IBMコラボレーション製品は、どこへ向かうのか?特別企画 Lotusphere 2007に見るIBM Lotusの戦略(3/3 ページ)

» 2007年02月28日 12時00分 公開
[砂金 信一郎(リアルコム株式会社),@IT]
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Lotusの戦略を「見える化」する

Lotus=Notesからの脱却

 LotusといえばNotes/Dominoという認知は、強固に確立されたブランドであって、IT関係者以外にも相当に浸透しているのではないだろうか。ところが、最近のIBM Lotusの動きを見ると、Notesの枠を大きくはみ出して、コラボレーションに使うツールはすべてLotusに取り込もうとしているように見える。例えば、アプリケーションサーバとして高いシェアを占めるWebSphereシリーズの「WebSphere Portal」は、実は日本では昨年からLotusの管轄になっている。もちろん、WebSphere PortalはNotes/Dominoのアーキテクチャで構築されているものではないし、その世界観からすると外周に位置するものである。

Workplace製品群の行方

 また、Lotusブランドで扱われてきた製品の中で、その位置付けが見えにくいものの1つに「Workplace製品群」がある。目指す世界はNotesの発展形なのだろうが、Notesとの連携がなかった。今回のNotes 8の発表でリッチクライアント環境はLotus ExpeditorとしてNotesとの統合が図られたが、QuickrとなったQuick Placeの扱いはNotesとは別物となっている。

 情報共有基盤は、運用が開始されればコンテンツやアプリケーションが蓄積され、資産化していく。ユーザーとしては、今後のさらなる方針変更の有無、マイグレーションパスの担保は確認しておきたいところであろう。いずれにせよ、Workplace製品群は、新しい製品ポートフォリオの中にその役割を分散していくことになりそうである。

王者の姿勢──防御は最大の攻撃なリ

 Lotus ConnectionsとLotus Quickrのリリース、およびNotes 8のメール、スケジュール機能の強化は、SharePoint/Exchangeを完全に意識したものである。

 現状を見極めれば、新規のNotesユーザー獲得に注力することが、Lotusとしての賢い選択とは思えない。Lotusはシェアでこそ漸減しているものの、IBMにとっては長年にわたってLotusに強いロイヤリティを示している顧客およびそれを支える販売チャネルこそが、対マイクロソフト戦略の最大の武器となる。マーケットリーダーは、いまでもLotus Notesなのだ。IBMは、チャレンジャーに対する防御を厚くして敵の目新しい動きを低コストで追従するという、マーケティングの教科書どおりの戦略(コストリーダーシップ)を取り始めたと考えられる。

IBMの戦略を「見える化」する

さらに難しくなったInformation ManagementとLotusの位置付け

 Lotusという枠から一歩下がって、IBMソフトウェア全体を考えてみると、コラボレーションや情報共有を実現する2つのメジャーブランドが存在する。Lotusはすでに述べてきたとおりだが、これとは別にDB2をコアにした「Information Management」というブランドがある。

 主力は「Content Manager」というソリューションで、ファイルを複数人数で利用できるよう、効率的に管理する──という点ではどちらも同じように見える。Lotusブランドの製品と比較すると、全体的により重厚長大であるといえる。扱うファイルは手書き契約書のスキャンイメージデータやCADファイルなどで、一般的なOfficeファイルとはデータ量やクリティカル度が異なるし、利用場面も全社員の情報共有ではなく、契約管理部門などが業務アプリケーションとして使用するといったものが想定されている。

FileNetの買収が事態をより複雑に

 さらに事態を複雑にしているのが昨年、米国IBMが買収したFileNetという企業である。この会社は、EMCに買収されたdocumentumなどと並ぶエンタープライズ・コンテンツマネジメントの勝ち組企業の1つ。自前で上述のContent Managerを持っているIBMにとって、FileNetをどのように位置付けるかは非常に難しい問題である。他方、同じようなタイミングでSTELLENTを買収したオラクルは、もともとの自社製品である「Oracle Collaboration Suite」の位置付けを変えようと努力している。

 IBMの場合、Content ManagerとFileNetだけではなく、ここにLotusが絡んでくる。QuickrのレポジトリをFileNetにするといううわさもまことしやかに語られており、それが真であれば、Quickrを使うであろうほぼ全社員がFileNetを間接的に使うことになる。何がLotusで何がInformation Managementなのか、ますますよく分からない状況になってくるだろう。

アプリか? ミドルウェアか?

