システム部門の縮小化に打ち勝つ!システム部門Q&A(8)(2/2 ページ)

» 2004年05月11日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
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利用部門とベンダの関係の観点

 日常業務として利用部門とベンダの間の橋渡しをする情報システム部門が存在しなくなると、思わぬ副作用が生じます。

1.直接取引によるトラブルの発生

 従来は利用部門とベンダの間に情報システム部門が存在して、両者の調整や通訳をしていたのですが、アウトソーシングによりその機能がなくなりました。戦略部門としての情報システム部門があるにしても、個別部門の小規模な情報システムの詳細仕様まで関与することはできません。それで、利用部門とベンダが直接取引するようになりました。

 しかし、利用部門は「販売システム一式。詳細面談」的な発注をしがちですし、IT業界の慣習を知りません。ベンダも利用部門と直接付き合う経験を積んでいません。それで、多様なトラブルが生じます。これを避けるためには、利用部門に情報関連の知識・経験を持たせることが必要になります。

2.部門間デジタル・デバイドの拡大

 情報化統括部門としての情報システム部門が不在になると、個々の情報化は各部門が予算申請の当事者となり、説明責任を持つことになります。戦略部門化した情報システム部門は、部門内システムに関してまでタッチせず、部門採算性が重視されるようになります。

 ところが利用部門には貧富の差があり、それが部門間の「デジタル・デバイド」に発展します。

 お金がない部門は、情報化投資が極度に制限されます。現行のシステムにおいて、自部門が関係する機能の改訂が必要になっても、それを提案することができません。従来は情報システム部門がやり繰りしてくれたのですが、現在では自部門が当事者として説明しなければならないし、部門採算を追求されると困ります。それで器用な部員がパソコンで処理する手段を開発します。基幹業務系システムとの二重処理になりますが、自部門としてはパソコンシステムの方が大切ですので、基幹業務系システムはなおざりになってしまいます。

 逆にお金がある部門は、ベンダと直接取引ができれば、“小姑(こじゅうとめ)”的な情報システム部門がいないので、自分の要望をたやすく実現できます。しかもそのような部門では、情報化費用が全収入や全費用に占める割合が小さいので、厳格な査定がなされません。担当者レベルの発案が容易に実現できます。ベンダとしては大得意先ですので、その要望を実現するために多大な支援をします。それが極端になると、ベンダが担当者の私兵のようになってしまいます。

情報システム部門と利用部門の交流

 このように、情報システム部門の経営戦略化/アウトソーシングでの副作用を回避するには、利用部門の情報化の成熟度を高める必要があります。

高い成熟度が求められる項目

  • 公開ファイル提供方式の基幹業務系システムを活用できる能力を持つ
  • 情報化リーダーを任命して育成して適切に活用する環境を作る
  • ベンダとの適切な共同作業ができる能力を持つ
  • 利用部門が自部門の情報化の当事者として説明責任を持つ

 これらを効果的に行うには、情報システム部門からの転出が必要になります。そのときに、その転出者を便利屋にしてはなりません。ヒーローにする工夫が必要です(連載第3回「社内から必要とされるITスタッフを育成するには」参照)。

 利用部門の管理者が適切に業務指導をし、情報システム部門が特別な支援をして転出者を成功しやすいようにすることができれば、その部門で情報化への関心が高まり、自然に利用部門への任務移行が円滑にできます。その結果、情報システム部員を少数化することができるのです。

 アウトソーシングするときには、それで余裕が生まれるのを機会に、利用部門に転出させて、しかもヒーローにすることが必要です。また、それ以前にヒーローになれるような人材に育成しておくことが求められます。私は、これを発展させて、情報システム部門は人材育成・提供部門にするべきだと思っています。

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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