【株式会社NTTドコモ】業務フローとデータフローを一体化させたリアルタイム経営戦略システムを構築Business Computing事例研究(2/2 ページ)

» 2003年07月26日 12時00分 公開
[岩崎史絵,@IT]
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DWHをミラーリングし24時間のフル稼働を実現

 DREAMSの全体構成は次のとおり。まず、エンドユーザー用の入力システムとしてスケジューラとワークフローを組み合わせた「OAシステム」を提供している。クライアント端末にはJavaプログラムを配布してTCOの削減も実施しているそうだ。

 バックエンドの仕組みは大きく2つに分けられる。1つは収益管理用システム群で、営業収益管理を賄う「ALADIN」「料金システム」と、営業外収益を管理する新収入管理システムがこれに含まれる。もう1つは、主に経費管理を担う契約管理システム群。契約管理や固定資産管理、人事給与システムなどだ。また、代理店手数料などの販売に関係するデータについては、ALADINと連携させて必要データを取得できる仕組みを備えている。こうした各業務システムから会計情報を吸い上げ、会計システムに蓄積していく。さらに経営分析用のデータウェアハウス(DWH)システムとしてハイペリオン社の「Hyperion Essbase」を使い、会計データのほか、販売台数や各店舗の在庫状況、トラヒック情報といった非会計情報を蓄積。エンドユーザーは、Essbase専用のBIツールを使って自由に定型・非定型分析ができるという。

 まず営業収益と代理店手数料を把握するのが「料金システム」と「ALADIN」だ。料金計算については前述のとおり日次処理に変え、またALADINとの連携により業務の発生とデータ入力の同期を実現した。営業外収益については新たに「収入管理システム」を開発、また労務費・保険費については「契約管理システム」を新たに構築し、そのデータを人事管理システムに連携させる仕組みを整えた。ちなみに契約管理システムでは、営業外費用の管理も行っている。例えば物品費については、「物品情報システム」と契約管理システムを連携させることで対処しているといった具合だ。そのほか通信設備使用料や減価償却費、固定資産費用などについては「設備会計システム」で管理している。

 会計システムは、これらすべての基幹システムのデータを日次・月次で受け取り、収益を把握。分析用DWHには、会計システムからの収益データと、ALADINから来る販売実績やトラヒック情報といった非会計データを受け取り、経営情報としてエンドユーザーに提供している。分析の切り口は多種多様で、あらゆるケースを想定して画面を出力できるようになっている。これにより、システム構築時に掲げた「管理会計の充実」というコンセプトを実現した。また制度会計へのスピーディな対応についても、日次の業務処理がそのまま制度会計につながるので、従来に比べ決算処理が大幅に軽減できるというメリットも生まれた。

 技術的な特徴として、DWHシステムを24時間フル稼働させている点が挙げられる。通常、DWHをフル稼働させる例は少なく、基幹システムから夜間バッチでデータをもらって更新を掛けるというのが一般的だ。だがドコモでは、SAN(Storage Area Network)を使って24時間運転を実現した。これにより、「いつでもリアルタイム情報を閲覧できるようになった」(西川氏)とのことだ。

 契約管理サーバ、ファイナンスサーバ、マスタ管理サーバ、DWHサーバなどの各サーバは、UNIXやNT上に構築され、中央センターに集中配備されている。業務用のRDBMSには日本オラクルのOracle DBを使用している。

情報公開により社内アカウンタビリティを確立

 では次に、経営分析システムとしてのDREAMSを見ていこう。主な特徴としては、次の3点が挙げられる。

 1点目は、目的に合わせ事業部・県・組織別など、多様な分析視点を提供していること。2点目は、関連する経営情報をツリー構造で表示していること。例えば「営業利益」を見ると、「営業収益」と「営業費用」の差分から成っていることが分かり、収益と費用はどのような内訳から成り立っているかツリー構造で把握できるわけだ。そして3点目は、アラーム表示による予実管理を実現していること。プロジェクトごとに、事前に入力した事業計画値と実際のデータがどれくらい乖離しているかを基に、赤・黄・青で色分けして表示する。赤は異常値を表し、ドリルダウンしていくことで異常値の発生源の特定や原因究明ができるようになっている。非会計データも同様に、機種別販売台数や日次ごとの売れ行き状況から、パケット数の推移、故障件数とその内訳などもドリルダウンして見ていけるという。 「会計情報としては、経常利益や純利益、営業費用などをはじめ、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書などの財務諸表を定型検索メニューとして提供しています。非定型検索メニューでは、設備費や経営管理費用などの明細データが見られるようになっています」(西川氏)。

 ユニークな点は、「モニタリング機能」を充実させたことだ。各部門などの管理費や交際費、タクシー費などの費用を閲覧できる仕組みだ。「それまでは、タクシー費や交際費など『減らせ』というだけでした。しかし発想を転換して、『使ってもいいけど、その情報を全部公開するので社内に対して説明責任を果たしてほしい』という方向に変えたのです。これにより、逆に無駄な経費を削減する効果が生まれました」(西川氏)という。ちなみにこの方策、西川氏は「北風と太陽」と名付けているそうだ。