 近年のIBMソフトウェア戦略は、一貫してミドルウェア重視であった。しかし、Notesの盛り上がりにアプリ的な動きも見え始めている。例えば、Lotus Connectionsをどう扱うかで、IBMの考え方が見えてくるだろう。

 もし、アプリ的な打ち出し方をするのであれば、昔からのLotus販売網を有効活用し、かつてコピー機ディーラーなどがNotesを日本中に浸透させた、R4のころのような売り方が有効である可能性が高い。場合によっては、ASPを行うリセラーが出てくるかもしれない。

 一方、Lotusブランドをミドルウェアとしてプッシュするのであれば、WebSphereプラットフォームで動かすSNS機能の部品としてLotus Connectionsを提供し、IBMのサービス部隊がきめ細やかなカスタマイズを行って、直接顧客に提供していくことになるであろう。先に述べたNotesとのデータ連携はささいな問題となり、サービスバスを通して多くのアプリケーションと通信するというソリューションを前面に押し出してくるだろう。

IBMは、戦略的ORではなくAND戦略?

 上記のような状況は、一般的な企業においてはすぐにでも方向性を明確にすべき重要な課題といえる。しかし、もしかするとIBMにとってはどうでもよいことかもしれない。

 通常、社内競合や業務重複などの戦略整合性の不一致があれば、それを是正する動きが自然と生まれてくる。しかしIBMの場合、その持てるリソースの厚さは群を抜いており、各業種のトップ数社に入る上得意に対して自社で製品からサービスまで提供できることを考えれば、パートナーの機嫌をうかがう必要もない分だけ戦略の自由度は高いといえる。

 「悩んだら両方やってしまえ。似た製品があれば顧客の好みに合わせよう」という自社の総合力を活かしたブルドーザー的な戦略が、当面IBMの選ぶ道であろうとわれわれは考えている。

Notesは、どこへ向かうのか?

 IBMおよびLotusの戦略について、先の仮説が正しければ、NotesはNotesとして順当に進化していくものと考えられる。その進化を促進してくれるのがマイクロソフトだ。SharePointで実現された機能は、IBMが王者の立場から追従して取り込みを図る可能性が高い。FileNetを買収してコンテンツ管理領域を充実させたように、今後もLotus関連領域での新規開発の時間がなければ買収で一気に手に入れることもあるだろう。総じて投資意欲は高い状態にある。

 Notesを支える最大の強みはロイヤリティの高いユーザーやパートナー企業であり、移行の難しさもあって既定路線としては現状維持の道を選ぶだろう。IBMとしてはある程度の防御が成功すれば、Lotus製品の開発原資を確保することができ、NotesはLotus製品群を巻き込んでさらなる進化を果たす。結果、エンドユーザーはその恩恵にあやかることができるようになると思われる。

 IBMの落とし穴は既存環境からのシームレスな移行パスの確保であり、どんなに製品ポートフォリオが複雑化しようと、そのとばっちりをユーザーやパートナーに負わせないことである。逆に、マイクロソフトが効果的に反撃するのであれば、「.netでないものは、すなわち悪」といわず、もう少しNotes文化に寛容な姿勢を取れるかどうか──だろう。Lotusブランド内ですら連携が十分でない現状を考えれば、攻撃のしようはいくらでもありそうなものである。

著者紹介

▼著者名 砂金 信一郎(いさご しんいちろう)

リアルコム株式会社

コアテクノロジグループ プロダクトマネージャー

shinichiro_isago@realcom.co.jp / shin@isago.com

東京工業大学工学部卒業後、日本オラクルにおいて、ERPから情報系ポータルまで、技術コンサルティングからマーケティングまで幅広い立場で経験。ナレッジマネジメントソリューション責任者も務める。その後、ドイツ系の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーにて、国内自動車メーカーを中心にオペレーション戦略立案プロジェクトに従事。現在は、リアルコム株式会社にて、自らも情報共有基盤戦略やNotes移行プロジェクトにかかわりながら、Notes関連製品のプロダクトマネージャーを務める。


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