新技術ラッシュをいかに乗り切るか?システム部門Q&A(32)(3/3 ページ)

» 2006年06月15日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
前のページへ 1|2|3       

自分の体系を作れ!!

 ご質問のオブジェクト指向やSOAの話に戻します。これらの底流は、部品化とその再利用によるシステム開発・改訂の容易化であるとします。それはソフトウェア方法論の初期から、脈々といわれてきたことの延長線上にあることが分かります。

サブルーチンと標準パターン

 FORTRANやCOBOLの全盛時代から、共通した処理をその都度プログラミングするのはバカげていますので、システム設計に当たっては、機能をモジュール(コンポーネント)に分解して、共通する機能や、ほかのシステムでも利用できる機能をサブルーチンにすること、それを標準化・体系化してライブラリにすることが普及しました。それらのサブルーチンは洗練して適切なパラメータにより汎化されるとともに、複数のサブルーチンを呼び出すサブルーチンにより、より業務的な機能に近いサブルーチンにすることもできます。

 事務処理では、対象業務は多様でも、処理機能は更新処理、マスタファイルとの照合処理、集計処理など比較的少数のパターンになります。それらのパターンをプログラムスケルトンとしておき、対象業務により特殊な機能を穴埋め方式でコーディングすれば、プログラム自体が標準化されるので、開発にも改訂にも効果的であることはよく知られていました。

 これらが整備した環境では、まず標準パターンを取り出し、独自コーディングする個所はサブルーチンを呼び出すCALL命令を羅列するだけでよいということになります。

データの正規化とDOA(データ中心アプローチ)

 1970年代には、DOA(データ中心アプローチ)が盛んになりました。個々の業務システムでの人間の仕事をプログラムにするのではなく、全社的な観点から必要となるデータを列挙し、データ構造によりデータの正規化を行いリレーショナルデータベースで格納するのです。

 個々の業務は、そのデータベースを創成、更新、参照するプログラムであると考えるのです。これは、データの部品化・共有化を図ることにより、縦割り的な情報システムになるのを防ぐとともに、環境変化に対して安定な情報システムにすること、改訂が容易な情報システムにすることに効果的です。

オブジェクト指向

 DOAはデータの部品化をしましたが、オブジェクト指向とはデータを取扱うメソッド(プログラム)も部品化しようというものだと解釈できます。また、メッセージとは、上記のCALL命令を洗練したものだともいえます。

SOA

 SOAにはいろいろな視点がありますが、極端にいえば、多くの業務処理を機能分解して部品化し、類似機能を体系的に整理することにより再利用することだともいえます。サブルーチンやデータの正規化当時では、プログラムやデータというシステム提供側の視点が濃厚であったのが、サービス(機能)という業務そのものからの視点へと発展したのだと解釈することができます。

 このように、これらはすべて部品化による再利用という底流があり、その対象がコーディングのレベルから業務機能のレベルへと発展する過程において、より高次な概念へと進化してきたのだととらえることができます。

 このように理解することによって、従来の概念がどのように高い概念へと置き換わったのか、あるいは本質的な変化はなく、表面的なツールだけの進歩なのかを見極めることができます。それによって、本気で取り組む必要があるのか、バズワードとして一時的なブームの後に消え去るものなのかをある程度判断できます。また、本気で取り組むときにも、新しく加えられた概念は何かを考えることにより、それの本質を理解できるでしょう。

 このようなアプローチができるようにするには、これまでの概念を体系的に整理しておき、新概念を表面的に追うのではなく、その本質を考えて、体系のどこに位置付ければよいかを考えることが必要です。

 その体系を作るのは困難ですし、規範的な体系があるわけでもありません。ここでは部品化・再利用化の観点から位置付けましたが、Web技術の発展の視点や利用者へのサービスという観点から体系付けることもできるでしょう。どのような体系化が適切であるかは、自分の業務や関心によりますので、他人に示されたものをうのみにするより、自分で考える方がよいのです。

 技術の発展や環境の変化により、体系自身を再構築する必要があるかもしれません。実は、その再構築をすることが、その概念や技術を理解するのに非常に効果があるのです。ですから、自分なりの戸棚を作っておき、新しい話題があったら、戸棚のどこに入れるのが適切かを考えます。適切な戸棚がないようならば、全体がおかしくなってきたのですから、中身をすべて取り出し、戸棚の順序を入れ替えることをおっくうがらないで行うのが必要です。

 藪(やぶ)の周りをうろついているような内容になりましたが、これをご質問への回答とします。

この記事に対するご意見をお寄せください managemail@atmarkit.co.jp


筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