業務設計の前に顧客定義をしっかりやる顧客指向開発のすすめ(2)(2/3 ページ)

» 2007年04月17日 12時00分 公開
[營田(つくた)茂生,日立ソフトウェアエンジニアリング]

顧客定義のための基本的な知識

 第1回「情報システムと顧客との関係」でも触れたが、あなたの所属する企業では、顧客をきちんと定義しているだろうか。どのくらい顧客がおり、どのような顧客が「良い顧客」で、どのような顧客が「望ましくない(悪い)顧客」と定義されているだろうか。

 「良い顧客」「望ましくない顧客」と定義するためには、企業と顧客間にあるさまざまなやりとり/取引を特定し、必要十分な定量化を行い、分析することになる。ここで、顧客を定義するための考え方を述べておく。

(1)リサーチ

 まず、顧客に対する「事実」を集めなければならない。経験則を並べるだけではリサーチにはならない。

 顧客に対する事実は、企業の中に散在している。あるいは、情報システムの中に散在している。業務処理を効率的にこなすための基幹系や顧客DBには、業務処理そのものにはあまり関連性の高くない事実に関してはそぎ落とされていることが多い。しかし、基幹系システムのデータに、さまざまなサブシステム(例えば営業支援システムのデータ)を突き合わせることで1つの事実が浮かび上がってくる。企業内/情報システム内のどこに顧客に関する事実が置かれているのかを把握し、集約できる仕組み(データウェアハウス:data warehouse)につなげていくことになる。

(2)分析

 企業内/情報システム内に散在しているデータをデータウェアハウスとして集約し、分析を行う。分析に当たっては、データマート(datamart)に切り出して行うことが多い。

 仮説を基に分析する場合もあれば、データの中から仮説を導き出す場合もある。前者は多次元分析(OLAP:On-line Analytical Processing)などを用いることが多い。データ量が少なければスプレッドシートや、あるいは紙ベースでもできる。分析手法としてABC分析/パレート分析や、RFM分析(recency, frequency, monetary analysis)などがある。後者はデータマイニング、テキストマイニングなどを用い、項目間の相関関係やパターンなどを見つけ出す。

(3)マーケティングのSTP

 リサーチ/分析によって見えてきた顧客像に対し、STPを適用する。

 STPとはセグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3つである。

 セグメンテーションは、市場をいくつかの同質的なセグメントに区分することである。区分の方法としてはデモグラフィック情報(年齢、学歴、収入、世帯規模、職種、役職、取引上の関係、連絡先など)を用いる方法、サイコグラフィック情報(興味、意見、考え方、意思決定の仕方など)を用いる方法がある。

 ターゲティングでは、3つの意思決定が必要である。第1の 意思決定は、セグメントをいくつターゲットとするかという ものである。第2の意思決定は、複数セグメントをターゲットとする場合、同じ戦略を適用するかセグメントごとに異なる戦略を適用するかというものである。第3の意思決定は、競合企業の戦略を考慮し、競合企業とは異なる戦略を適用するのか、追随する戦略を適用するのかである。

 ポジショニングとは、ターゲットマーケットの中に独自の位置を占めるための、カスタマーエクスペリエンス(良好な商品/サービスの経験)をデザインすることである。

 図2にリサーチ/分析とSTPの関係を示す。

ALT 図2 リサーチ/分析とSTPの関係

 図2にあるように、単純にS→T→Pと進めるのではなく、リサーチ/分析を基にS→T→Pを繰り返し、仮説を検証しながら進めるべきである。そういう意味では、このリサーチ/分析?STP、次に説明する4Pの部分はイテレーティブであるといえる。

(4)マーケティングの4P

 リサーチを通じて新たなビジネスチャンスを見いだし、精度の高いSTPを実施することで、新たなビジネスの進むべき道筋を明らかにする。4Pとは、マーケティングに関する4つのPの頭文字から取られている。図3にマーケティングの4Pを示す。

ALT 図3 マーケティングの4P

 そして、4Pの細部を詰め、4つのPの各要素が互いに矛盾することなく、しかも4P全体として先のSTPと整合する戦略を練り上げる。

 戦術が決まれば、マーケティング計画を実行(implementation)に移す。経過をモニタリング(monitoring)し、プランどおりの実績が上がらない場合には、原因を特定する。

  • 実施方法に問題
  • マーケティング・ミックスに矛盾
  • STP戦略に誤り
  • 市場調査が役立たず

 ここでマーケティング・ミックスとは、企業がターゲットとするマーケットで、マーケティング目的を達成するために用いるマーケティング、ツールの組み合わせである。

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