2日目は、1日目のような混とんはなく、ごく普通に始まった。数人ドロップアウトした人がいるようで、幾分人数が減っていた印象がある。
この日の座学の始めは、チームの動機付け、というどのプロジェクト管理手法でも必須のテーマだった。しかしその中身はスクラムらしく、
だった。
もう1つ時間を割いた話題が、スクラムのスケール問題、つまりスクラム開発技法がどのくらいの大規模プロジェクトに適用可能か、ということであった。スクラムでは最適なチームの大きさが5人から9人とされている。開発者数が数十人規模のプロジェクトではチームを分割して、小チームでスクラムを実行するという技法が取られる。この場合、スクラムマスターは1人で、複数のスクラムチームの面倒を見る。1人で7?8チームまで面倒を見ることが可能だそうだ。ほかの手法としては、複数のスクラムマスターがスクラムをするという方法で、さらに大規模プロジェクトに対応可能だそうである。
この日気になった用語は「sushi」、つまり、寿司である。どうしてスクラムに寿司が? と思って聞いていたところ、この寿司というのは、巻き寿司のことで、どこを切っても同じ、という状態のことを指している。日本人なら、寿司ではなく「金太郎飴」と呼ぶだろう。何がいいたいかというと、コードを書くこと、テストをすること、仕事を文書化して残すことを常に同時に行い(といっても完全に同時にできるわけはないので数日の誤差は許容される)、プロジェクトをいつも整合性の取れた状態にしておく、ということである。
この寿司の説明のところで出していたOHPの画像は、切り口をよく見たら映画の「ファインディング・ニモ」のキャラクタになっている変な巻き寿司で、参加者の笑いを誘っていた。
この日行われた班での最後の演習は、プロジェクトの進ちょくの遅れをスクラムマスターが発注者にどう伝えるか、というものであった。まず班で集まり、考え得る対策を協議し、その後各班代表者が全員の前で、発注者に扮したほかの班の人と話をした。ここで強調されたのが、正直で、真摯(しんし)であること。いいかげんな空約束をしたり、うその進ちょく状況を伝えて取り繕うのではなく、現状をきちんと説明し、それに対して取り得る対策を発注者に示し、同意を取る、ということが推奨された。変に低姿勢で謝ることは推奨されなかった。発注者が神さまの日本でこの方法がどこまで使えるか疑問な点もあるが、新鮮な考え方であった。
体を動かすゲームの最終回は、これまでとはかなり異質なものであった。人間彫刻とでもいえるもので、3?4人のグループに分かれて、いわれたテーマに沿って、各グループの1人がほかのメンバーをマネキンのように使って形を作っていく。テーマは「プロジェクトが遅延したときの葛藤(かっとう)を表現してください」とか「スクラムでプロジェクトがうまくいったときの喜びを表現してください」とか感情表現のようなものが多かった。これはこれで楽しいのだが、いったいこれがスクラムマスターになるうえでどう役に立つのか、正直なところ疑問が残った。これは宗教というよりは、ニューエイジ系ワークショップを思い起こさせるものであった。
最後の1時間は質疑応答に当てられた。
この中で気になった質問が「メンバーが地域に分散したチームで使えるか?」と「スクラムは、オフショア・プロジェクトで使えるか?」だ。シュエイバー氏の答えは「分散チームに対して使えないこともないが周到な準備が必要」ということであった。例えば、チームのメンバーを最初は1カ所に集めて数週間一緒に仕事をさせ、お互い顔見知りにする、といった準備を行い、その後も定期的に出張してできるだけ顔を合わせて仕事をする機会を作るのがいいそうだ。一方、オフショア開発の場合は、開発責任者と開発者が完全に別の場所となり、時差もあってスクラムを行うことも困難なので、どちらかというと否定的であった。穿(うが)った見方をすると、スクラムはソフトウェア労働市場の海外流出を防ぐ救世主と考えることもできる。
質疑応答は終わることを知らず、ワークショップ終了予定時刻を過ぎても終わる気配がなかった。最後には、質疑応答をしつつ、同時にスクラムマスター認定のための書類への署名等を行うという混とんとした状態となった。これも、スクラムならではの幕引きか? 最後の最後に参加者全員で記念撮影をして2日間の濃いワークショップが終了した。
スクラムへの関心は日本でも高まっている。この記事が公開されるころには、われわれに続いて、日本人認定スクラムマスターが数人誕生しているはずと聞いている。
ただシュエイバー氏のワークショップでは、英語という障害があり、日本での普及を妨げている。著者らはアメリカ系の会社に長年勤務した経験があるため、ある程度英語に慣れ、8割ぐらいのことは分かったつもりだが、それでも細かいニュアンスは分からなかった。特に、ジョークでほかの参加者が笑っているときに、著者らだけ笑わない(か、作り笑いをする)のはつらいものがあった。
著者らは、他社・組織と協力して、スクラムワークショップを日本で、日本語で、行えるようにしたいと考えている。興味のある読者は、関根<sekine@isneek.co.jp>までご連絡いただきたい。
関根信太郎(せきねしんたろう)
毎日新聞社、サン・マイクロシステムズ、EMCを経て、イズニーク株式会社を設立。レガシー技術からJavaを中心としたオープン技術へのスキル移転のコンサルティング業務を中心に活動。同社代表取締役。東京都在住。
黒坂輝彦(くろさかてるひこ)
サン・マイクロシステムズ、ベーシス・テクノロジー、アイオナ・テクノロジーズなどを経て、現在は独立してソフトウェア国際化を中心としたソフトウェア・コンサルタント業、ブラックヒルズ研究所主宰。サンフランシスコ市在住。
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