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» 2003年06月17日 12時00分 UPDATE

Business Computing事例研究:【株式会社大塚商会】新メッセージング・システム導入に際して“投資効果”を定量的に算出──ROIは246%

情報システムからOA機器まで、IT分野で幅広いソリューションを提供する大塚商会は、自身も大規模なITユーザーである。同社にとって新社屋への移転に合わせての新たなコミュニケーション・システムの導入は、ある意味で必然であったかもしれない。しかし、同社は新システム導入に際して、あえてシステム導入の「定量的」な投資効果測定に取り組んだ。

[小柴 豊,@IT]

 東京・飯田橋の旧国鉄保有地跡にオフィスビル群が林立している。2003年2月に竣工した大塚商会の新本社ビルもその一角を占める。新本社ビルの活用に当たって、同社は、経営理念である“顧客満足の追求”をさらに推進させるため、新たなコミュニケーション・システムを構築した。具体的には、ブラウザ・べースで音声(電話)も電子メールもFAXもやり取りできるユニファイドメッセージング・システムを導入するとともに、メッセージング・システムと企業ポータルとの融合を図ったシステムだ。

 このメッセージング・システムの導入に当たって、同社は投資効果を定量的に算出した。その結果、ROI(投資利益率)は246%、投資の回収期間は13カ月という数字が得られた。この明確な投資効果をもとに、常務会はメッセージング・システムの導入にゴーサインを出した。同社はシステム導入をする際、これまで「このくらいの効果が出るだろう」という定性的な見込みを持ってIT投資を行ってきたが、定量的な手法を用い、数値としてIT投資の効果を導き出したのは初めてのことだ。「IT投資の効果を定量的に把握したい」という要求は企業のCIOや情報システム部門の間で高まっている。

 大塚商会はいうまでもなくIT関連企業の大手だが、そのプロセスは一般の企業にも通じるものだ。以下、大塚商会がどのようなプロセスを経てROIを算出したのかをリポートする。

ビジネス・コミュニケーションの最適化を目指す

 まず、ユニファイドメッセージング・システム導入プロジェクトの概略を見ておこう。

 ユニファイドメッセージング・システムは、電子メール/グループウェアに代表されるコンピュータ・べースの情報共有システムと、音声・FAXを中心とするコミュニケーション・システムとをパソコンから統合的に利用できるシステムを指す。コミュニケーション・システムをサーバ上で管理することによって、インフラ・コストを削減できるとともに、音声の伝言メモを社内外から聞くことが可能になるなど、利便性も向上する。

 大塚商会がユニファイドメッセージング・システムのコア製品として採用したのは、日本アバイアのユニファイドメッセージング製品「Avaya Unified Messenger Solution - Microsoft Exchangeバージョン」、マイクロソフトの「Windows Server2003」、大塚商会の100%子会社であるオーエスケイのポータル製品「EasyPortal」である。

r3kasahara01.jpg 大塚商会 企業通信システム営業部サポート3課 課長代理 笠原淳一氏

 同社は、新本社を建設するに当たって、新しいコミュニケーション・インフラ構築を検討するためのプロジェクトを発足させた。同プロジェクトが対象としたのは、

  1. WANを含めたデータ系のインフラ
  2. テレビ会議システム
  3. PBX/音声系のインフラ

などだ。同プロジェクトに参画した笠原淳一氏(企業通信システム営業部サポート3課課長代理)は、「PBX/音声系のシステムをグループウェアに統合して、ユニファイドメッセージング・システムを構築したい」と意識していたという。それは、大塚商会にとって、「“顧客満足”が一番の経営理念」(笠原氏)なのだが、いままでのコミュニケーション・システムでは、それが十分にできないと考えていたからだ。


 ビジネス・コミュニケーションには、「顧客とのコミュニケーション」と「取引先・協力会社を含めた社内のコミュニケーション」がある。同社は、新人教育で顧客第一主義を徹底させており、電話での対応も顧客第一主義。笠原氏はそれを「フルサービス」表現する。そのフルサービスの精神が、社内コミュニケーションにも反映されていた。不在の上司の電話を部下が受け、応対して伝言をメモするといったことがその典型だ。それは「親切」には違いないが、一方で、電話を受ける社員にとっては仕事を中断するという非効率をもたらす。

 ユニファイドメッセージング・システムを導入すれば、社員は不在の社員に変わって電話に出る必要がなくなる。かかってきた電話のメッセージは、メッセージング・システムに蓄積される。外出している社員は携帯電話は社内ネットワークに接続したパソコンで自分あてのメッセージを確認できるようになるからだ。

