中国進出ブームの死角──逼迫するIT人材海外進出企業のためのITナビ(1)(2/2 ページ)

» 2004年08月07日 12時00分 公開
[佐々木俊尚,@IT]
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今日的中国人の生き方

 ここ数年、日系企業の苦労がますます高まっているのは、いかにして質の良い中国人技術者を確保するのかという難問だという。

 中国企業は従来、情報システム部門さえ持っていない企業が多かったから、システム管理ができるようなレベルの技術者は非常に少ない。もちろんITに関する教育熱は非常に高く、優秀な人材は次々と育っている。だがその多くは米国や日本などに海外留学し、帰国せずにそのまま海外企業に就職する道を選ぶのが一般的だ。その方が、圧倒的に給料が高いからである。それでも帰国して就職するという道を選ぶ人もわずかながらいるが、その大半は中国での会社設立を目指す「起業家予備軍」である。

日本オラクル アジアパシフィック事業開発室 佐藤友朋氏

 佐藤氏は「日本のように、大手企業に就職して一生を技術者として過ごしたり、ITのスペシャリストを目指すという生き方を選ぶ人はほとんどいない。大半は将来の起業を目指しており、技術の習得はそのステップアップのためだ」と説明する。日本人の「技術者気質」みたいなものを期待すると、肩透かしに終わる可能性が高いということだろう。 そして起業を目指して海外留学から帰国した若手技術者たちは、多くは外資系のIT企業に就職してしまう。そしてこの「外資系企業」には、日系企業は含まれていないという。理由は簡単だ――給料が安く、おまけに決して現地法人のトップに就任できないから。日系企業現地法人の経営者は、日本の本社からの出向者で完全に独占されているのである。

 まして、一般の製造業や食品業など、ITユーザーサイドの企業の情報システム部門に入社してくれる可能性は、非常に少ない。ユーザー企業のIT部門は、中国人技術者たちにとってはキャリアパスにならないのだ(肩書きに“マネージャ”と付けば、別かもしれないが)。もちろん、目標地点となることは絶対にない。厳しい話であるが、これが中国IT事情の現実なのである。

中国人エンジニアは確保できるか?

 そんな需給の逼迫もあり、中国ではIT技術者の処遇は極めて高い。経験を積んだエンジニアであれば、現地法人の経営幹部やマネージャクラスよりも高い給与が支払われているケースもあるという。

 こうした高給の技術者をそれでも探して雇おうという場合、ちゃんと日本企業向けの人材派遣会社というのがある。現時点で3社が存在しているといい、これらの派遣会社とどう交渉するのかが、日系企業の採用担当者の重要な仕事となっているようだ。「これだけの数を採用するから、いい人材も入れてくれ」とあれこれ要求するのである。

 一方で、中国には終身雇用制は存在しない。このため人材の流動性もきわめて高い。要するに、次々と転職し、どんどん会社を辞めていってしまうのである。せっかく優秀な人材を採用できても、その人物が来年も在籍してくれている保証は何もないのだ。佐藤氏は「たいていは1年ぐらいで転職していくため、大手企業でも教育プログラムなどは一切用意していないところが多い。教育が無駄な投資になってしまうから」と話す。人材採用に関しては長期的な計画を立てるのも難しく、かなり厳しい状況であるということなのだろう。

 次回以降、日本オラクル・アジアパシフィック事業開発室の面々の奮闘ぶりを紹介しながら、中国におけるITのさまざまな難題を見ていきたい。

著者紹介

佐々木 俊尚(ささき としなお)

元毎日新聞社会部記者。殺人事件や社会問題、テロなどの取材経験を積んだ後、突然思い立ってITメディア業界に転身。コンピュータ雑誌編集者を経て2003年からフリージャーナリストとして活動中


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