに上に位置するのは、パッケージ導入コストが1億〜3億円となる製品群である。このクラスは、大企業も対象としつつその下への導入を企図するSSAQADJ.D.エドワーズインテンシアなどの海外勢に加え、東洋エンジニアリング(パッケージはMCFrame)、ビーエスエス(同BSS-PACK)などの国産勢がひしめく。

 逆にパソコンソフトでは、オービックビジネスコンサルタントの奉行シリーズも、会計ソフトの勘定奉行を基盤にほかの奉行シリーズ製品と連携させる形でERP的機能の実現を進め、パソコン主体の中小企業での利用が進んでいる。

 ERPパッケージを導入するうえで、重要なのは統合化だ。それと、同様に柔軟性も求められる。統合化という点で、パソコン・パッケージは自社アプリケーション間での連携を強化して統合化を実現するというアプローチを取っている。それによって、ERPが目的とする経営資源の統合管理が果たせるわけだが、自社アプリケーション同士の組み合わせという路線上、フレキシビリティ性に欠けるきらいがある。その点、PCAのDream21は、マイクロソフトの.NETアーキテクチャを採用することで拡張性を確保するというアプローチを見せている。

 従来のオフコン・べースのシステム、あるいはそこから進化してきたシステムでは、足りない機能はアドオンしたり、プログラミングで追加するという従来からのアプローチがある一方で、ソフトの部品化・標準化を進めて、オープンな環境で利用できるようにする方向に進化している。

大手向け製品ベンダも参入

 中堅企業以下のにとってERPパッケージを導入するうえで課題となるのは導入コストだ。上述のERPベンダの製品は、大手向けとされるものよりも価格面でも有利なものが多い。

 そうした中、大手企業を中心に販売してきたERPベンダも中堅企業向けの戦略を具体化させている。

 例えば、SAPジャパンは、自動車部品業界向けに特化したテンプレートを2002年4月に発表している。その狙いは、導入期間の短縮と導入コストの削減である。このテンプレートが対象としているのは、年間の売り上げが100億〜1000億円の中堅企業。これらの企業は、完成車メーカーとの緊密な連携が求められており、ERPパッケージをコアとしたシステム再構築へと動きだそうとしている。SAPジャパンによれば、テンプレートの活用で導入期間を平均9カ月から6カ月に短縮することができ、それによって導入コストを30%削減できるという。

 バーン ジャパンも、ERP導入コンサルティングの定額受注・成果保証を打ち出した。システム開発に潤沢な資金を持たない中堅企業にとって、開発予算が明確になるのは朗報だろう。

 大手企業のERP導入も比率的にはそれほど進んでいるわけではないが、意欲の高い企業への導入はある程度済んでおり、大手向け製品提供ベンダの目は製造業の中堅クラスの会社に向いている。中堅企業向けERP市場は、激戦区となりそうだ。

問われる企業戦略のデザイン能力

 大企業でも同様の悩みを抱えているのだが、日本のERPの大きな問題点にERP本来の目的である全体最適が実現できていないことがある。

 ERPパッケージを導入しているといいながら、その実態は会計モジュールだけの部分導入という例が実は少なくない。しかし、これはERPを実現しているとはいえない。

 他方、ERPベンダが提供するソフトウェアをすべて導入しさえすれば、それで最適なビジネスソリューションを手に入れられるかといえば、それも誤りだ。かつては「ERPパッケージは、成功企業のベストプラクティスのノウハウが詰まっているので、導入すればそのままERPが実現できる」という説明がなされていたが、現実にはカスタマイズが必要だった。

 要は、まず自社がどのようなビジネスを行うのか、それを実現できるビジネス・プロセスはどうあるべきか、そしてそれに対応する神経組織としての情報システムはどのように設計するか──という観点がなければ、ERPはお題目に過ぎなくなってしまう。さらに、この活動は市場の絶え間ない変化に対応するため、常に業務を革新し、次なる企業革新につないでいくための、より大きなビジネス・デザインも必要となる。すなわち、ERPの実現とは、経営ビジョンとそれを実現するITとの一体化が必須なのだ。

