文系学生はIT関連科目で何を学べばよいのか?システム部門Q&A(33)(2/2 ページ)

» 2006年08月03日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
前のページへ 1|2       

大学のIT教育の現状

 上述のような分野は、一握りの高度情報技術者を対象とするだけではなく、非情報系の人たちにも一般知識能力として指導するべき事項だと考えます。ビジネススクールではこの分野の教育をしていますが、ビジネススクールに通学する人はいまだにごく少数ですので、大学の非情報系学部でも、これらの基礎的な訓練をするべきだというのが私の意見です。

 非情報系学部でも情報教育を重視していますが、現状ではIT活用能力の教育とはかなり異なる状況になっています。

・パソコン操作技能

 とかく利用者のためのIT教育というと、WordやExcel、Internet Explorerの操作技能が中心でした。それが必要なことは当然ですが、子供もパソコンを持つようになったことや、初等教育・中等教育で教えるようになったことで変革を迫られております。それでもPowerPointやAccessなどを加えるなど、マイクロソフト商品のパソコン教室になりがちです。

・資格取得指導

 少子化対策で大学は学生確保に苦労しています。就職難の時代が続いたため、資格取得が就職に有利だとされ、IT関連資格取得が学生確保の目玉になりました。文系では初級シスアドが精いっぱいですが、初級シスアドの試験内容は、上記のようなIT活用能力とはかなりギャップがあります。

・科目数が少ない

 大学ですので、プログラミングやデータベースなど、どちらかといえばIT提供側に属する科目もあります(これも時間数が少ないので中途半端になりがちですが)。IT活用分野では、経営情報論とか情報処理論のような科目(注)もあります。

 しかし、その科目数は限られており、一般学生が履修するのは、パソコン操作技能以外の科目は提供されている科目数も少なく、さらに選択科目なので、1人の学生が履修する科目数は非常に少ない状況です。これで大学生としての情報関連知識を網羅する必要がありますので、どうしてもIT全般を表面的に取り扱うことになります。

・他分野でのIT関連が少ない

  IT活用能力は、企業実務と大きな関係があります。企業の経験が乏しい学生には、企業人にとっては常識とされるような事項も授業で教える必要があります。それらについては、経営論や企業論などのビジネス系の科目で取り扱うことも考えられますが、伝統的な理由からか、あまり実務常識には立ち入らないし、ITとの関連も薄いのが通常です。


注:

ところで、大学の科目は「○○論」が多いですね。経営情報論というよりも「経営と情報」あるいは「企業における情報活用」などとした方がよいと思いますが、伝統的な理由以外に、他大学との履修交換(他大学で取得した単位も卒業必要単位と認める)や教職資格での科目認定で不都合が生じるので、あまり大胆な命名は不適切なのです。

逆にいえば、この○○論の名称により、ある程度の内容が標準化されているともいえ、そのために総花的な内容になっているともいえます。



解決方法が見いだせない

 私はこのような状況から脱却して、将来、利用部門に進む学生、経営者になる学生に上述のような訓練をしたいと思っています。また、これが受け入れられ成功すれば、特色のある大学として評価も高まると思います。ところが課題が多く、解決方法が見いだせないでいます。

・教える人材がいない?

  これは的外れな指摘だと思います。文系でのIT関係教員の多くは実務経験者です。企業のCIOやIT部長クラスから教職に就いた人も多くいます。団塊世代の定年時期になり、非常勤講師として人材を得るのも容易でしょう。

  また、当初から教職に就いた人も実務に高い関心を持っています。この傾向は、国公立大学の法人化によりさらに進むでしょう。

・科目が増える

 最大の問題は、IT関連分野が広いのに対して、非情報系学部ではIT関連の科目数が少ないことです。さらに、ここでのIT活用能力の習得では、ケーススタディや討議など双方向的な授業形式が適切ですが、それには少人数授業になるので、同一科目の開講数を増加する必要があります。これは教員増加につながり、現在でも厳しい大学の財務を圧迫します。

  インターン制度を活用することも考えられますが、このような分野の業務をさせてくれる受け入れ企業は少ないでしょう。

・学生の関心を得られるか

 IT活用能力の分野は、実務とITの両方の知識を求めるので、学生にとってはキツい科目になります。残念なことですが、授業に不熱心な学生も多いのが現状です。科目を設定しても、学生にこの分野の科目を選択させることが期待できるか、どのように動機付けすればよいかが課題です。

 必須科目にすることも考えられますが、卒業に必要な124単位のうち、IT関連科目の割合をどの程度にするのが適切かに関しては、多くの議論があると思われます。

・IT科目内での優先順位

 学部教育ですから、あまりにも特化したものでなく、全般の知識習得が必要になり、そのような科目だけで精いっぱいというのが現状です。

 コンピュータ技能操作、資格取得、提供側の科目を削るのには、私自身も抵抗がありますし、それを正当化するだけの論理武装が必要ですが、それができていないともいえます。

・企業ニーズに合致するか

 理論武装をするには、企業の関心が大きく影響します。企業ではIT活用が重要であるといわれます。ユーザー企業のIT部門のレベルが低下しているとも、利用部門も含み人材が不足しているともいわれます。

 しかし、実際には、採用のときにIT活用能力をどれだけ重視しているでしょうか。現実にこのような人材が不足していること自体が、企業ではこのような知識能力は優先順位が低いと認識しているからではないでしょうか?


筆者からのお願い

冒頭でもお願いしたように、今回は「システム部門Q&A」を逆にして、筆者から読者の皆さまに対して、質問させていただきたいと思っております。もし、ご意見をいただけるようであれば、今後の原稿執筆の一助のためにも、下記のメールアドレスまでご一報いただければ幸いです。

連絡先メールアドレス: managemail@atmarkit.co.jp


この記事に対するご意見をお寄せください managemail@atmarkit.co.jp


筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