新技術ラッシュをいかに乗り切るか?システム部門Q&A(32)(2/3 ページ)

» 2006年06月15日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

新しい酒は新しい革袋に?

 では、なぜ新用語は頻発するのでしょうか。

 ITに限りませんが、何らかの概念を提唱したり技術を発表するときには、新しい名称を付けた方が独自性があるように見えます。しかも、前述しましたが、新しいことを主張するときには、とにかく以前のことを否定しがちです。この傾向は、マスコミだけでなくコンサルタントにも多く見られます。こうして、その概念は必要以上に新しいもののように受け取られていくのです。

 例えば、データウェアハウスの概念は、(提唱者のインモンもいっていますが)1970年代のDSS(意思決定支援システム)や80年代を通して普及した情報検索系システムの概念とほとんど変わりません。当然、取り扱うデータの大きさや、プラットフォームとなるハードウェア、データベース、並列技術など環境は大きく変化しましたが、その本質である、エンドユーザーのアドホックな情報要求に応えるために、ファイルの持ち方を工夫するとか、アクセスする簡易ツールを提供しようという概念は変化していないのです。

 また、データマイニングは、大量データを統計的に処理して問題発見や仮説検証をすることですが、統計学や数学を経営問題に活用すること、その処理にコンピュータを用いることはOR(オペレーションズ・リサーチ)といわれ、コンピュータの黎明期から多様なパッケージが存在していました。ORとデータマイニングの違いは、入力のGUI化、出力の画像化、扱えるデータ量の膨大化などであり、極端にいえば枝葉末節な機能にすぎません。

 ですから、本来であれば、あえてデータウェアハウスやデータマイニングなどの名称を考え出す必要はないのです。新しい名称を付けるのは、「寿命40冊説」などの商売上の都合でしょう。これに振り回されないようにしましょう。

表面の変化に惑わされるな

 確かにIT分野は秒進分歩ですし、経営環境も激変していますから、新しい技法に追従することが必要ではあります。しかし、車を運転するときには、近くだけを見ていたのでは蛇行してしまいます。

 その典型的な例に、集中・分散論議があります。

 ダウンサイジングがブームになった1980年代末から1990年代初にかけて、集中から分散へ180度変わったようなことがいわれました。

 ところがそれ以前でも、支店や工場にはコンピュータが置かれていましたし、エンドユーザーはTSSによりメインフレームからデータを取り出してPCで編集していたのです。電子メールも汎用コンピュータで行っていた企業もあります。

 また、そのブームのさなかにおいても、本質を理解しているIT部門は「サーバ1台に1人の人身御供」が必要なので、管理費用が増大することを知っていました。支店の経営部が情報共有をしたいのは、同支店の営業部ではなく本社経理部なのだから「場所サーバより部門サーバ」が適切なので、サーバは集中した方がよいこと、しかも、部門間サーバのデータ共有を円滑にするには、できれば筐体を1つにまとめることが適切であることを認識していました。

 そのうち、通信コストの低下によって、集中した方が費用も掛からず便利だとか、セキュリティ対策からシンクライアントにする動きが出てきました。これは、レガシー時代にTSSで運営していた環境ですね。

 当時も情報検索系システムとして、基幹業務系システムで収集・蓄積したデータをエンドユーザーが使いやすい形式に整理して公開し、必要な人が必要なときに必要な情報を入手する利用形態は普及していました。一部の企業では、電子メールや電子掲示板も利用されていました。操作性はお粗末でしたが、情報検索系システムとの連携はむしろ容易で、社内ポータルのような利用をしていた企業もあります。

 そもそも集中・分散論議などは意味がないのです。本質は、エンドユーザーが使いやすく、管理にも手間が掛からず、全体のコストを低く実現するにはどうするかなのです。現象的にはIT技術の進歩やネットワーク環境などにより変化しますが、目的とするベクトルは昔から変わっていないのです。

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