「情報マネジメント」を実現する4つの施策“情報洪水”時代の情報流通戦略論(3)(3/3 ページ)

» 2006年04月01日 12時00分 公開
[吉田 健一(リアルコム株式会社),@IT]
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見える化による継続的品質向上

 情報の整理・整とんにより、せっかく情報の品質が向上しても、1年たったらまた情報の洪水に逆戻り──では意味がない。継続的に情報品質が向上する仕組みをビルト・インする必要がある。継続的な品質向上に有効なアプローチがトヨタ生産方式で有名になった「見える化」である。

 「見える化」とは、生産現場で問題を「見える化」することで、現場による自律的な問題解決を促進するということである。例えば、在庫の量を壁に張り出して「見える化」することで、現場は在庫削減に積極的に取り組むというわけだ。

 情報マネジメントにおける見える化には3つのアプローチがある。1つ目は「有用度・活用度の見える化」である。三菱東京UFJ銀行のケースでもあったように、玉石混交の膨大な情報の中から、本当に価値のある情報を絞り込むためには、どの情報がどの程度利用されたかの閲覧数を活用度として表示するのである。こうすることで、受け手は本当に使われている情報がどれなのかを把握することができる。また、閲覧数だけでなく、有用な情報にはフィードバックスコアを付けることで、その分野で最もよく利用されている情報、またはほかの人が業務で役に立ったといっている情報を優先的に活用することができる。「みんなが使っている情報は、わたしにも役に立つはずだ」という発想で情報の品質を見える化するのである。こうした「有用度・活用度の見える化」は、情報の出し手の業務の見直しにも効果がある。三菱東京UFJ銀行では、閲覧数やフィードバックスコアの低い情報については受け手のニーズがあまりないものと判断して、無駄な情報作成業務を見直した。また、閲覧数やスコアの高い情報については受け手のニーズが強いと判断し、より充実した情報提供を心掛けたのである。こうして、「有用度・活用度の見える化」は出し手と受け手双方における情報品質の向上を実現する。

 2つ目の見える化は「鮮度の見える化」である。情報洪水の最も大きな原因は、賞味期限が切れた情報が新しい情報に交じっていることにある。賞味期限を見える化することで、新鮮な情報だけを受け手に届けることができるようになる。まず情報を情報マーケットに出品する際には、必ず賞味期限を決めて投稿することを義務付けることが重要である。こうすることで賞味期限が来た情報を自然と非表示にすることができ、受け手から見れば新鮮な情報しか目に留まらなくなる。それでも時間がたつにつれ、ゴミ情報がたまってくるものである。そこで、定期的に「1年間利用されていない情報は非表示にする」といった情報棚卸しのルールを設け、自動的に棚卸しを行うことで常に情報マーケットを新鮮な状態に保つことができるのである。

 3つ目の見える化は「コストの見える化」である。情報流通の世界ではつい忘れがちなのだが、情報流通には出し手・受け手ともに膨大なコストが掛かっている。例えば、メールに資料を添付して1万人にあててに送る場合、出し手は特にコストを気にせず送信しがちである。しかし実際は、1万人がこれを読むために10分間を使うと、延べ1667時間、時間当たり3000円としても500万円のコストがクリック1つで発生してしまうのである。この情報流通に掛かるコストを見える化することで、情報流通のムリ・ムダ・ムラを省くことができる。ケースの三菱東京UFJ銀行では、全社向け通知通達の送信時に必ず確認画面が表示され、「この通知通達を送信することで、行員が情報を閲覧するのに1万5000時間かかりますがよろしいですか?」と情報流通のコストを見える化している。このようにコストを見える化することで、送信先を本当に必要な相手に絞り込む、記事を短くしたり添付ファイルを簡略化する、無駄な連絡はしないなど出し手側に自律的な改善をさせることが可能となるのである。

