実際に構築・運用したとき、いろいろな問題が発生しました。また、私には技術的能力はありませんが、いろいろな発展が考えられます。
項目やファイルの定義について
ユーザー辞書の機能について
分散形態や3層構造での利用
このユーザー辞書を構築した経験では、これらの処理システムを作成するよりも、ファイルや項目の個数が多く、その解説書を作成する作業量が膨大なことが、ユーザー辞書の展開を妨げることを実感しました。そこで、ある分野を対象にしただけで放棄してしまった次第です。
しかしユーザー辞書は、情報検索系システムに非常に役に立つツールですし、それだけでなく、基幹業務系システムの理解に大きな効果がありました。いまでいえば、EAのデータ体系整備そのものであるといえます。
ユーザー辞書は存在するのが当然だ
ここでは、情報検索系システムの利便のためにユーザー辞書を作ることにしたのですが、そもそも基幹業務系システムでのER図やクラス図を検討するときに、項目やファイルの定義を明確にする必要があったはずです。しかも、そのときは、実装のための定義以前に実務での定義がなされていたはずなのです。すなわち、ユーザー辞書のコンテンツは、ことさらに意識して作成するのではなく、システム検討のプロセスで必然的に作成されるべきものなのです。
ですから、ユーザー辞書作成の作業が大変だというのは、実はシステム開発プロセスの管理が不十分であったということなのです。
当初からユーザー辞書を作ることは効果が大きい
利用者の視点で項目やファイルの定義をすることにより、次のような効果が得られます。
逐次改善しやすい
ユーザー辞書は当初からあるべきものではありますが、現実には当初から万全のものが整備されるとはいえません。実際に利用している間に、いろいろな質問に回答するときに随時補充していけばよいのです。機能も同様で、当初はシンプルなもので構築し、ニーズにより追加していけばよいのです。それには、ここで示したような、柔軟な結合の構造にしておくのがよいと思います。
このように考えると、このユーザー辞書は、情報検索系システムの普及に効果があるだけでなく、データ定義支援ツール、データリポジトリ、DBMSの基本機能として位置付けられると思います。第14回「データウェアハウス中心アプローチで問題解決しよう」で、情報検索系システムを基幹業務系システムに先行して検討するべきだとの「逆歴史的体系」を提唱しましたが、ユーザー辞書はそのアプローチと一致しています。
ところで、筆者はこのユーザー辞書機能をDBMSやOLAPツールに実装する能力がありません。アイデア権(?)は主張しませんので、どなたか実装をご検討いただけないでしょうか。あるいは、筆者の不勉強で、このようなツールがすでに存在しているとか、自社でこのような利用を実践しておられるようでしたら、ぜひ教えてください。
この記事に対するご意見をお寄せください managemail@atmarkit.co.jp
木暮 仁(こぐれ ひとし)
東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.