リーダーシップを発揮するにはどうすれば?(前編)何かがおかしいIT化の進め方(25)(2/2 ページ)

» 2006年06月03日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]
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「そんなことなら最初からいっておいてくれ!」の内容がポイント

 例えば、ある問題を進めていくうえで、「どこまで自分の判断で決めてよいのか?」といった問題で悩んだことはないだろうか。このための基準は、仕事の性質や人の動きが比較的安定した組織の中では組織の常識(暗黙知)として存在しており、日常的にはあまり意識せずに済んでいるかもしれない。しかし、人の動きや仕事の内容の変化が激しい職場では、これが大きな問題となる。

 よく「ほう・れん・そう――報告・連絡・相談が大切」と、ものの本には書いてある。それはそのとおりだろう。しかし、具体的には「どんなことは報告しなければいけないのか? どのようなことならしなくてよいのか?」、その基準の食い違いが問題になるのだ。「ハウツー(方法)は任す」といわれても、上司の考える方法レベルと部下の考えるレベルが同じという保証はない。

 例えば、問題が起これば「なぜ報告しなかったのか? なぜ承認を求めなかったのか?」と上司に怒られ、こまめに報告していると「そんなことくらい、いちいちいってこないで自分で考えてやれ!」と思われているのかもしれない。こんな心配事があると、安心して前向きに力を出し切れなくなる。

 部下の立場から考えると、自分にできそうなことなら、できる限り任せてくれて、自分のやりたいようにできる方がやりやすいし、またやる気も出る。しかし、現実は厄介なもので、あまり自由度があり過ぎても(よりどころがないと)、かえって、どうしてよいものか悩む場合が増えてくるし、苦労してやった後から文句をいわれるのは一番やり切れないものだ。そのようなケースでは、「そんなことなら、初めからいっておいてくれ!」ということになる。

 上司にしても、細かいことをいちいち指示しないといけないようでは困るし、任せたばっかりに、自分の常識からすればとんでもないことを部下がやらかしてくれるのはもっと困る。やるべき水準で、部下が仕事をやってくれないのも深刻な問題になる。やる人の能力と前提条件や枠組み設定(自由度の逆)のバランスが重要なのだ。

 つまり、リーダーシップ発揮の最初のポイントは、上記の「そんなことなら、初めからいっておいてくれ!」にある。ここにある“そんなこと”の内容、つまり「任せるための前提条件」を整理し、それをどのような形で部下と共有できるようにするかという問題だ。安心して部下に任せ、存分に力を発揮してもらえる土俵作りの問題ともいえる。

「そんなこと」を一言で表現してみる

 もちろん、「そんなこと」の内容を事前に事細かに列挙できるわけではない。自分が上司に対して求める項目内容を具体的に列挙してみて、それらを問題の性格ごとに分類し、それぞれを「一言でいうと、具体的にどういうことになるのか?」を考えてみる必要がある。

 これで、「安心して仕事に打ち込めるために、上司は“こういうこと”をはっきり示しておく必要がある」ということが整理されたことになる。“こういうこと”とは自分と部下の間では、“どういうこと”になるのかを当てはめてみると答えが見えてくる。

組織の中で「自分に何が求められているか」は中間管理者が自ら考える問題

 中間管理者として組織を預かるマネージャの役割は、自分の1つ上の組織の役割や方針を理解して、その中で自分の預かる組織の役割を自ら考えて、方針を設定し、それを自分の部下や関係者に理解させて徹底することだ。

 従って上司に求める「そんなこと」は、自分の所属する上部の組織に関するものであって、「その中で、自分には何を求められるか?」は自分自身が考えるべき問題である。自分や自分が預かる組織に対し、上司から具体的な直接的な指示があるのは、特別の場合と考えておく方がよい。

仕事の目的を明確にする

 また、仕事の目的を明確にしておくことが、仕事を任せる・任せられるうえでの大切な条件になる。具体的な段階で遭遇するさまざまな問題の解決方法の選択や判断の基準は、多くの場合、この「目的の内容」に求められるからだ。これが不明確だと、部下は苦労の揚げ句に間違った結論を選んでしまう。管理者からは文句をいわれ、部下はやる気を失う。無駄な時間とコストが掛かり、組織全体の評価が下がる、という最悪の結果が待っている。

 「そんなことで」と思われるかもしれないが、世の中にはこんなケースも結構多い。手段の目的化―例えば、IT化が目的になっているようなことは、皆さんの周りにはないだろうか。

間違ったリーダーシップと人の育たない職場

 部下に対しても同様に、自分の役割をまず自分で考える職場の価値観を醸成していけば、自然と後継者が育つ環境にもつながる。逆に部下に事細かに具体的な指示をしていると、多くの部下は指示待ち人間や考えない人間になってしまう。

 具体的な作業の指示をどんどん出して部下を手足のように使う、これをリーダーシップと誤解しているらしい「俺がルールだ」というような人がときどきいる。人間はもともと指図をするのが好きな動物だ。

 当人は楽しいし、大いに働いている気になれるのだが、やっていることは部下の仕事を奪い、部下のレベルの仕事(本来、部下自身が考えるべきこと)をしているわけでもある。これは、自分自身と部下の双方の向上機会をつぶしている。気を付けないと、やがて「考えないから成長しない、できるようにならない」「できないからやらせられない」「やらさないからできるようにならない」という悪循環の中で、人の育たない職場/成長しない組織になってしまう。

profile

公江 義隆(こうえ よしたか)

ITコーディネータ、情報処理技術者(特種)、情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)

元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる


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