ITSSを経営に100%生かすポイントとは?特別企画:ITSSの現状を探る(3/4 ページ)

» 2005年05月19日 12時00分 公開
[井上真,@IT]

4.ITSSを経営に100%生かすためには

 現在、導入が進みつつあるITSSは、前述したように経営戦略との整合性が図られていないという本質的な問題を抱えており、十分な経営効果を上げるものとは思われない。

 経営に効果のあるITSS導入を行うためには、経営戦略における人財(人的資本)戦略の重要性を理解したうえで、ITSSを活用した戦略的人財開発戦略を立案する必要がある。

(1)経営戦略における人財戦略の重要性

 経営戦略を全社に展開するためのフレームワークとして多くの企業で導入が進んでいるバランスト・スコアカードでは、個別戦略の因果関係を図示した戦略マップが作成される。その際に最も基盤となるのが「学習と成長の視点」である。その中の「学習」の戦略である人財開発戦略は、経営戦略の最も基盤となる重要な戦略の1つであるといえる(図2参照)。

ALT (図2)人財開発戦略の位置付け

 こうした観点から、人を資源としてではなく資本として見るべきであるという考え方が広まりつつあり、Human ResourceではなくHuman Capitalと呼ばれることが多くなってきた。ここでは、人的資本を「人財」という言葉で表している。

 人財開発戦略は戦略実現の最も基盤となる戦略であるため、実行時においてはほかの個別戦略に先駆けて実施する必要がある。また、逆に人財開発戦略立案時には経営戦略だけではなく、マーケティング戦略や業務改革戦略などすべての個別戦略と整合性を持って立案される必要もある(図3)。

ALT (図3)人財開発戦略の特徴と考慮点

(2)人財開発戦略の立案方法とITSSの位置付け≫

 では、経営戦略や個別戦略と整合性を持った人財開発戦略はどのようすれば立案できるのだろうか?そして、その中でITSSはどのように活用されるべきなのだろうか?

 私たちが独自開発し、コンサルティングに活用している方法論の概要を見ることでこれらを理解していただければと思う。

 私たちの方法論は図4で示されているように、大きく4つのフェイズに分かれる。

ALT (図4)戦略的人財開発戦略立案方法

 「準備」フェイズでは、通常のプロジェクト編成と同様に、プロジェクト体制を構築した後に、文書レベルの事前調査、スケジューリングを行い、キックオフミーティングによってプロジェクトの本スタートとなる。

 「現状分析」フェイズでは、まず、人財開発戦略を考えるうえでインプットとなる経営戦略や個別戦略を理解した後、どのような人財がいつ何人必要になるかということを表した人財ポートフォリオの仮説を立案する。仮説を考える際にITSSの職種・専門分野を人財スキルモデルとして活用する。

 次のステップでは、各戦略内容の確認および求める人財スキルモデルの内容をヒアリングなどで確認し、仮説として立てた人財ポートフォリオの精緻化を図る。精緻化を図りながら、常にITSSの職種・専門分野・レベルとの対応を取っていく。 次に、人財ポートフォリオに基づく現状の人財棚卸しを実施する。ITSSのスキル診断ツールでカバーできる範囲はシステムで行い、カバーできない部分(ITSSのハイレベルやITSSにない職種・専門分野・スキル)はスキルチェックシートを作成し、アンケートやインタビューで棚卸しを実施する。棚卸しの結果、人財ポートフォリオ自体に問題がある場合には、見直しを行ったうえで棚卸し結果の分析を行う。棚卸し結果と求められる人財ポートフォリオとのギャップを明確化し、原因の追究、解決の方向性を検討する。

 「人財開発戦略の立案」フェイズでは、人財ギャップの解決の方向性に基づき、人財開発戦略の目的・目標・範囲を明確化し、開発方法・運用方法・評価方法などの基本方針を策定する。基本方針に基づき、職種別に個別の人財開発戦略を策定する。

 「人財開発施策の立案」フェイズでは、職種別スキルマップ、研修ロードマップ、新規研修企画、研修実施計画の立案を行い、人財開発戦略立案を終了する。

 次のフェイズでは、実際の研修実施(施策の実施)、モニタリング・評価を行う。

 以上のように、ITSSを人財スキルモデルを検討する際のモデルとして活用するだけではなく、自社人財スキルモデルとITSSの対応を常に取ることにより、人財棚卸しや研修ロードマップ作成作業の効率化を図ることも可能となる。

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