捜査は警察だけが行うものではないビジネス刑事の捜査技術(1)(3/3 ページ)

» 2005年09月08日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
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顧客を見つける刑事のテクニック−その2

商談がまとまる営業社員は誘導尋問の使い手

 刑事ドラマでよく見掛けるのは誘導尋問である。誘導尋問とは、犯人自身に知らず知らずの間に白状させたり、証言に矛盾を起こさせるなど、尋問者にとって有利になる答えの方へ、質問を重ねて誘導していく手法である。誰もが心の中で「やってはいけないこと」に関心を持っており、「自分もやりかねない」と思っていることを誘導尋問されてしまうと、誰もが犯罪者としての動機を持っていることになりかねない。誘導尋問とは恐ろしいものなのである。しかし、誘導尋問は、日常会話や人間関係においても応用させることができる。

 誰もが心の中で「やってはいけないこと」に関心を持っているように、「やってみたい」と思っていることもたくさんある。ただ、やってみたいことに順番があったり、まとまったお金がないなどの制約があって、すぐに行動に結び付かないことが多いのだ。そういうときに、トップセールスは誘導尋問をうまく使う。顧客の欲求をさりげなく確認し、条件が良ければ優先度を上げてもよいことや、制約条件があって棚上げしていることなどに同感していく。そして、最後に制約条件を解消する方法や優先度を上げるべき特典を提案する。

 「欲しい」という欲望は持っていて当たり前なのに、「売りたい、売りたい!」という気持ちだけでは顧客を不愉快にするだけである。トップセールスは顧客の事情を事前に推理し、その事情に同情することで顧客を気持ちよくしている。刑事が犯人の気持ちになって行動を予測するように、トップセールスは顧客の立場に立って、行動を予測しているのである。

ご都合主義の企画書が顧客を不愉快にする

 企画書、提案書も同じである。「売りたい、売りたい」だけしかいわないような、ご都合主義の企画書が顧客を不愉快にしている。企画書の作成で必要になるのは、読み手の心理を推理することである。商品を欲しいと思う顧客が関心を持つのは、その商品によって生活やビジネスシーンがどう変わるかであって、どれだけ苦労して開発したとか、どれだけ高度な技術を使っているかなどのことではない。顧客の心理を知りたいのであれば、顧客に聞けばよい。最初の顧客にはタダでもよいから商品を提供して、どう思ったかについて聞けばよいのである。刑事は逮捕した犯人から次の捜査に役立つ情報を聞き出す。どうして犯罪に及んだのか、逃走中は何を考えていたのかなどなどだ。ビジネスでも私生活でも同じである。

 「顧客が見つからない」とか、「在庫が減らない」「納期が縮まらない」、あるいは「商品が売れない」「不良品の原因が分からない」などのビジネス上の課題は、どこの会社でも困っていることである。だとすれば、ほかの会社がどうしているのかについて調べるべきではないだろうか。ベンチマーキングとはそういうものである。経営者同士、営業マン同士、情報システム部長同士の付き合いも捨てたものではない。お互いを尋問し合って自社に役立つ情報を聞き出せばよいのだ。「結婚相手が見つからない」とか、「就職先がない」「いい家が見つからない」などの私生活上の問題も同じことがいえる。親や兄弟、友人に相談することが、どれだけ賢明なことか。人生のシナリオを描くときも、顧客への企画書を書くときも、必要なことは同じ“先人や経験者の声を聞くこと”なのである。

次回の予告

 今回はビジネスの場において、いかに捜査の技術が役立つかについて話した。そして、営業担当者の仕事を例に取り、捜査の技術をどのように使うかについても紹介した。

 その技術とは、まず、探し出そうとする顧客像をしっかりとイメージし、顧客になったつもりで行動パターンを推理する。その姿はまるで超能力者のようだが、普段から人の立場に立って考え、書物や芸術に触れて想像力を鍛えている人からすれば、難しいことではないはずである。

 次回は、捜査の技術を使った別の例についてご紹介する。在庫が合わない、納期に遅れる原因は何なのか、行動パターンの推理についてシナリオ分析が必要となる例を紹介する。

profile

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援等に従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンク社など、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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