大塚商会におけるIT投資決定のメカニズム

 大塚商会におけるIT投資決定のプロセスには、2つの流れがある。それを分ける基準は投資額だ。一定の投資金額を境に、それ以下の案件と、それ以上の大規模な案件とで起案から決定までのプロセスが異なるわけである。まずスタートは、それを必要とする部門が「システム相談依頼書」を書いて、同社の情報システム部門であるトータル情報システム室に要望を出す。トータル情報システム室では、どれくらいの費用がかかるかを算定し、一定の金額以内で納まる案件の場合は、トータル情報システム室が開く会議で投資を実行すべきか否かを判断する。一定金額を超える案件の場合には、「開発企画書」を書き、「社内システム開発検討委員会」に提出して判断を仰ぐ。ゴーサインが出れば、常務会に諮り、常務会の了承を得て正式なプロジェクトとしてスタートを切る。今回のメッセージング・システムの導入は、トータル情報システム室が起案し、常務会で決定されたプロジェクトだ。

r3kawasaki01.jpg 大塚商会 トータル情報システム室課長代理 川崎多(まさる)氏

 IT投資を実行すべきかどうか。同社がそこを検討する際に重視しているのは、「これだけの投資をすれば、これだけ便利になるという効果を出せるか」(トータル情報システム室課長代理の川崎多氏)ということである。それが、投資を実行するか否かの基準となる。

 前述したように、同社では「このIT投資を実行すればこのくらいの効果が出るだろう」という定性的な効果把握を行ってきたのだが、今回はマイクロソフト社のREJ(Rapid Economic Justification)というIT投資効果測定手法を利用して数値として効果を算出した。


大塚商会におけるマイクロソフトREJ利用の流れ
2002年6月 マイクロソフトにコンサルティングを依頼(投資効果測定のために必要な収集データについて両社で確認)
2002年9月 社員に対するアンケート調査を実施(実施から集計まで約1カ月)。アンケートによって得られたデータの評価を行う(マイクロソフトのコンサルタントとのディスカッションに約1カ月)
2002年12月 REJによる結果を常務会に報告
2003年7月以降 ユニファイドメッセージング・システムを展開
表1 今回のスケジュール

大塚商会サイドも協力してデータを集計

 REJは次の5つの基本的なステップにより、実行される。

  1. ビジネス理解するビジネス・アセスメント
  2. ビジネス上の優先事項とそこに効果をもたらすソリューションの適用
  3. ITコストとIT化によるビジネス価値を算出
  4. リスク分析を踏まえた価値算出
  5. 財務用語によるIT投資の価値説明

 最終的にはROIで投資の価値が示される。財務的な利益はキャッシュフローをもとにして試算するものだ。

r3itroi2_2.gif 図1 REJの5つのステップ(マイクロソフト資料より)

 では、大塚商会とマイクロソフトはどのようなプロセスでIT投資の効果を測定したのだろうか。

 REJの最初のステップは、「ビジネスの理解」だが、これは、測定サービスを受ける大塚商会にとっては、明確だった。それは、ビジネス・コミュニケーションの最適化だ。次のステップで行う適用ソリューションの検討も、ユニファイドメッセージング・システムであり、すでに検討が済んでいた。大塚商会におけるREJの利用は、ソリューションがもたらすビジネス上の価値を測ることからスタートしたと言える。

 そのプロセスでREJが行うのは3つ目のステップ、つまり実際にソリューションを導入した場合の効果について社員をはじめとするステークホルダーからヒアリングすることだ。そのステップは、大塚商会の社員がマイクロソフトコンサルティング本部に協力する形で行われた。

 REJは、IT投資が生み出すベネフィット(利益や利便性=効果)を算出する方法を持っている。まず、ヒアリングに当たって、どんな質問をするのかがREJの方法に組み込まれている。そして、質問から得られた回答をREJのベネフィット算出方法に落とし込んでいけば、ベネフィットがROIという数値として得られる仕組みだ。だが、有効な回答を得るためには、REJによる質問を社員にわかる形で伝えることが求められる。

 REJは、どんな企業にも通用する手法として確立されている。それは、裏返せば個別企業の社員にとっては、質問が抽象的に聞こえることでもある。質問に対する的確な回答を得ることが投資の価値を導き出す出発点となる。そこで、「REJが求める情報をREJを受ける側がどうやって入手するか、コンサルタントとエンドユーザーをどうやってつなぐかが、プロジェクト・チームの一番の仕事だった」と笠原氏は振り返る。実際、同社のプロジェクト・チームがマイクロソフトのコンサルタントと社員の間に入り、REJの質問を「翻訳」し、回答を得るということに取り組んだ。プロジェクト・チームが自ら汗を流したわけだ。

 例えば、マイクロソフトが設定した質問に「電話の取り次ぎによる思考の中断は起きていますか」というものがあった。しかし、それをダイレクトに社員にぶつけても社員にはどう答えたらいいのか分かりにくい。そこで、質問をプロジェクト・メンバーが「ひもといてあげる」(笠原氏)という作業を行った。そのほか、「1日に何本の電話がかかってくるか」「そのうちの社内と社外の電話の本数は」「取り次ぎの回数は」「伝言メモは何回残していくか」「FAXを取りにいく回数は」というアンケート調査が行われた。その目的は、コミュニケーションに伴って社員がどういうことにどれだけの時間を使っているかを明らかにすることだ。

