顧客獲得とシスアドに大切なこと(第4話)目指せ!シスアドの達人(4)(4/4 ページ)

» 2005年09月16日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]
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シスアドが忘れてはいけないこと

 坂口は、早速社に戻ると、配送センターの岸谷のところに行き、在庫の確認をした。坂口は江口にいわれことを心にとどめ、大事なことは直接会って伝えるようになった。

岸谷 「また、無理な注文を受けてきたな。駄目だよ。新製品はもともと、来月から本格販売ということになっていて、いまは生産量を調整しているんだから。製造部に確認してもいいが、多分、難しいだろうな」

 坂口はすぐに製造部の藤木のところに向かった。藤木は今月の実績を基に、来月の予定を組んでいるところだった。

坂口 「藤木さん、新製品を至急、増産してほしいんですが」

藤木 「無理だよ〜。うちは1カ月単位で生産量を決めているんだから。来月になるまで配分を変えることはできないよ。それはシステム開発のミーティングでも話したと思うんだけどなぁ」

坂口 「それは知っています。無理を承知でお願いに来たんです!」

藤木 「う〜ん、生産量の急な調整は無理だな……。そうだ、ちょっと待ってくれよ。受注量よりも多めに作ってあるから余分があるはずだ。えっと、この数字から来週の出荷数量を引いて……」

 藤木はいくつかの資料から来週の出荷予定数をはじき出すと、生産予定数量の比較から予備在庫の量を計算する。

藤木 「うん、稼働時間を少し延ばせばなんとかなりそうだ。これなら上にも説明できる」

坂口 「ありがとうございます! 今度の顧客は絶対に獲得したかったので無理をいいました。すみませんでした」

藤木 「顧客あってのビール会社だからな。分かるよ、その気持ち。まぁ、頑張れよ!それにしても、そろそろこの月単位での計画には無理が出てきているなぁ。前から週単位での計画への移行は話が出ていたんだが、業務が忙しくなるということで反対意見が多くてね。でも配送センターからも在庫削減の依頼があるので、できるだけ早く生産調整をしやすい週単位での計画に移行しないとな」

坂口 「そうですね。自分にお手伝いできるところがあればいってください」

藤木 「頼むよ。生産情報、在庫情報、販売情報が一元管理できないと、週単位での計画は不可能だからな」

 坂口は製造部を出て営業部に戻る間、豊若にいわれていた質問の答えを見付けたような気がしていた。早速その日の夜、豊若に連絡を取り、おなじみのバーに向かった。

坂口 「豊若さん、この前、足りないといわれたものが分かりました。それは、営業の基になっている会社の仕組みですね。在庫管理や生産方法、そういうことの知識なしには、新営業支援システムはうまくいかないんですね」

豊若 「そうだ。よく気付いた。どんなシステムでもそうだが、会社全体の仕組みがあるだろう。その中での位置付けをきちんとしておかないと、結局、独り善がりのシステムになってしまうんだ。特に情報共有に関するシステムは、他部署の実態を確認しないことには二度手間、三度手間になってしまう」

坂口 「はい。今日、配送センターと製造部に行って、両方の情報(在庫情報、生産情報)が月単位で管理されていることや、営業から上がる販売情報とのリンクが不十分なことが分かりました」

豊若 「そうだな。基幹システムにはすべての情報が入っているのだが、精度や更新時期がばらばらなんだよ。福山もずいぶんそれで苦労しているようだからな」

坂口 「ありがたいことに、主要メンバーはすべてシステム開発メンバーにいます。新営業支援システムの基本情報として今度のミーティングで話してみます」

豊若 「今回のシステムはいくらでも広がりを持たせられるが、問題は尽きないはずだ。よく範囲を見切ってやらないとな」

坂口 「頭の中で問題が渦巻いていますよ。目的と範囲を明確にし、システム構築がブレないように基本をしっかり固めるようにします」

豊若 「そうだ。業務とIT、このバランス感覚を常に見失わないようにすることが大切なんだ。なかなか難しいが、君にならきっとできる」

 坂口はまた一歩自分が成長した気がした。その横で、豊若はまるで昔の自分を見ているような優しい目で見守りつつ、「自分と同じようにつらい目に遭わせないよう、この若者を支援してやろう」と思った。

◆次回予告◆

 江口の助けを借りて、何とかクレームを処理した坂口。そこで坂口は、直接顔を合わせずにメールや電話で仕事を済ませていたことが、今回のトラブルの一因となっていたことを思い知ったのでした。一方、坂口のシスアドとしての知識が同僚を助ける一面もありました。次回は、本格化するプロジェクトの進め方で新たな障害が発生しますが、坂口の自力と周りからの多くの支援で乗り越えていく様子をお届けします。

東京本社・営業1課 メンバー構成

課長 浜崎 雅則(はまざき まさのり) 43歳


課長代理 江口 章輔(えぐち しょうすけ) 38歳


主任 椎名 純平(しいな じゅんぺい) 33歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 30歳 


チーフアシスタント 松下 真樹(まつした まき) 35歳


アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ)  26歳


アシスタント 水元 優香(みずもと ゆうか) 24歳


営業部 部長 田所 譲司(たどころ じょうじ) 50歳


上級シスアド 豊若 越司(とよわか えつし) 38歳


今回登場メンバー

配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 41歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 33歳


コンビニロートン店主 松本 智志(まつもと さとし 42歳


スーパージャスト主任 唐沢 弘明(からさわ ひろあき) 42歳


profile

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者5名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー5名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


森下 裕史

上級システムアドミニストレータ連絡会・ミンツ代表


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