「e-文書法」で夢のペーパーレスオフィスが実現?トレンド解説(12)(3/3 ページ)

» 2005年02月26日 12時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]
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e-文書法の本命はPDF?

 可視性では、見読可能性と検索機能が要件となる。見読可能性とは「電子化されたデータをいつでも人が目で見える形にできること」。つまりその文書が求められるときにいつでもディスプレイ上や印刷された紙の形で閲覧できることが必要になるのだ。中間報告では、見読可能性の要件について、「必要に応じ電磁的記録に記録された事項(画像読取装置により読み取ることにより作成された場合には、必要な程度で画像読取装置により読み取られた書面の内容)を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示又は書面を作成できること」としている。

 ポイントになるのは「直ちに明瞭かつ整然とした形式」という点。必要なときは特別な機器を用いずに、標準的なフォーマットで出力することが求められるということだ。どれほど高機能な文書フォーマットを使っていても、出力するために特別な操作が必要ではこの要件を満たしたとはいえないだろう。

 そこでこのe-文書法の要件を満たす文書フォーマットとして注目を集めているのが、米アドビ システムズが開発したPDF(Portable Document Format)だ。PDFを読むためのリーダーソフトウェアである「Adobe Reader」は、オフィスにあるほとんどのクライアントPCにすでにインストールされている。PDFは電子文書の表示のために開発されたフォーマットで、レイアウトの保持は得意とする機能だ。紙の文書をスキャンし、イメージとしてPDFで保存することもできる。e-文書法に関心を持つあるベンダの担当者は「各省庁が作成する要件を見ると、名は挙げていないがPDFを想定しているようだ」と話す。

 アドビ システムズも、e-文書法に最適な文書フォーマットはPDFと考えている。同社マーケティング本部 インテリジェントドキュメント部 部長 市川孝氏は、PDFについて「e-文書法に最適なフォーマット」と述べたうえで、「電子署名、タイムスタンプをPDFに統合し、1つのファイルにできる」と話し、e-文書法を実運用するうえでの使い勝手の良さをアピールした。

元本を2つ作成できることの意味

 一方、e-文書法の施行をにらんだ各社の取り組みはもう始まっている。目立った動きをしているのは、コピーやプリンタ、スキャナ、ファクシミリなどの機能を統合した複合機(MFP)のメーカー。リコーは、MFP単体で紙文書の電子化と、そのデータの信頼性を保証する機能を実現することを目指している。そのための検証機も開発。スキャンしたデータをPDFに変換し、MFPの機器認証、個人認証、タイムスタンプをMFP内で付加して、ネットワーク上のフォルダに保存する仕組みだ。リコーはMFPをERPパッケージの入力端末として利用できるソリューションを発表するなど、MFPと基幹業務との連携に取り組んでいる。リコーの平岡氏は「e-文書法やセキュリティに対する要件の高まりで、今年はインテリジェンスMFPの元年になる」と意気込んでいる。

 セキュリティ関連のビジネスも盛り上がりそうだ。これまでの紙の文書では、災害などで元本を損失してしまうケースもあった。しかし、電子文書であれば、「元本の複製を作り、同じように電子署名ができる」(アドビ システムズ マーケティング本部 エンタープライズ マーケティング部 部長 小島英揮氏)。つまり元本が2つ、3つになるということだ。そのため、同じ内容の電子化された複数の元本を別々の場所に保存するディザスタ・リカバリの環境を比較的容易に構築できるのだ。

 文書をスキャンする場所としては、特定の部署を設けて特定の場所で紙の文書を集中してスキャンする方法と、フロアに1台のMFPを置いて、紙の文書が発生した際にその都度、文書をスキャンする方法の2種類が考えられる。これまで蓄積した膨大な紙の文書をスキャンする場合は、前者の方法が利用されるだろうし、日々のプロセスでは後者の利用が考えられる。アドビでは電子署名やタイムスタンプのベンダと組んで、デスクトップを中心としたe-文書法のためのトータル・ソリューションをまずは開発していく考えだ。

 e-文書法の施行でオフィス内の紙文書を電子化するための環境は整うといえるだろう。しかし、ペーパーレスオフィスの実現で業務が効率化するかは別問題だ。顧客や取引先との関係を考えると電子化を進めるよりも、紙の文書のフローを残しておいた方が効率的な面もある。企業は何のためにペーパーレスオフィスを実現するのかを考える必要があるだろう。


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