中国ソフトウェア業界の実力とオフショア開発の勘所オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(1)(3/4 ページ)

» 2004年09月14日 12時00分 公開
[幸地司(アイコーチ有限会社),@IT]

日本企業の取り組み

中国オフショア開発をちゅうちょする声

 最近では、中国オフショア開発を重要な経営戦略の一環として認識して、企業トップが自らその推進に当たる会社が増えています。しかしながら、関係者の多くは、中国オフショア開発への疑問を抱きつつ、仕方なくトップに追随しているように感じられます。

 欧米の顧客がソフトウェア開発を国外に委託するのは、海外の安い人材を利用して本国のソフトウェアパッケージ製品に生かすのが主な目的です。それに加えて、一般的なソフトウェアの委託開発と異なり、完成した製品の知的財産権は顧客にあるのも魅力の1つだといわれてきました。これにより、欧米企業では、社員1人1人がオフショア開発の利益を十分に理解したうえで行動してきたといわれます。

 ところが、国内のオフショア開発関係者は上記とは違った意見を持ちます。

 「何度も何度もやりとりをして要件を伝えたのに、出来上がったものは想像したものと少しずれてしまう」

 「バグを直しても、直しても、少しだけ残ってしまう」

 「拡張性、移植性、セキュリティ面の考慮が足りないまま、完成させてしまう」

 はっきりいって、「分かっちゃいるけどオフショア開発はご勘弁」というのが現場を預かる情報マネージャの本音です。オフショア開発推進チームのモチベーションが上がらない原因の1つがここにあります。

エンジニアのいい分

 日本企業が社内で最初に中国オフショア開発の可能性を検討する際、一般には組織横断的な人事を断行し、複数の部署から人をかき集めて専門の検討チームを結成します。ところが実際には、専任で中国オフショア開発の推進を担う者は少なく、ほとんどは元の部署の“本業”と兼務しています。つまり、忙しい間を縫って“片手間”で対応することになります。

 このような状況下でオフショア開発推進の会議を開催しても、参加者から発せられる言葉は少し寂しいものになってしまいます。

 「例の○×案件がトラブって、社内アンケートを集計する時間がありませんでした」

 「雑誌◇△のコピーをお配りします」(自分は動かず、コピー資料を配布するだけ)

 でも、彼らは決して保身のために中国オフショア開発を避けているのではありません。自分が楽をするために情報マネージャの仕事を邪魔したいわけでもありません。

 彼らは日常の運用業務を滞らせるわけにはいきませんし、お客が望む最高のサービスを提供するよう常に心掛けています。情報システム部門の性質上、自分たちが提供するITサービスの品質を一定以上に保つためのリスクヘッジは絶対に欠かせません。そのエンジニア魂が結果としてオフショア開発推進の抵抗勢力となってしまうのです。

 こんなときに、中国オフショア開発の重要性を認識している情報マネージャは、どのような言葉をかけてあげればよいでしょうか? オフショア開発が生み出すメリットを担当者1人1人に分かりやすく伝えるにはどうすればよいでしょうか。

 あなたの周りでも、このような声が聞こえてきませんか。

 「うちの会社は仕様変更が多いから、中国オフショア開発はしばらく無理ですよ」 「自分は忙しい、なぜ私が中国ベンダの面倒を見なければならないのか?」

 「結局、中国は安かろう悪かろうの世界ですよね」

 「……」

変化するシステム開発のスタイル

 米国とインドとの間に始まったオフショア開発は、着実に日本にも浸透しつつあります。昨年のSARS騒動が鎮静化した2004年の夏、中国ソフトウェア業界は活況を取り戻しました。

 その結果、企業にとって中国オフショア開発は単なるブームから、生き残りをかけた重要な企業戦略の1つとして位置付けられるようになりました。残念ながら、ユーザー企業もシステムインテグレータも、中国シフトの波から逃れられるすべはありません。

 中国オフショア開発のプロジェクト管理技術が進歩することにより、近い将来には、システム開発のコストが大幅に削減され、優秀な人材が大量に安く導入できるような時代がやって来ることでしょう。

 これまで特定の情報システム分野だけしか知らない、あるいは、レガシー技術に頼ってきた技術者にとっては、苦難の時代がやって来ます。新しい技術や能力を身に付けなければ、市場からそっぽを向かれてしまいます。

 一般の情報スタッフにとって受難の時代がもうそこまでやって来ています。情報マネージャのあなたは、どのように対処すればよいでしょうか。

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