ウォークスルーで新システム、新業務のイメージ共有企業システム戦略の基礎知識(13)(2/2 ページ)

» 2005年11月26日 12時00分 公開
[青島 弘幸,@IT]
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参加者は、役者・監督・スポンサー

 通し稽古に参加するのは役者だけでなく、監督やスポンサーも含まれる。つまり、システムを利用する業務担当者だけでなく、職制の長や経営層なども参加して、それぞれの立場からチェックするのが理想だ。役者に相当する担当者は、画面や帳票のスケッチを見ながら、業務フローに沿って実際のプロセスを追ってみるときに、想像力を働かせてあたかも実際に画面を操作しているように振る舞うことが重要である。

 単にスケッチをスケッチとしてだけ見ているのでは、問題を発見することが難しい。実際に使用する場合に想定される問題を、いくつか発見できないようであれば、それはまだ対象の画面や帳票、業務プロセスを関連付けてよく理解していない可能性がある。

 特に、模型ではすべてを網羅することが難しい例外処理などは、「もし、こうだったら、どうなるだろう」「この条件が変わったら、どのようになるのだろう」といった考察が必要だ。このような考察は新人には難しいので、やはり利用部門のベテラン・キーパーソンの働きが重要になる。

 しかし新人が必要ないかというと、そうではない。ベテランがこれまで常識だと思っていたようなところを、新鮮な目で見ることで重要な問題を発見することもあるからだ。このように役者として新人とベテランがそれぞれの立場で十分に力を発揮することで、舞台はダイナミックでリアリティのあるものになっていく。

 この役者の動きを、1つ高い視点から全体的に見渡すのが監督だ。監督にも総監督や舞台監督、美術監督などが存在するように、業務にかかわるさまざまな立場の管理職が参加しなければならない。

 新しい業務プロセスやシステムというのは、どちらかといえば「あるべき論」、つまり理想の形を描いているものだ。しかし、現場の管理監督者が確認することで、現実的なレベルになっているかどうかをチェックすることができる。そこには、思いもよらない現行組織の壁が立ちはだかっているかもしれない。もし、そのようなセクショナリズムがあるなら、システムの実装や実稼働が行われる前に一戦交えてもらった方がよい。「雨降って地固まる」のように、悪い膿(うみ)は早めに出しておく方がよいのだ。

 こうして、管理監督者や実業務担当者が新しい業務プロセスとシステムを疑似体験してみて「イケそうだ」という感触が得られたなら、最後にスポンサーである経営層にも参加してもらう必要がある。

 そもそものシステム構築の目的は、経営上の効果を狙ったものであり、最終的に投資を行うのは経営者であるのだから当然だ。経営層はスポンサーとして舞台が意図したように仕上がっているかどうか、最終確認を行う責任があるし、舞台の出来が気にならない熱意のないスポンサーは、現場にとっては危険だ。いずれにしても、スポンサーの了解を得られない舞台が幕を開けることはない。

 大切なのは、幕が上がってしまってから舞台の内容がスポンサーの意図とは違うことが判明したり、役者や監督の努力がスポンサーには成果として感じられなかったりといったチグハグなことにならないようにすることだ。

ウォークスルーの心得

 さて、ウォークスルーを実際に行う場合に気を付けなければならない心得がある。最も大切なことは、ウォークスルーの意味を参加者がよく理解しておくことだ。それはすなわち、「本番さながらに演じる」ということである。本番さながらに演じるためには、台本(業務フロー)や小道具(画面や帳票)、配役(役割)をあらかじめ十分理解していなければならない。

 これらの理解が不十分であったり疑問があったりしたのでは、ウォークスルーの途中で台本の説明や議論が始まってしまい、本番さながらに演じることはできなくなってしまう。そうなると全体の流れが中断することになり、ウォークスウルーの効果が半減してしまう。最悪のケースでは、台本や小道具の説明だけで時間切れになって終わってしまいかねない。

 従って、ウォークスルーを行うときには、台本(業務フロー)や小道具(画面や帳票)を事前に配布しておき、疑問や不明点はあらかじめ確認しておいてもらわなければならない。その上で、あくまでウォークスルーでは全体の流れの中での矛盾や不整合などを指摘していく。指摘していくだけで、その場では議論しない。議論は、ウォークスルーの舞台を降りた後に別途行うことにするのである。途中で説明や議論を挟みながらダラダラやるのではなく、1時間くらいで集中して行える範囲にテーマを絞って、何回かに分割して行うのがよい。

 次回は、主要なドキュメントのレビューについて解説する。

著者紹介

▼著者名 青島 弘幸(あおしま ひろゆき)

「企業システム戦略家」(企業システム戦略研究会代表)

日本システムアナリスト協会正会員、経済産業省認定 高度情報処理技術者(システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、システム監査技術者)

大手製造業のシステム部門にて、20年以上、生産管理システムを中心に多数のシステム開発・保守を手掛けるとともに、システム開発標準策定、ファンクションポイント法による見積もり基準の策定、汎用ソフトウェア部品の開発など「最小の投資で最大の効果を得、会社を強くする」システム戦略の研究・実践に一貫して取り組んでいる。趣味は、乗馬、空手道、速読。

システム構築駆け込み寺」を運営している。

メールアドレス:hiroyuki_aoshima@mail.goo.ne.jp


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