いまのIT組織でいつまでやっていきますか?何かがおかしいIT化の進め方(15)(2/3 ページ)

» 2005年04月22日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

IT企画のブレークダウン体制が鍵
――経営企画とIT企画の位置付けの違い

経営企画の対象は、企業や経営者の理念を背景にした方針や、事業課題そのもの、あるいはこれにかかわる施策など、文字どおり経営レベルの問題(WHAT)が対象である。そして、何よりもこの企画に対し、良くも悪くも“ものをいい”、企画を具体化(ブレークダウン)/具現化する立場の事業部門・業務部門が存在する。

 一方、ITの企画についてはどうだろうか。事業部門・業務部門の業務プロセスという極めて具体的なレベルで、問題の解決をどのように(HOW)行うかというのがIT課題である。問題の定義や解決の方向付けは具体的でなければならない。あいまいなまま、実行部隊に任せていては結果の保証はない。そもそも、ITの企画を的確にブレークダウンできる、ものをいえる組織は存在しており、その組織は機能しているだろうか。

組織体制が会社全体の情報活用能力を左右する
――IT部門が頑張り過ぎると社員の意識や情報化が遅れる

 組織体制は人材育成や組織の学習のための基盤でもある。組織体制の在り方次第で、情報システム開発のための人材能力だけでなく、長期的には会社全体の情報活用能力や、システム化・業務改革への意識が左右される。人にかかわる問題では、体制や施策の長年の積み重ねを通じた学習結果として、その成果が表れてくることが多い。

 方向や役割がふらふら変わるような組織体制では、どこを向いて何をやればよいかがよく分からないから、人は様子見状態になり、真剣な努力が見られなくなる。人も組織も能力は向上しない。各社で道筋は異なっても、その時々の運営面でのブレを極小化できるよう、先を見据えた自社の問題特性の把握を行い、やるべき問題について、しっかりした方向付けが必要になる。

 IT・情報システム側に供給力が十分にあれば、IT・情報化がうまく進んでレベルが上がっていくわけではない。ITの問題はIT部門だけ、あるいはユーザー部門だけでは完結しない問題である。“やるべきことをやるべき部門がやる”という前提での協働(コラボレーション)を通じて、お互いが補完し合い、切磋琢磨していくことが必要だ。

 IT・情報システム部門が頑張り過ぎて、ほかの部門がやるべき部分にまで手を出すと、逆にユーザー部門の意識や、会社全体のIT・情報システム化は実質的には遅れる。流行のキーワードを起点に技術指向でIT化を進めようとする企画などには、IT側の一種の頑張り過ぎを感じる。

参考

いまでは夢のような話であるが、情報システム部門の社内の位置付けが高いある会社で、社員の約1割も情報システム関係業務に充てて先進的な情報システム化を進めていた時期があった。

そこでシステム化推進を担当するマネージャから、「実はユーザー部門にシステム化・情報化の意識が根付かなくて困っている」という話を聞かされたことがある。ユーザー部門にしてみれば、自分で考えなくても“任せておけばやってくれる”という状況だ。このような関係がしばらく続くと、他人任せの文化が出来あがり、外から見えるほどには、中はうまく進んでいるわけではないということのようであった。



収斂させてゆくべき目標として、組織体制の中期的な方向付けを考える

 ここでは“すぐに実施する/できる”ではなく、中期的に条件を整えながら、後戻りの少ない体制整備を進めていけるように、収斂させていく目標の姿を描き出すことを考えてみる。なお、この問題では、作業の分担というよりも、作業項目ごとの責任と権限の問題として「具体的な検討や案の策定」「実質的な決定」「承認」を、それぞれ誰がするかを明確にしておくことが特に大切になる。また、アウトソーシングした業務に対する管理機能は、当然ユーザー企業の誰かが担わなければならない。

 情報化を進めるために必要な機能には、例えば以下の(1)〜(11)のようなものが考えられる。なお(6)以下の機能については、今後、戦略の中核プロセス業務のシステムとそうでないシステムなど、アプリケーション業務分野や種類によって取り扱いを変える必要のある場合もある。

  • (1)経営方針を反映した情報戦略の策定
  • (2)全社最適化のための統括ルールの設定とその運営
  • (3)適切な技術を選択した情報インフラの設定と運営・管理
  • (4)管理・経営層に対する啓蒙
  • (5)ユーザーに対する教育・啓蒙・支援サービス
  • (6)事業施策を支える業務改革と最適な情報システム課題の企画と調整
  • (7)企画のブレークダウンと業務要件の設定
  • (8)業務要件を満たす効率的なシステムの開発
  • (9)信頼性が高く、効率的に業務運用を支えるシステムの運用・管理
  • (10)適時的確/効率的なシステム保守
  • (11)そのほか(例えば、事業によっては、研究・開発など技術分野との統合システム化、マーケティングや技術の固有分野に立ち入った情報解析、商品に埋め込むIT技術の開発といった機能が、戦略的に極めて重要というケースがある)


 また、これらの機能の担い手には、例えば次の(A)〜(H)が考えられる。

  • (A)社内の事業部門・業務部門
  • (B)経営企画部門
  • (C)IT部門
  • (D)IT子会社
  • (E)社外の経営コンサルタント
  • (F)専門分野の社外コンサルタント
  • (G)SIベンダ
  • (H)そのほかの社外サービス


 新組織体制の検討は、機能(1)〜(11)を縦軸、担い手(A)〜(H)を横軸に取ったマトリクス上で、(1)〜(11)の機能はそれぞれ(A)〜(H)のどこが担うことにするかを、中長期な観点から評価してみることになる。

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