情報活用の「お作法」の徹底

 いくらITツールを整備しても、最後は情報を活用する個人の能力いかんに掛かっている。ところが、IT化の進展とともに情報活用力の個人差が顕著になりつつある。ITツールが導入される前の「紙の時代」では、情報活用の「お作法」がかなりきちんと整備されていたため情報活用力のばらつきは少なかった。ビジネスレターや書類にはひな型があり、誰でも品質の高い書類を作ることができた。通信はテレックスを使い、一言一句ルールに基づいて言葉が選ばれた。配布された書類は、キャビネットにきちんと分類して保存し、年に1度はファイルの棚卸しをしたり、毎月不要な文書を捨てたりといった活動を行っていたものだ。しかし、紙のファイルが消え、テレックスがメールになってからは、なぜかそういった情報活用の「お作法」が忘れ去られて無法地帯となり、情報活用のやり方もバラバラになってしまったのである。情報マネジメントの視点から、いま一度情報活用の「お作法」を徹底させる必要がある。

 情報活用の「お作法」の中ですぐに取り組めるのが「テンプレート」である。紙の時代に用意されていたひな型を、もう一度実現するのだ。「PowerPointのデザインをどうしようか」「きれいな文書を作ろう」といったことに費やしている社員の時間は実は計り知れないものである。作成する各種文書のテンプレートを作成してしまうことで、情報作成業務が効率化されるだけでなく、ほかの人の再利用の促進や、企業CI統一にも寄与する。文書だけでなく、メールのテンプレート、情報分類のテンプレートなど、さまざまな分野でテンプレート化が可能である。「社員に無駄なことは考えさせない」というのがテンプレートの基本である。

 テンプレートを一歩進めたものが「ベストプラクティス」である。ベストプラクティスとは、好業績者=ハイパフォーマーの行動様式をテンプレート化したものである。例えば、ある製薬メーカーの営業部門では、Aクラス営業マンの業務活動を分析したところ、営業に行く前に病院の情報を調べる、営業から帰ってきたらその日のうちに日報を書く、といった共通の行動様式があぶりだされた。そこで、営業マン向けの情報提供サイトのメニューを、このAクラス営業マンの活動を抽出した形でメニュー化し、営業前、営業中、帰社後といったシーンに分けてAクラス営業マンが行う活動へのリンクを表示した。こうしたナビゲーションをすることで、B・Cクラス営業マンにも自然にAクラス営業マンの行動パターンが伝播していくのである。

 お作法の徹底をさらに進めていくためには、テンプレートやベストプラクティスだけでなく、そもそも「情報に対する考え方」を教育・啓蒙することが欠かせない。ある大手機械メーカーでは、情報マネジメントを行う際に最も重要なことは従業員の情報に対する意識であると考えた。従業員は自分が作成した情報は個人のものだと考えがちであり、その結果、情報の抱え込みや機密管理の不徹底が問題となっていた。そこで同社では、現行の「機密管理規程」を解体し、情報活用も盛り込んだ「情報取扱規程」という会社として情報をどう扱うかのルールを制定し、従業員に徹底した。本規程では、社内の情報は「共有情報」と「機密情報」の2種類しかないと取り決めたことで、従業員には情報は共有するか機密としてしっかり管理するかの二捨択一を迫ることができた。こうして、機密管理という「ブレーキ」と情報公開・活用という「アクセル」をバランスよく使い分けて、情報活用を推進できるようになった。

 次回は最終回として、第3世代の情報基盤に求められる要件について述べていきたい。

筆者プロフィール

吉田 健一(よしだ けんいち)

株式会社リアルコム 取締役 マーケットデベロップメント担当

一橋大学商学部卒。戦略系コンサルティングファーム、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンにおいて、国内外の大手企業に対する戦略立案・実行支援のコンサルティングに従事。その後、リアルコムにてプロフェッショナルサービスグループのディレクターとして、ソニー、NEC、ニコン、丸紅など大手企業に対する情報共有・ナレッジマネジメントによる企業変革コンサルティングを手掛ける。主に、情報共有をベースにした全社BPR、企業組織変革を専門とする。これまでに培った方法論と事例をまとめた書籍『この情報共有が利益につながる 〜経営課題に適した4つの実践アプローチ〜』(ダイヤモンド社)を監修。

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