連載
» 2003年03月01日 12時00分 UPDATE

統合CRMを支える情報基盤(1):顧客起点経営に必要な全社データ統合 プロセス統合を補完するデータウェアハウス

ERP、SCM、CRMなどに分類される企業内の各プロセス(システム)を全社レベルで統合するソリューションが提案されるようになってきた。その目的は、市場や顧客に対して迅速かつ適切な対応を全社レベルで行うことだ。いわば拡大されたCRMともいうべき、顧客起点のビジネス・プロセスを実現するためには、どのようなシステム的裏付けが必要なのだろうか? 短期集中連載でエンタープライズ・データ統合について解説する

[泉谷 章,日本NCR株式会社]

ERP・SCM、CRM、BPMの導入だけでは不十分

 20世紀後半から始まった情報化社会は、顧客が経済の主役である“カスタマー・エコノミー”をもたらした。多くの大手先進企業では21世紀における生残りをかけて、従来の自社の製品やサービスを中心とした経営から、顧客にとっての価値を最大化する「顧客起点経営」への転換を目指して懸命の努力を行っている。

 従来の企業システムは開発、生産、販売といった業務ごとに構築され、各業務ドメインでの最適化が図られてきた。これらの部分最適のΣ(総和)は当面の企業にとっての価値に寄与しても、顧客価値最大化の観点からは全体最適として機能しないことが分かってきた。

 そこで顧客の目線から、顧客にとって意味のある、すなわち顧客に価値をもたらすビジネス・プロセスの再構築の必要性が認識され、各社はいろいろな業務革新プロジェクトを遂行している。

 基幹系における業務革新プロジェクトの代表はERP・SCMプロジェクトで、情報系の代表はCRMプロジェクトといえるだろう。これらのプロジェクトを成功させるためには、ERP・SCMやCRMのパッケージを導入するだけでは不十分で、また各プロセスを構成する複数システムを再構成・統合するBPM(Business Process Management)の実施だけでも不十分である。

 顧客価値最大化のためのビジネス・プロセスを構成する各システムには、顧客の視点から自由に情報を共有できるデータ統合も必要である。それによって社員のみならず、すべてのステークホルダーからもデータを共有できなければならない。

 また、各プロセスとプロセス連携が、本当に顧客の価値にとって役立っているかの評価指標が全体最適の観点からフレキシブルにモニタでき、問題があれば明細データまでさかのぼって真因を発見できる情報基盤が必要である。

 以上の観点から、顧客起点経営を実現するために、そしてERP、SCMやCRMの導入を通じた業務革新を真に実現するには、エンタープライズ・データウェアハウス(EDW)の導入が考慮されることになる。

 

大手企業の生き残りをかけた挑戦

 メーカーA社では、

  • お客さま満足へのクイックアクション
  • 重点分野、新規事業分野へのパワーシフト
  • 実践事例、ノウハウ、人材による営業活動支援およびグループ内への展開

を狙いにITを活用した業務革新を進めている。

 基幹業務においてはお客さま満足へのクイックレスポンスを基本方針に、最短でシンプルなビジネス・プロセスの再設計に取り組んでいる。

 支援業務においては、ミニマムパワーで最適サポートを基本方針に、本社部門横串の業務革新に取り組んでいる。

 これらの業務革新の基盤として、グループ間での情報の共有を図る情報インフラの整備が図られている(A社Webサイトより)。

 メーカーB社では、

 「ビジネスの原点は、お客さまに価値のあるものを提供し、お役立ちすることによりいただいた対価を、私たちの活動の原資にして、さらに大きな価値を創り出し、お客さまから評価をいただき信頼を得ることです。「『私たちが目指すもの』で宣言した意思を、責任をもって実現していくスタートポイントとして、まずお客さまの満足を大切にしていかなければなりません」(B社Webサイトより)。

 このB社でもお客さまへの価値を最大化すべく、開発から生産、販売、ロジスティックスなどの改革チームを編成し、最新のITを活用した業務革新を推進中である。

 メーカーC社では事業戦略として「顧客主体のビジネスモデル確立」を掲げ、メーカーD社では「お客さま本位のサービスを起点としたビジネス」を掲げている。

 メーカーE社では、行動基準の1つとして「お客さまの満足を先取りする(顧客主義)」を掲げている。このように大手先進企業が顧客を起点とした経営を目指している例は枚挙にいとまがない。

