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» 2002年09月20日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン(97):HTMLメール普及を狙う広告業界 嫌われ者は受け入れられるか?

[高橋智明,@IT]

 文字情報だけの単純なテキストメールから、グラフィックや音声、さらには動画までを駆使したHTMLメールへ──。電子メールベースのインターネットビジネスが、テキストからHTMLへ急速にシフトしつつある。

クリック率が飛躍的に上がるHTMLメール

 オプトインメール(受信者の承諾を得て送信するダイレクトメールなど)サービス最大手のエルゴ・ブレインズは今年4月に、テキスト版のオプトインメールに加えて、HTML版の商品を投入した。1通当たりの価格は15円からと、テキスト版に比べて1.5倍以上するが、すでにオプトインメール全体の売り上げの1割を稼ぎ出すまでに成長しているという。物珍しさも手伝ってかテキスト版と比較してクリック率が数倍は見込めるため、1クリックあたりでは現在はHTML版の方が割安な状態にある。

 ネット広告大手のサイバーエージェントも、6月にHTMLベースのメールマガジンサービス、「メールビジョン」を開始した。現在、バラエティや音楽、スポーツなど8つのカテゴリーで33種類のメルマガを配信している。7月末時点での累積登録会員数は約580万人で、最も人気のタイトル「Lucky&Sunday」は、1タイトルで52万人の会員を集めている。

 利用が伸びてきたことで、テキストメールとHTMLメールの特性の違いやHTMLメールの有効な活用法なども徐々に明確になっている。「不動産のように説明をじっくりと読んでもらうタイプの商品に向いているテキストメールに対して、HTMLメールは視覚的に訴え短時間で購買衝動を起こさせたい商品に適している。たとえれば、スーパーの折り込みチラシに似ている」(ネットマーケティング支援サービスのカレン)。

 また、フォームで購入注文を受けつけたり、アンケート調査を行ったりしたい場合など、テキストメールではいったんURLをクリックしてもらい、所定のWebサイトに誘導する必要があるが、HTMLメールならメール本文にフォームを表示できる。そのため、ユーザーは直接入力して返信することが可能だ。たかがワンクリックと思われるかもしれないが、このワンクリックを省略できることでアンケートの回答率や購入率が飛躍的に上がるという。

韓国では100%がHTMLメール

 国内でHTMLメールの商業利用が本格的に始まったのは、2000年後半から。しかし当時はブローバンドの普及前夜で、ほとんどの一般ユーザーはダイヤルアップでインターネットに接続している状況だった。テキストメールに比べて、どうしてもデータ量が増えてしまうHTMLメールを、好んで受信しようというユーザーは多くはなかった。

 これに対して、日本より一足先にブロードバンド環境が整った韓国では、広告メールやメールマガジンのほぼ100%がHTML化している。米国でも半分程度がHTMLメールだ。日本もここへ来て、ようやくブロードバンドの普及率で世界のトップクラスに肩を並べる水準となり、今後、電子メールビジネスのHTML化がさらに加速する可能性は高い。

 ただし、懸念材料はある。「日本のネットユーザーはなぜかHTMLメールを必要以上に嫌っている」と業界関係者は口を揃える。カレンなどが今年5月に行った調査では、メールマガジンの愛好者のうち、「HTMLメールが嫌い」と答えた人の割合は約15%だった。昨年行われた同様の調査よりは減少しているが、調査の対象がメルマガ愛好者であることから実際の「HTMLメール嫌悪派」の割合はもっと高いと思われる。筆者も以前、HTMLメールの普及について記事を書いたときに、「見識を疑う」といった読者からの激しい反応が多数届き驚いたことがある。

課題はやはりセキュリティ

 HTMLメールが嫌われる主な原因は、セキュリティにある。テキストメールでウイルスが送られる場合、通常は添付ファイルを開かない限りは感染しない。しかし、HTMLメールでは本文やヘッダの中にファイルを実行するという記述を行うことができるので、メールを見ただけでウイルスに感染してしまうことがあるのだ。さらに、最もユーザーの多いメールソフトであるOutlook Expressのデフォルト設定(Internet Explorer含む)では、HTMLメールをプレビューするだけでスクリプトが動き始めてしまう。メールを受信した途端にパソコンがクラッシュするなど、手を打つ間もなく、被害を受けてしまうかもしれないのだ。ただし、こうした事情はほかのネット先進国でも変わりはない。なぜ日本だけHTMLメールがこんなに嫌われるのかよく分からない、というのが実情だ。

 こうした状況を変えていくには、関係者がねばり強くネットユーザーを啓蒙していくしかない。サイバーエージェントの藤田晋社長は、「ブロードバンドの普及は、インターネットビジネスをアマチュアからプロフェッショナルに変えることになる」と話す。Webサイトの作成でも、文字中心から静止画や動画を使えるようになり、色やデザインの自由度が増す中で、制作者の力量の差が明らかとなった。電子メールビジネスにも、同じことがいえるはず。HTMLメールが1つのビジネスに育つかどうかは、日本のネットビジネスの成熟度を測る指標でもある。

Profile

高橋智明(たかはし ともあき)

1965年兵庫県姫路市出身。某国立大学工学部卒業後、メーカー勤務などを経て、1995年から経済誌やIT専門誌の編集部に勤務。現在は、主にインターネットビジネスを取材している。


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