同僚と社長……錯綜するそれぞれの思いと業務(第3話)目指せ!シスアドの達人(3)(4/4 ページ)

» 2005年09月03日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]
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ロートンからの苦情で大ピンチ!

 キックオフミーティングの次の日、いよいよ始まるシステム開発に気持ちを高ぶらせていた坂口だが、1本の電話でそれがもろくも打ち砕かれることになった。

谷田 「坂口さん、ロートンの松本さんからお電話なんですが。すごい剣幕なんですけど……」

坂口 「えっ、なんだろう? とにかく変わるよ」

 坂口は一通り原因を考えてみたが、特に思い付くこともない。コンビニ「ロートン」の店主である松本智志は、気は短いが理不尽なことはいわない大阪出身の人間である。いつもは気さくに話してくれるのだが、今日は様子が違うらしい。坂口は深呼吸して受話器を取った。

坂口 「お電話変わりました。坂口です。本日はどういったご用件でしょうか?」

松本 「どういったご用件じゃあるかい!おまえんところのビールはみんな古いやんけ! うちをなめんとるんか?!」

坂口 「そ、そんなはずはありません。賞味期限が一定期間残っていないと駄目なのは、よく存じ上げおります。そのため、ロートンさん向けの配送には、その条件をクリアしたものしか積んでないはずです」

松本 「じゃ、どうしてあと3日しかないものが目の前にあるんじゃ!! わしの目が節穴とでもいうんか」

坂口 「すっ、すみません!! 至急原因を確認して、対応させていただきます! 取りあえず、そちらに伺わせてください! いまからでしたら1時間以内には……」

松本 「とにかく、ミスはミスやからな! それなりのペナルティを覚悟しといてや。ビールメーカーはあんたんとこだけやないんやからな」

 血の気が引くのを感じながら、坂口は電話を切った。横では心配そうに谷田が見ている。コンビニは、スーパーと並んでビールメーカーの最重要拠点である。特に「ロートン」は、ほかのコンビニに比べてサンドラフトを多めに置いてもらっているお得意さんである。そこでの失敗は致命的なのだ。

谷田 「大丈夫ですかぁ? 顔が真っ青ですよ」

坂口 「大丈夫だ……。ありがとう。椎名さんはいまどこに?」

谷田 「椎名さんは新規顧客開拓で外ですよ。ちょっと待ってくださいね。携帯に連絡取ってみましょうか」

坂口 「ああ、ごめん。自分で連絡するよ。えっと、番号は……」

 坂口は気持ちを落ち着けるよう何度も深呼吸しながら椎名の携帯番号に掛けるが、ビル内にいるらしく通じない。しかし、ぐずぐずしている余裕はなかった。坂口は谷口に概略を説明すると上着をつかんで営業部を飛び出した。坂口が出て行ったのと入れ替わりに、社内会議の終わった江口が自分の席に戻ってきた。

江口 「いまのは坂口か? えらく急いでいたが、何かあったのか」

谷田 「江口課長代理。いまロートンの松本さんから電話がありまして、納品のことでクレームがありました。坂口さんは、椎名さんに連絡が取れなかったので、取りあえず1人でロートンに向かったんです」

 谷田は、手短に自分の聞いた内容を伝えた。

江口 「ふぅむ……」

 一通り聞くと、江口はすぐにいくつかの部署に電話を掛け始めた。

 一方、ロートンに向かう車を運転しながら、坂口はあれこれ考えていた。『こんな大変な失敗をするとは……。どうしたらいいんだ。メールでの連絡に落ち度はなかったはずだ。配達通知も特に問題ないようだったし、何が原因だろう……。うーん、分からん』とにかく、先ほどの松本の剣幕はただごとではなかった。うまくなだめられるか自信がないが、ここはとにかくひたすら謝るしかない。坂口はロートンに到着すると、すぐ松本のいる事務所に向かった。

坂口 「遅くなりました!! 坂口です」

松本 「ふん、来たんか」

坂口 「今回は本当に申し訳ありませんでした!! 早速ですが、そのビールを見せてもらえませんか。どうしてこんなことになったのか……」

松本 「いまさらビール見たってしゃあないやろ!! もうええわ。こんな初歩的なミスしでかして、もうお前には任せられん。顔も見とうないわ。もう帰ってくれ!!」

 松本は怒りが収まらない様子で、取り付く島もない。しかし坂口には原因に心当たりがないのだ。PDAに落としてあった配達通知を見せながら、恐る恐る声を出した。

坂口 「松本さん、しかし、この画面では賞味期限を満たしたものを納品したことになっているのですが……」

松本 「なんじゃ、そりゃ。目の前の事実より、そんな子供のおもちゃのようなものを信じろというんか。そんなもんばかり見とるから駄目なんや! もう帰れ! 商売の邪魔じゃ。あんまりしつこいとお宅の社長に電話してくびにしてもらうぞ!」

坂口 「すいません、そんなつもりでは……」

 ますます、火に油を注いでしまった坂口はひたすら頭を下げ続けた。このままだと、原因をつかむどころかくびになりかねない。坂口は混乱する頭の中で『この状態を何とかしなければ』と思い続けていた。

◆次回予告◆

 社長の協力も取り付け、いよいよ自分が受け持つ「新営業支援システム開発プロジェクト」をスタートさせて意気込む坂口。そんな矢先、得意先のロートンからのクレーム対応を失敗し、あわやくびの危機にさらされてしまいます。次回は、ロートンのトラブルのその後や、坂口が初級シスアドとして面目躍如する様子などをお伝えします。

東京本社・営業1課 メンバー構成

課長 浜崎 雅則(はまざき まさのり) 43歳


課長代理 江口 章輔(えぐち しょうすけ) 38歳


主任 椎名 純平(しいな じゅんぺい) 33歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 30歳 


チーフアシスタント 松下 真樹(まつした まき) 35歳


アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ)  26歳


アシスタント 水元 優香(みずもと ゆうか) 24歳


営業部 部長 田所 譲司(たどころ じょうじ) 50歳


上級シスアド 豊若 越司(とよわか えつし) 38歳


今回登場メンバー

社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 58歳


配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 41歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 33歳


情報システム部主任 福山 雅人(ふくやま まさと) 36歳


総務部新人 深田 祐子(ふかだ ゆうこ) 23歳


コンビニロートン店主 松本 智志(まつもと さとし) 42歳



profile

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者5名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー5名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


森下 裕史

上級システムアドミニストレータ連絡会・ミンツ□代表


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