 そのほか特筆すべき機能としては、グループ資金の一元管理、グループ間取引管理、人事異動・組織改変への対応などが挙げられる。ドコモの場合、親会社に集中口座を設けることで各グループ企業の資金をプールしておき、各社は帳簿上の残高を処理する仕組みを確立している。社員への給与支払いはもちろん、取引先への支払いや利用者からの料金についてもここで集中管理しているという。さらに各グループ会社間での支払い情報と請求情報を一体化するためにDREAMSでEDI連携を実現することで、無駄な資金移動を削減しているというわけだ。

 また人事異動や組織変更についても、ワークフローツールと組み合わせることで柔軟な対応を実現した。例えば人事異動については、人事部が異動情報をシステムに書き込むと、異動日に人事マスタが自動的に更新される仕組みになっている。また休暇情報、勤務データ、時間外申請データ、ワークフローデータなど、その個人にかかわるデータがすべて自動的に置き換えられるので、エンドユーザーは異動後も普段どおりにシステムを使うことができるわけだ。組織変更についても同じように、経営企画部などが新規組織を計画・マスタデータを作成し、人事給与システムを経由してDREAMSにデータが流れる。その後新組織と旧組織の対応表を作り、新組織発足日に関連マスタを一括変換すると、セキュリティやワークフローなどの関連情報も一括変換される仕組みだ。DREAMSが稼働して1年以上経過するが、その間グループ企業37社・延べ1000組織の組織変更を難なくこなしているという。

経営陣こそシステムを使いこなすべき

 西川氏は、DREAMSの導入効果として2点挙げている。1つは「リアルタイムマネジメントの実現」だ。いま走っている取引のリアルタイム状況が把握できるので、スピード経営が実現されるほか、リスク軽減などの効果も見られるという。

 またこれに付随して、業務品質の向上も実感されるようになった。ここでいう業務品質とは、「業務プロセスそのものが正確で漏れがない」ということだ。業務発生とともにデータを担当者が入力するフローを確立したことで、正確性はもちろん、業務スピードも格段に上がることになった。西川氏は語る。「通常、業務品質を向上させようと思ったら、いろいろなチェックが必要になり、稼働経費がものすごく掛かることになります。もちろんDREAMS導入により、稼働も増えたという社員もいますが、旅費や時間外申請などの日常業務はワークフローツールが処理するので、一般的にいうと稼働コストは抑制しつつ、業務品質を格段に向上させることができました」。

「情報システム部門が業務改革の担い手であるべき」と語る西川氏

 もう1つの効果は、「情報の共有化・公開の実現」だ。これにより、各部門のアカウンタビリティが確立されたことで、将来的に不正防止にもつながると考えられる。先に述べたように、部門費やプロジェクト費の明細を全社員が閲覧できることで、自然と無駄な経費を抑えるような意識が生まれるのだという。「こうした効果を含め、NTTドコモの社員にとっては『より生産性のある仕事にシフトできる』という点が最も顕著に表れる結果だと考えています。従来は情報集めが仕事の大半を占めていましたが、こうした日常作業はDREAMSに任せ、より生産性の高い仕事や企画立案などに時間を割けるようになるでしょう。もちろん1年ですぐこうした効果が表れたわけではありませんが、徐々にそういう方向に向かいつつあることを実感しています」(西川氏)とのことだ。

 こうした変化は、経営層についても同じこと。これまでは「知らない、報告を受けていない」ということもやむなしという風潮もあったが、DREAMSがある以上、リアルタイムな経営データをいつでも取得できる。「数字を見ていない」というのは、経営層にとって許されないわけだ。西川氏は「このシステムにより、『自らがデータを取得し、どのように分析し、それを経営判断にどう生かしていくか』という経営手腕が一層問われるようになりました。その意味で、経営者受難のシステムだと思います」という厳しい意見を示す。画面をまったく見ない経営者に対しては、「将来、その姿勢がそのまま業績評価につながる日が来るでしょう」(同)とも。これが「企業文化の革新につながる」(同)と、同社では見ている。

 実はシステム稼働直後は、多くの社員が「まだ十分に使いこなせていない」という状態だった。導入後、3カ月ほどたってから派遣社員なども入れて全員にアンケートを実施した。その時点では全ユーザーのうち3割程度のスタッフしかシステムを使いこなしておらず、残りは「まだ使いこなすには時間がかかる」という状態だったという。こうした状況を打破するため、原因を分析した結果、運用ルールが定まっていないことや、業務の準正常処理が機能的に不足していることが判明。講習会を開催したり、マニュアルを整備することはもちろん、早急にシステム機能改善をした結果、2003年3月にもう1度行ったアンケートでは74%の社員が「十分使えるようになった」と回答。今後も利用者の視点に立ち、フォローアップを実行することで、より定着化を図る構えだ。

Corporate Profile

株式会社NTTドコモ

本社所在地: 東京都千代田区永田町2丁目11番1号 山王パークタワー

創業: 1992年7月

資本金: 9496億7900万円

代表取締役社長: 立川 敬二

事業内容: 携帯電話事業、PHS事業、クイックキャスト事業、国際電話サービスの提供

URL: http://www.nttdocomo.co.jp/


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