「知力のマーケット」は、単なる文書管理ではなく、行員の知的活動の場である。「知力のマーケット」における情報共有の場を「コミュニティ」と呼び、大きく3種類の「コミュニティ」を構築した。
1つ目は全社員が参加する「職種別コミュニティ」。同行の職種ごとに「個人顧客向け業務コミュニティ」「法人顧客向け業務コミュニティ」「管理業務コミュニティ」を構築し、その職種に必要な情報を提供した。
2つ目は「部室店コミュニティ」といい、部署内・支店内の情報共有を行うための場所である。
3つ目は「組織横断型コミュニティ」。これは例えば、2004年2月に新しく所沢にMTFGプラザを出店する際のプロジェクトメンバーの情報共有の場として支店・本部を超えて利用されたり、新規商品開発において、商品企画部門とシステム部門が協業するためのプラットフォームとして利用されたりしている。
こうした「コミュニティ」は全部で約400構築されたが、各個人は自分が関係する3〜5のコミュニティにのみ参加するため、全部で1200もあったデータベースに比べると、格段に情報へのアクセスが容易になった。
また、同行ではNotesにおいて実現できなかった情報の“見える化”(可視化)にこだわった。「知力のマーケット」上では、投稿された情報や通知が、いつ、誰に読まれたのかをリアルタイムで表示する機能、そして表示の内容には情報に対する評価を付与する機能を実装した(図9)。このトラッキング機能は情報作成・発信という業務のプロセス改善に大きく貢献しているという。
例えば、以前の本店のスタッフは資料を作成し、Notesに投稿するだけで業務を遂行したという感覚に陥りがちだった。しかし、本店スタッフの本来の任務は支店や支社営業をサポートすることであり、その観点からすると、発信した情報がきちんと相手に伝わり、理解され、かつ評価されて初めて業務を遂行したことになる。トラッキング機能は、そうした「自分のしているのは何のための仕事か」ということをあらためてスタッフに認識させ、資料作成というような日常業務の再評価と業務改革を促すきっかけになったというのだ。
さらに、どれだけ読まれたかを示す閲覧情報は、情報発信者の意識も変えていった。発信した情報がどの程度利用されたかが一目で分かるため、全行員に通知するべき情報が浸透していない場合は別の手段でも通知を行う、というように情報発信本来の目的を達成するためのアクションを取るようになったのである。
また、利用度が分かるため、それまでより利用者の視点で価値の高い情報を発信しようという意識が高まり、逆に利用価値の低い情報は、その作成業務そのものを見直すという業務効率化につながるようになったのである。
このようにトラッキング機能によって、棚卸しの際に行ったような情報の取捨選択を、継続的にしかも楽に行えるようになったといえる。
全成功体験やノウハウ、疑問を現場間で共有するコミュニティもオープンし、行情報の「知力のマーケット」への移行、行員への定着は1つの結果を見た。「知力のマーケット」を足掛かりに、三菱東京UFJ銀行は顧客志向への変革を加速させ、他の追随を許さない総合金融機関としての地位を築きつつある。
次回は、情報マネジメントを実際に行う際に重要となる施策について紹介する。
関連書籍
▼「この情報共有が利益につながる」吉田健一 著/2004年11月/ダイヤモンド社
吉田 健一(よしだ けんいち)
株式会社リアルコム 取締役 マーケットデベロップメント担当
一橋大学商学部卒。戦略系コンサルティングファーム、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンにおいて、国内外の大手企業に対する戦略立案・実行支援のコンサルティングに従事。その後、リアルコムにてプロフェッショナルサービスグループのディレクターとして、ソニー、NEC、ニコン、丸紅など大手企業に対する情報共有・ナレッジマネジメントによる企業変革コンサルティングを手掛ける。主に、情報共有をベースにした全社BPR、企業組織変革を専門とする。これまでに培った方法論と事例をまとめた書籍『この情報共有が利益につながる 〜経営課題に適した4つの実践アプローチ〜』(ダイヤモンド社)を監修。
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