 ヒアリングをしたのは、営業、SE、販売促進、総務など4〜5セクション。1グループ当たり5〜10人に聞き、全体で50〜60人から回答を得ている。これは、新本社ビルで仕事をする同社社員1500人の5%ほどに相当する。アンケートは、イントラネットなどWebを通じて書き込んでもらう方法もあるが、同社ではプロジェクト・チームのメンバーが社員にマン・ツー・マンに近い形でつきそい、紙に書いてもらって情報収集を行った。ヒアリング開始から集計までにかかった期間は1カ月ほどだったという。

リスクを考慮してデータに重み付けを加える

 アンケートで得られたデータは、投資の価値を算出するべースとなるものだが、それをREJが持つ数式に当てはめてアウトプットすれば完了というわけではない。ある意味で、そこからが投資価値算出のスタートなのだ。

 例えば、アンケートを集計すると、ある質問項目について「生産性が70%向上する」といった数字が得られるが、それをそのまま採用するのではなく、リスク分析を加えることが必要となる。本当にそれだけの効果が上がるのか、実効度を評価するわけだ。それが第4のステップである。

 ユニファイドメッセージング・システムを導入したことにより、仮に社員全体で「1日100時間」のロスが解消されるという数字が出たとしよう。REJでは、それを70%と見るといった重み付けを加えるのである(この場合は70時間のロス解消と算出)。大塚商会の例でも、アンケートで得られた数字はおおむね「良すぎる」ものだったという。そこで、マイクロソフトのコンサルタントと大塚商会のプロジェクト・チームで数回にわたるディスカッションを重ね、アンケートで得られた数値に対する係数(%)を定めていった。係数は楽観値ではなく、悲観値から考えるアプローチだ。

 そのように計算すべき項目(約20項目)に対して、重み付けを行った上で出てきたのが、ROI 246%という数値である。そのベネフィット(投資に対する付加価値)の内訳は、インフラ関連が51%、電話を受ける側が39%、電話をかける側が3%、FAXの受信が7%である。

r3graph01.gif グラフ1 ベネフィットの内訳(大塚商会の発表資料より)

 インフラ関連では、サーバが集約されることにより、メンテナンス・コスト(人件費)が削減されることがベネフィットとなる。電話を受ける側のベネフィットは、「上司の電話をとる必要がなくなる」「伝言メモを書く必要がなくなる」といったことで、「思考の中断」といったロスを本来の仕事、つまり価値創出に振り向けられるようになることを意味する。

 一般的にベネフィットには、コストや無駄な時間の削減も含まれるのだが、大塚商会が目標として見据えたのは顧客満足度の向上だ。「得られたベネフィットによって生まれた余裕を使って、お客様に対するサービスレベルのさらなる向上が可能になる。それがベネフィットの使い道」と笠原氏は語る。REJ利用の目的も、顧客満足度の向上を目指すためだ。

 さて、REJも含めて、IT投資効果測定サービスは、「プロジェクトを実行すべきだ」「再検討すべきだ」「プロジェクトを中止すべきだ」というように、プロジェクト自体の可否も提言する。大塚商会のユニファイドメッセージング・システム導入プロジェクトはもちろん「実行すべき」と判断され、2002年暮れに常務会に報告された。

 同社では、「大きなプロジェクトを実行するときに、どれだけのベネフィットが得られるか、その結果をチェックする意味でもいいツール」(川崎氏)とREJなどのIT投資効果測定ツール/サービスを評価する。IT投資の定量的な把握は情報システム部門にとってはキーワードだ。ITを提案する側にとってもそれは同じ。同社自身のビジネスにもIT投資効果測定を取り込んでいきたいという。

 算出された投資価値を現実のものとしていくためには、システムを定着させ、活用を図っていく努力が欠かせない。大塚商会はそのプロセスが始まったところである。


 IT投資の効果を測定するツールやサービスは、「特集:いまから始めるIT投資効果測定」でもリポートしたようにほかにもある。いずれも方法論に数値をインプットするのだが、実際の作業はシンプルではない。まず、ビジネス戦略や、それ基づいて何を得たいのかというビジネス上のポリシーが明確でなければならない(REJでは第1ステップに相当する)。また、REJの第3ステップや第4ステップでは、社員にアンケート調査を行い、結果に対する重み付けを行うのだが、そこで大塚商会のプロジェクト・チームとマイクロソフトのコンサルタントが行ったようにディスカッションを重ねる必要がある。

 IT投資効果の測定はコストがかかる。それを有効なものとするためには、利用サイドが十分な準備を行い、また実行に当たってもデータ収集やそのデータを理解や解釈などの面で主体的に関与していくことが大切だ。

Corporate Profile

株式会社大塚商会

本社所在地:東京都千代田区飯田橋2-18-4

創業:1961年7月17日

資本金:103億7400万円

取締役社長:大塚裕司

事業内容:システムインテグレーション事業

サービス&サポート事業

URL:http://www.otsuka-shokai.co.jp/


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