ITILはなぜあいまいなのかブライアン・ジョンソン ITILの文脈(1)(2/2 ページ)

» 2007年05月15日 12時00分 公開
[ブライアン・ジョンソン,@IT]
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まずROIを考えることの意味

 私は「(ITILを展開する際には)まずROIを考えろ」といっています。これに対して「ITILでは通常『サービスサポート』をまず導入し、その後に『サービスデリバリ』を展開することになっているが、サービスデリバリに手をつけなければROIを達成できないではないか」と聞かれます。

 たしかにこの問題は、ITILコミュニティにとってジレンマであり続けています。サービスサポートのプロセスを実装するほうが簡単であるため、組織の99%はインシデント(管理上の事象)管理と問題管理、変更管理などの組み合わせから取り組みを開始します。しかしこれはオペレーション手順の問題ですから、それ自体がすぐに素晴らしいROIを生み出すことはありません。

 一方、サービスデリバリのプロセスに取り組むのはより困難であるとよくいわれています。しかし私はそう思っていません。私が最初に書いた書籍では、管理オペレーションについて考える前に、コストやソフトウェア・ライフサイクルの考慮、可用性といった点を、設計すべきだと述べていました。なぜなら、ユーザーの人々が目にするのはアプリケーションであり、ITサービスの可用性ではないからです。いろいろなインシデントが起こっていたとしても金融アプリケーションや電子メールアプリケーションのサービスを提供するに十分なキャパシティを与えるということが重要なのです。

 ITIL書籍のバージョン1においてもこの点を実現してもらうための情報を入れました。しかし、一般的な組織の能力を超えることだと考えられてしまいました。従って現在でも、組織はまず変更管理などから始めています。ITILバージョン3では原点に戻って、サービスデリバリのプロセスにも早期に投資すべきだということを改めて強調しました。

 結局、この問題を解決するための唯一の方法は、ITILコミュニティがユーザー側ではなく、開発担当者に対してメッセージを伝えることだと思います。

 ユーザーとオペレーション担当者、そしてアプリケーション担当者の間にはある種の戦争状態があります。この3者はうまく協力し合えなければなりません。オペレーションのライフサイクルについてはITILが対処してきていますが、さらにアプリケーション開発のライフサイクルにも踏み込まなければならないのです。

 つまり、ある金融アプリケーションを構築しようというときに、まずは例えばこれにストレージはどれだけ必要で、どれくらいのコストがかかり、ハードウェア全体への投資はどれくらいになるかといったことを考えなければなりません。1日24時間年中無休で稼働しなければならないアプリケーションであれば、可用性を確保するのに必要な機能をまず考慮する必要があります。このような設計をまず行い、構築したシステムを検証する段階になってから、インシデント管理や問題管理、変更管理といったプロセスを、適切な運用のために適用することを考えるべきです。これで実稼働が始まった時点で、事前に約束されていたシステムを誰もが利用できるようになります。

 ITILコミュニティにとって、これは大きな発想の転換です。コンサルタントも、現在のところほとんどの場合、まずインシデント管理のプロセスを実装しようといいますが、本当はもっと包括的な視点から、適切な計画を立て、実現すべき機能に関する優先順位の決定を助けるべきだといえます 。

著者紹介

▼著者名 ブライアン・ジョンソン(Brian Johnson)

米CA ITIL実践マネージャー。英国政府機関CCTA(現OGC)で、情報システム運用管理のベストプラクティス集「ITIL」の企画・執筆メンバーとして活躍。世界的なITILのサポートグループ「itSMF」を創設し、その終身名誉副会長となっている。


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