ビジネス・プロセスの再構築と最新ITの活用

 各社に共通していえるのは、お客さまを起点として経営を考え、お客さまへ提供できる価値を最大化するためのビジネス・プロセスを、最新のIT(インフォメーション・テクノロジ)を最大限活用し再構築しようとしていることである。

 受注から出荷までの受注業務処理を考えた場合、顧客にとっての価値は間違いのない製品が短納期で届けられることである。例えば、現状の納期は15日間かかっているとしたら、実際の受注処理と配送時間は1.5日で残りの13.5日は各業務システム間のキューにたまった待ち時間であることが多い。この場合の顧客価値最大化の努力は、現状の組織の都合ではなく顧客の目線で、受注から出荷までのプロセスを再設計しサイクルタイムを短縮することであろう(図1)

ALT 図1 ビジネスプロセスの設計・再構築は、顧客価値最大化を目標に行われることが重要
*図の著作権は日本NCR株式会社に帰属

 多くの企業では従来、会計や人事給与、生産管理、受発注管理といった基幹業務をメインフレーム・ベースで構築してきた。やがてオープン化の時代が始まり、最初に情報系システムの再構築が行われた。その後Web技術を利用したイントラネットやECシステムなどが追加されていった。また、基幹系システムをオープン系へと移行する企業も多く,現在では1つの企業の中に多様なシステムが混在するのが当たり前になり、ビジネス・プロセスを長期化させる原因にすらなっている。

 そこで各社は、基幹系においては従来の業務縦割りのシステムから、発生した1つのトランザクションが業務横断的に一気通貫のプロセスとして結び付けられた統合的なERP・SCMの導入によって、ビジネス・プロセスの改善を図り顧客満足へのクイックレスポンスを実現しようとしている。また、最近では設計から製造、顧客サポート、設計変更、生産終了まで製品の生涯(ライフサイクル)にわたって品質やコストを管理する考え方であるPLM(Product Lifecycle Management)を導入する企業も現れている(図2)

ALT 図2 組織の都合による個別のシステムを超えた、業務横断的なプロセスの構築が急務
*図の著作権は日本NCR株式会社に帰属

 ところが、開発、調達、生産、販売、出荷に至るすべての業務を1つのシステムで構築することは不可能で、現実的には複数のシステムから構成される。そして基幹系の複数のシステムをEAI(Enterprise Application Integration)などによるBPM(Business Process Management)によって、プロセス統合を図ろうとその導入を検討している企業も多い。

 支援業務系においても、一般的には本社の部門間の横串をグループウェアなどのワークフローによって、統合化されたビジネス・プロセスを実現しようとしている。また、インターネットを利用して企業間の壁を越えたパートナー企業間でのインターネット・ワークフローを目指す企業も現れている。

プロセス統合とデータ統合の必要性

 基幹系、支援系のいずれにおいてもプロセス統合だけでは顧客価値最大化といった目的を完全に実現することはできない。新しいビジネス・プロセスを構成している複数のシステムが自由にデータを共有し合うためのデータ統合も必要になる。

 また、顧客に最大限の便益をもたらすためには、社員のみならず、サプライヤや販売代理店などのすべてのステークホルダーが情報を共有すべきである。先ほどの受注業務処理を例に取れば、工場から配送センターに出荷された製品が、道路事情により計画どおり配送センターに到着するとは限らない。

 それが到着順に先入れ先出しで顧客への出荷のために小分けされると、顧客サービスの観点からクリティカルな顧客出荷に、納期遅れが起きる可能性が高い。これを防ぐために、配送センターに到着した実績データを配送計画システムや在庫引当システムなどの計画系システムに戻し、再計画することは時間的に不可能である。

 顧客約束納期、顧客重要度、配送センター計画到着日、配送センター到着実績データ、顧客配送リードタイムなどのデータが一元管理されていれば、ダイナミックに引当変えを行い、小分け作業の優先度を再計算し顧客サービスの向上を図ることができる。このようにプロセス統合は各プロセスのパイプラインの短縮にはなっても、刻々と発生する計画と実績のずれに対するアクションには弱く、ERP、SCM、CRMに散在する関連データの一元管理によるデータ統合が必要となる。

 一時のデータウェアハウスは、経営レベルの戦略意思決定支援システム(DSS)として少数のユーザーに使われてきたが、今日では上記の例のように日常業務の中で刻々と発生する戦術的判断業務に多くのユーザーが使うシステムとして進化している。このような使い方はニアリー・リアルタイムにデータがアップロードされることが前提となり、ADW(Active Data Warehouse)と呼ばれている。