 ERP導入のコンサルティングを行っているTRUソリューションズの西嶋陽一社長は、「役員層がしっかりとした経営戦略について方向性と信念を持たなければならない」と指摘する。「同業他社が導入しているから」という横並びの意識だけでなく、「コスト削減ができそうだから」という程度のあいまいな期待でERPパッケージを導入しても成功はおぼつかない。

 企業戦略に基づき、何を強みとし、どのような投資を行うのか。ITの活用でいえば、ERPやSCMは企業戦略を実行するうえでどのような役割を担うのか──そうした点を明確に定めておくことが重要だ。それは戦略マネジメントというテーマになるが、戦略マネジメントをきちんと行ううえで有効なのがバランスト・スコアカード(BSC)の考え方だ。ERPは経営リソースをマネジメントするためのインフラだ。だからこそ、経営層が「何のために」ERPを導入するのかを明確に認識していること。それがERP導入を成功に導く出発点となる。

 特に、それが重要となるのは中規模企業だ。小規模企業の場合、資金がない中でいかに生き残りを図るか、いかに効果を得るかに知恵を絞らざるを得ないが、中規模クラスになると社内政治に足を引っ張られ、ERP導入が思うように進まないというケースが多々見られるからだ。

SEを見てインテグレータを選択する

 ERPを導入する側で経営層の経営ビジョンに対する方向性を明確に認識していることに加え、パッケージやSI業者(システム・インテグレータ)を選択することもERP導入を成功させる重要なファクターとなる。

 パッケージの選択は、求める業務機能や予算を軸に絞り込めばふさわしいパッケージ候補が見えてくる。その中から選択すれば、どれを選んでも問題はないだろう。「パッケージ選びよりプライオリティが高いのは人(SE)選び」だと西嶋氏はいう。

 結論からいえば、ユーザー内部でのギャップ、ユーザーとインテグレータ間のギャップを埋め、両者を橋渡しする存在が求められる。

 例えば、経理担当者は経理業務のことしか分からない、在庫担当者は在庫の管理のことしか分からない、全社を束ねる社長はITの在り方について語れない。これが、ユーザー企業内でのギャップだ。こういうギャップが存在するのは、異様でも何でもなくごく普通のことである。

 このギャップから、ユーザー(企業)とSI業者の間にもギャップが生じる。SI業者は顧客企業の各部門のそれぞれの言い分を聞き、それに沿うシステムを開発する。だが、個別に聞いた要件を基にしても、全社最適のシステムは出来上がらない。そこで、要件やシステムの見直しが必要になり、導入に時間がかかる。苦労して出来上がったときには、企業を取り巻く環境が変わっており、システムが十分な効果を発揮できないということになりかねない。

 そこで、このギャップを埋めるための人材が必要となる。大手企業では、自社内に情報システム部門や戦略推進室などがあり、また経営コンサルタント系コンサルティング・ファームのITコンサルタントが、こうした役割を担う。中堅企業向けという意味では、経済産業省が主導して創設したITコーディネータがそうした役割を期待されているのだが、まだ数が少ない。こうした資格のあるなしに関わらず、経営ビジョンを理解したうえで、経営とITの在り方について一歩進んだ示唆ができること、さらにはSI業者に対して注文を出すことまで踏み込んでできる人材は限られている。規模の小さな会社で社内にこうした人材を見つけ出すのは、簡単ではないだろう。

 となると、SI業者のSEに期待するのが現実的だ。ユーザー企業は、ERPプロジェクトを担当するSE(プロジェクト・マネージャー)に、企業の要件を聞き取るだけでなく、ユーザーが属する業界の動向を基に、IT活用の在り方は「こうあるべきでは」と提言できる人材を選び、任せる。つまり、SI業者を選択するポイントは、企業よりも個人(SE)を見てということだ。

 とはいえ、業務の在り方について示唆できる力量を持つSEは少ない。そうしたSEの育成こそが、SI業界に期待されることだ。また、SEもそうした能力の獲得を目標とすべきだろう。

Profile

小林 秀雄(こばやし ひでお)

東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌『月刊コンピュートピア』編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、『今日からできるナレッジマネジメント』『図解よくわかるエクストラネット』(ともに日刊工業新聞社)、『日本版eマーケットプレイス活用法』『IT経営の時代とSEイノベーション』(コンピュータ・エージ社)、『図解よくわかるEIP入門』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)など


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