内部統制でやるべきことと、いまできることIT担当者のための内部統制ガイド(3)(2/2 ページ)

» 2006年07月20日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
前のページへ 1|2       

IT活用で“やるべきことと、いまできること”

 米国の事例ですが、年商50億ドル以上の企業で平均6万時間以上もの作業が必要だったという報告があります。

 米国に上場する日本企業においても、内部統制の方針を決めてから準備ができるまでに約1年半を要したとのことです。ご存じかもしれませんが、米国SOX法の適用はあまりにも負荷が高いため、中小企業に対しては適用されていません(現時点で適用されているのは米国に上場している企業1万7000社のうち、発行済み株式の時価総額が7.871億ドル以上の大企業のみで、その数は全体のわずか2割です)。しかし、いまのところ日本版SOX法ではこうした企業規模による適用除外を想定しているという話はありません。従って、上場企業はそれぞれの内情に即して、速やかに作業を進める必要があります。

 昨年ある監査法人が内部統制対策にどの程度の専任体制を作っているかというアンケートを実施したところ、5〜10人程度というところが、全体の4割を占めて多かったという報告がありました。これを単純に事務局の作業担当者で等分することはできませんが、いずれにしても作業負荷が高いことは確実です。『実施基準』の公開が遅れていることは、こうした作業にも影響は避けられないと思います。全体の作業ボリュームを想定して、前倒しして対応できることは早期着手すべきではないかと思います。

 一般的に、内部統制の整備作業に負荷が高いのは文書化作業、テスト・評価作業そしてIT統制へのシステム化対応だといわれています(図4)。

図4:内部統制整備を支援するITソリューション

 この際にポイントとなるのは、(1)文書作成を支援するツール、(2)プロジェクトの進ちょく管理を支援するツール、(3)膨大な文書や議事録などコンテンツ類を集中管理する仕組み、(4)全社員との情報共有コミュニケーション管理および育成ツール、そして(5)IT統制を実現するシステム整備の5点です。

 (1)(2)(3)は、事務局の作業負荷を軽減し効率化の手段としてIT活用による効果が最も高いところだと思います。(4)は内部統制の運用を適正に行い、全社員の意識改革やレベルアップを行うのに有効です。そして、(5)は仕組みの整備に必須の要件であり、コストや時間的な制約が最も難しいところです。

 実際、米国の例でも基幹系システムの整備がボトルネックとなったケースが多数あります。ERPなどの導入や既存システムの改修は、特に手間が掛かりますから、可能な限り迅速な決断を行う必要があります。スケジュールから逆算すると、遅くとも2006年度中にはめどを付けておく必要があるといえるでしょう。対応すべきアプリケーションの数は、そのまま作業負荷に反映されます。

 早い段階に、こうした視点でどのようにITを活用していくかを検討しておくことを、強くお勧めします。人海戦術では、米国の失敗事例と同じ結果を繰り返すことになると思われます。

 “やるべきことと、いまできること”について、次回はシステム対応の具体的内容についてご紹介していきます。

著者紹介

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。

1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。

2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの 導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