 上記のようなビジネス上の問題は基幹系の完全なプロセス統合によって解決できるという考え方もあるが、果たして、国内、海外のすべての工場や物流拠点のERPやSCMシステムの標準化や、その前提となる業務プロセスの標準化が完成するのはいったいいつのことであろうか。

 企業内で発生するデータが一元的に統合されていれば、そのデータの発生源である日々変化している既存システム間をデータを中心にシンクロナイズして、顧客価値最大化のプロセスを実行することは可能である。

 情報系のCRMでも、対面、電話、Web、電子メールなどのすべての顧客とのチャネルアプリケーションが必要であるばかりか、各チャネルでの一元的な対応を実現するための統合顧客データベースの構築が必須となる(図3)

ALT 図3 CRMにおいては、多様な顧客接点をサポートするマルチチャネルを実現するためには統合データベースが必須となる
*図の著作権は日本NCR株式会社に帰属

分析と評価のための統合的情報基盤

 基幹系、支援系、情報系のいずれにおいても、顧客価値最大化のためのビジネス・プロセスを構成する各システムが保有するデータを、各システム間にまたがって活用することは可能であろうか。一般のビジネスユーザーが、場合によってはOracle、DB2、SQL Serverなどの異なるRDBMS環境で、SQLを使って各システム間でのデータ形式やフィールド長の不一致を「整理」「変換」しながら複雑なクエリを発行することは現実的ではない。

 定型問い合わせを事前に設定し、がちがちにプログラミングできるとしても、その処理の複雑性やメンテナンスビリティーを考慮した場合、すべての共有すべきデータは各システムからはニュートラルな仕組みで保管されるべきである。エンタープライズレベルでデータが統合されたエンタープライズ・データウェアハウスが存在すれば、エンドユーザーは計画と実績の差異、その差異から次に起こるであろう事態の予測、顧客価値に悪影響を与える差異や予測に対する予防アクションの決定などを、市販のOLAP(OnLine Analytical Processing)ツールを使用して、容易にまたアドホックに対応することができるであろう。

 処理の複雑性やメンテナンスビリティーの問題を、サイクルタイムの長期化やデータの不整合といった形で顧客に押し付けてはならないのである(図4、5)

ALT 図4 ビジネスプロセス統合を指向している企業でも、従来はもとになるデータは部門単位で管理するため、全体像を全社共有できない
*図の著作権は日本NCR株式会社に帰属
ALT 図5 顧客価値創造経営のためには、全体最適を考える必要性がある
*図の著作権は日本NCR株式会社に帰属

 また、各システムにはその目的の達成度を評価するためのKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)レポートが組み込まれているが、一般的には固定的でかつ、各システムの部分最適を評価するものである。顧客価値創造経営において部分最適のΣは全体最適にはならない。

 顧客起点経営を実現するための新しいビジネス・プロセスの各プロセスとプロセス連携とデータ統合が、本当に顧客の価値にとって役立っているかの評価指標が全体最適の観点からフレキシブルにモニタでき、問題があれば明細データまでさかのぼって真因を発見し、改善のアクションにつながる情報基盤を構築していくことが必要となるのである。

エンタープライズレベルでのデータ統合の意義

 以上のように、顧客起点経営によって顧客価値創造企業たるべく、顧客にとっての価値を最大化するビジネス・プロセスを再構築する場合、プロセス間に無駄な滞留を発生させないためのプロセス連携と、ビジネス・プロセスを構成する各システムからはニュートラルで、各システムが自由にほかのシステムで発生したデータを共有できるデータ統合が必要である。

 そして全体最適のためのフレキシブルな評価が可能で、問題となる評価指数が発見されたときに、その真因を明細データまでさかのぼって発見することで改善のアクションにつなぐことができるエンタープライズ・データウェアハウスは顧客価値最大化の最後の要であるといえよう。

 プロセス統合とデータ統合は顧客起点経営にとって車の両輪であり、ERP・SCM/CRMとEDWが補完し合うことによって初めてシステムが完結するのである。

著者紹介

▼著者名 泉谷 章(いずみたに あきら)

日本NCR株式会社 ソリューション統括部 エグゼクティブ・コンサルタント

ERP・SCMの前身であるMRPのソリューション・ビジネスに長年携わり、1996年には日本で最初のコールセンター、SFA、フィールド・サービスなどのオペレーショナルCRMビジネスを立ち上げる。2000年からはアナリティカルCRMに活動領域を広げ、現在は統合CRMのみならずERP、SCMを含む顧客起点経営のためのビジネス・プロセス革新とデータ統合のコンサルティングに従事


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