ITSSを経営に100%生かすポイントとは?特別企画:ITSSの現状を探る(2/4 ページ)

» 2005年05月19日 12時00分 公開
[井上真,@IT]

2.ITSS導入の一般的な問題点

 ITSSを導入する際に、一般的には次の3つが問題点として挙げられることが多い。

(1)ITSSの職種分類が細か過ぎる

 ITSSで定義している11職種38専門分野が細か過ぎて、そのまま自社に適用できないといわれることが多くある。これはITSSに対する誤解から生まれているものである。ITSSで定義している職種・専門分野は、そのまま適用することを前提にしているものではない。あくまでも辞書として活用されることを前提にしているものである。

 例えば、「コンサルタント」という職種を自社で設定しようと考えたら、ITSSのコンサルタント職種中の3つの専門分野(Business Transformation、IT、パッケージ適用)のスキル定義を読み、どれが該当するのかを検討する。検討の結果、ITとパッケージ適用が該当するがこれだけではどうもスキルが足りないように感じた場合には、ほかの職種・専門分野に必要なスキル定義が存在しないかを検討しなければならない。コンサルタントの場合、ITアーキテクトやプロジェクトマネジメントの中に含まれている専門分野のスキルが必要になることが多い。

 このようにITSSで定義された職種・専門分野を組み合わせて、自社の職種・専門分野を策定する必要があることを忘れてはならない。

(2)ITSSで未定義のスキルが必要になる

 ITSSの中をいくら探しても、自社の職種に合致したスキルを見つけることができない場合がある。例えば、品質保証担当者や組み込み系技術者などが挙げられる。不足する部分に関して企業間で標準スキルを作成し、ITスキル標準センターに提案、取り込みの検討を依頼したり、IPA関連のソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)でETSS(Embedded Technology Skill Standard)を策定したりという動きが出てきている。経理や会計のスキル標準を作るという話もあり、今後整備が進んでいくものと思われる。

 しかし、現時点においてITSSの職種・専門分野だけでは、自社に導入する際に職種・専門分野が不足する可能性はある。そのようなケースでは、不足する部分に関しては自社でスキル定義、スキルレベル定義を行わなければならない。

(3)スキルを第三者が評価する仕組みがない

 ITSSのスキル診断は資格試験のような第三者が評価する仕組みがないため、客観性が乏しく対外的な信用を得るためには使えないのではないのかという声も聞かれる。

 これらの多くは、ITSSの本来の目的を忘れたITベンダが、顧客企業との人月単価交渉にITSSを利用しようとして起きた問題である。ITSSの目的はIT人材の育成にある。IT人材の相場を形成するために策定されたものではない。人材育成という視点から離れた場で利用されれば齟齬(そご)を来すのは当然の結果といえる。対外的な評価が目的である資格試験と企業内部における人材育成が目的であるITSSとでは、明らかに作られた目的が異なる。

3.本質的な課題を抱えるITSS導入

 現在実施されているITSS導入には一般的にいわれている3つの問題点以外に、実は本質的な次の2つの課題を抱えているものが多い。

(1)人材棚卸し優先のITSS導入

 現在多くの企業で行われているITSS導入は、ITSSの職種・レベルで自社のIT人材の棚卸しをするスキル診断が中心であり、棚卸しした後にどう人材育成するのかがよく考えられていないことが多い。確かにIT技術者自身が自分のレベルを確認し、次のレベルへ上がろうという自己啓発を促すことに活用することはできる。しかし、自己啓発によりIT技術者全員をランクアップさせることが、経営にどのような効果をもたらすのであろうか。

 企業として経営戦略に合った人材を育成することができなければ、経営に効果のあるITSS導入を実現したとはいえない。棚卸し優先のITSS導入は、経営戦略を実践するために必要な人材育成目標が事前に決められていないため、棚卸し後に経営戦略に合致した人材育成計画を作ることができなくなってしまう。

 一方では、現状の人材スキルを把握したうえで、どこを強化するかを考え人材育成計画を作るという考え方も確かにある。しかし、この方法では人材育成計画は経営戦略とは無関係に、全体の底上げのプランしか作られない可能性が高く、経営サイドから見た効果的なITSS導入とはいえない。

(2)経営戦略との整合性が求められるプロフェッショナル認定制度

 ITSSを導入する際に、ITSSをベースとしたプロフェッショナル認定制度を導入するITベンダが多い。プロフェッショナル認定制度とは、企業としてIT技術者の職種・レベルを認定することで、顧客に提供するサービス品質を保証するとともに、IT技術者にプロフェッショナルとしての求められる人材像、キャリアパスを明確化することが目的である。プロフェッショナルとして認定されても、数年ごとに認定を更新することが求められている企業も多く、継続的なスキル向上が資格を維持するためには必要である。

 しかし、プロフェッショナルとして認定すべき職種は、経営戦略の変化により変わる可能性が高い。いままでプロフェッショナルを必要としていた職種が、経営戦略の変化によりプロフェッショナルを必要としなくなる可能性がある。いい換えれば、経営戦略と一致したプロフェッショナルを育成する認定制度でなければ、経営に効果を上げることはできないといえる。

 これを実現するためには、プロフェッショナル認定制度は、常に制度自体が経営戦略との整合性を保つように継続的に更新され続けなければならない。果たして、いま構築されているプロフェッショナル認定制度は、このような仕組みを内在しているのだろうか?

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