素人CIOとの上手な付き合い方とは?システム部門Q&A(25)(2/2 ページ)

» 2005年09月07日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
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  なぜ素人CIOが存在できるのか

 今回の質問者のような状況は、多数派です。一部の優れたCIOを除けば、ほとんどのCIOは素人CIOなのです。その理由を考えます。

 CIOは経営にITを活用する最高責任者ですから、経営に関する知識能力とIT活用技術に関する知識能力を併せ持つことが要求されます。ですが、そのバランスは歴史的に変化してきました。以下は米国での変化です。

    第1次:経営重視の時代      

 1980年代後半に、情報技術は競争優位確立の武器だというSIS(戦略的情報システム)の概念が普及しました。IT部門はプログラム作成やコンピュータ運用などの任務から、経営とIT技術を統合する戦略的な任務へと変ぼうするべきであり、そのためには経営者によるITガバナンスが必要だとされ、CIOの職制が重視されました。その観念が暴走して、IT技術軽視の風潮になりました。その結果、ITの素人がCIOになったのです。

    第2次:IT素人CIO追放の時代      

 1980年代末になるとダウンサイジングが急速に進展し、レガシー環境からオープン環境へのパラダイムシフトが起こりました。オープン環境の動向はあまりにも不確実であり、IT知識のないCIOでは、ITの将来の方向性を示すことができません。それではCIOの任務は果たせませんので、「ITの分からないCIOは去れ」といわれるようになりました。

    第3次:プロフェッショナルCIOの時代      

 1990年代後半からのインターネットの爆発的発展・普及により、デ・コンストラクションとデジタルオポチュニティの時代になりました。IT活用が経営そのものだといわれるようになり、経営者全員がITに大きな関心を持つことが当然だといわれるようになりました。そこで、プロフェッショナルとしてのCIOが求められるようになりました。

 ところが日本では、ダウンサイジング時代でも、基幹系システムは依然としてレガシー環境が維持され、他国と比較してダウンサイジングは緩やかに進行しました。そのため、第2次における矛盾があまり顕在化しなかったのです。そこで、第1次のIT素人CIOがそのまま残ったのです。

 また、第3次におけるCIOに求められる経営能力は、単に経営者としての経験があることではなく、経営戦略をIT活用に適切にブレークダウンさせる能力や、プロジェクトのマネジメントや情報セキュリティマネジメントなど、総合的なマネジメント能力です。それがプロフェッショナルCIOなのですが、日本の経営者には、この意味でのプロフェッショナルな能力を持つ人が少ないし、その人がCIOになる確率も低い。そこで、経営面でも素人のCIOが多いのです。

 そもそもCIOは、誰にでも務まるものではなく、まして、素人が兼任で1〜2年程度の腰掛的な任期中に成果を出せるものではありません。単にIT部門を担当する役員をCIOというから話がこんがらがるのです。

 それにしても、「CxO」ブームですね。CEO(Chief Executive Officer)CFO(Chief Financial Officer≒財務担当役員)は以前から聞き慣れていますが、CSO(Chief Strategic Officer)やCISO(Chief Information Security Officer)も必要だとなると役員が何人いても間に合いません。そのうち、CPO(個人情報保護担当)、CCO(コンプライアンス担当)、CWO(Web取引担当)なども出現するのではないでしょうか?

IO(Information Officer)を育てよう

 先ほど、ドン・キホーテ的な行動だけが正しい方針ではないといいましたが、それでは寂しいですね。ITの効果を信じているのであれば、その信念に従って行動するべきです。しかし、過激な行動は混乱を招きますので、よほど自信がない限り、慎むべきです(もっとも、それだけの自信があるのなら、このような企業にしがみつかないで、能力を発揮できるほかの企業に転職することをお勧めしますが)。むしろ、地道な改善を継続的に積み重ねて、好機到来に備えるのが適切でしょう。

 今回の質問のような状況は、第1次CIO以前の問題です。当面はCIOは不在であると割り切って、むしろC(チーフ)ではないIO(健全なIT推進をする管理者クラスの人々)を育成する必要があります。何かの機会にIOの誰か(あなた)が経営陣に入り、いつかは本来の意味でのCIOが出現することを期待しましょう。

 ご自身を含めてIT部員をIOにするための育成をしましょう。また、IT部門だけではなく、他部門に働き掛けて、他部門でのIO育成を考えましょう。それには、本連載の第3回や第10回などを参考にしてください。なお、繰り返しになりますが、今回の話はブラックユーモアを多分に含んだ、かなり偽悪的な内容になっていますことをご了承ください。


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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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