人材ポートフォリオの基盤をどう構築するか?情シス部のリバイバルプラン(4)(2/2 ページ)

» 2006年09月28日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]
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基盤を構築する4つのフェイズ

 「準備」フェイズでは、通常のプロジェクト編成と同様に、プロジェクト体制を構築した後に、情報システム部の方針、中期計画に関する文書の収集などの事前調査、全体のスケジューリングを行い、キックオフミーティングによりプロジェクトの本スタートとなる。

 「現状分析」フェイズでは、まず、人材像を考えるうえでインプットとなる情報システム部の方針、中期計画などを理解した後、情報システム部内の各部門にヒアリングを実施する。ヒアリングする内容は「1. 各部門の現状役割と要員のスキル」「2. 今後の方針と求めるスキル」などである。

 「職種・レベルの定義」フェイズでは、ヒアリングの結果に基づき、人材像(職種・専門分野・レベル)の定義を行う。まず、UISSやITスキル標準のキャリアフレームワーク、人材像定義、職種・専門分野定義を活用して、自社の情報システムに関する全機能業務を担うカスタムキャリアフレームワークを構築する。

 キャリアフレームワークを議論・検討する中で、自社の情報システム部で担うべき職種とアウトソーサに依存すべき職種とがある程度見えてくることが多い。もちろん、人材ポートフォリオ間の差分として人材ギャップを明確化したうえで、アウトソーサの活用を考えるのだが、内部人材育成という面からこの段階でも、アウトラインが見えてくる。

 カスタムキャリアフレームワークを定義したら、各職種・専門分野ごとのレベル差を示す指標を定義する。UISSはまだ指標定義がないので現状では活用できないが(2006年度末までに定義される予定)、ITスキル標準では実績・経験を表す達成度指標、どのような知識を使って何ができるかというスキル熟達度・スキル項目・知識項目が、各職種・専門分野に定義されているので活用することができる。

 指標を定義する際には、指標の内容が自社に合うかどうかをよく検討しなければならない。業界標準だからといってそのまま受け入れると、自社の実態に合わない指標が定義されることになり、絵に描いたもちになる可能性が高い。

 このフェイズを完了することにより、人材ポートフォリオ作成に必要な人材像の定義が完成する。

 「研修・実務ロードマップの作成」フェイズでは、人材育成ツールである研修ロードマップと実務ロードマップの作成、人材育成運用方法を検討した後、次フェイズで行うべき作業の洗い出しを行う。

 研修ロードマップとは、同一職種・専門分野においてワンランクアップするには、どのような研修を受講する必要があるかということを、職種・専門分野別にまとめたものである。ITスキル標準では研修ロードマップも提供されているが、モデルコースの内容が書かれているだけであり、実際に研修ベンダが提供する研修コースにマッピングされていない。

 そのため、これをそのまま使用することができない。また、研修ベンダからITスキル標準準拠の研修ロードマップが出されているが、当然、自社のコースしかマッピングしていないため、そのまま活用すると過不足が発生する可能性がある。従って、これらの研修ロードマップを自社用にカスタマイズする必要がある。

 実務ロードマップとは、同一職種・専門分野においてワンランクアップするには、どのような実務を経験する必要があるかということを、職種・専門分野別にまとめたものである。研修により知識を得ても、それを使う場が与えられなければスキルにならない(図3参照)。

ALT (図3)実務ロードマップの必要性

 実務ロードマップは、実務の場を与えるには、実務におけるレベル差を明確にする必要があるということから、私たちが独自で開発したものであり、ITスキル標準の達成度指標のレベル差をシンプルなカテゴリに分けて整理したものである。

 研修ロードマップ、実務ロードマップを作成したら、それらを人材育成に活用するための運用方法を検討し、マニュアル化する必要がある。

 私たちは、目標による管理の1つの項目として人材育成を含め、目標面談・評価面談の場を活用することをお勧めしている。企業内の一部門である情報システム部の報酬体系を、職種・レベルに一致させることは他部門との兼ね合いから難しい。だからといって、何ら評価に結び付かないのでは、人材育成に対する部員の意識が高まらないのが、その理由である。

 また、評価方法も検討する必要がある。職種・専門分野・レベル定義をそのまま活用する方法や、ITスキル標準スキル診断ツールを活用する方法などがある。評価は自己評価と上司評価を行った後、評価面談により最終評価を行う。

 最後に、次のフェイズで行うべき作業内容の洗い出しを行い、人材ポートフォリオ基盤構築のプロジェクトは終了する。

人材ポートフォリオを構築しリバイバルプランの立案へ

 これで人材ポートフォリオを構築するための基盤はできた。次に行うことは、ここで定義した人材像に基づく現状の人材ポートフォリオ作成と求められる人材ポートフォリオ作成。そして、人材ポートフォリオ間の差異から、人材ギャップを明確にしたうえで解消策を実施することである。

 解消策にはアウトソーサの活用だけではなく、内部人材育成・スキルシフト・採用も含まれる。解消策の最適化を図らないと情報システム部の再生を目的としたリバイバルプランにはならない。

 次回はこの課題を検討する。

著者紹介

▼著者名 井上 実(いのうえ みのる)

横浜市立大学文理学部理科卒。多摩大学大学院経営情報学研究科修士課程修了。グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。人材ポートフォリオ構築、人材開発戦略立案、キャリアパス構築などに関するコンサルティングを担当。中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。

第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:「システムアナリスト合格対策(共著)」(経林書房)、「システムアナリスト過去問題&分析(共著)」(経林書房)、「情報処理技術者用語辞典(共著)」(日経BP社)、「ITソリューション ?戦略的情報化に向けて?(共著)」(同友館)。


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