安いって本当? ベトナムオフショアの事例紹介します現地からお届け!中国オフショア最新事情(10)(3/3 ページ)

» 2007年12月14日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ株式会社]
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国によって成熟度に差がある

 最後に、筆者がベトナムオフショア開発の将来展望を予測します。

 ベトナムの歴史は戦争と外国支配の連続でした。政治体制は社会主義国のベトナムですが、経済的には完全に資本主義化されています。この点は中国の実態とそっくりです。

 対照的に中国と比べたとき、ベトナムのインフラや行政手続きの成熟度はまだ低いといわれています。だからこそ、ベトナム政府はIT産業に期待しています。特に、ホーチミンと比べて経済発展が遅れたハノイへの投資誘致は熱心で、来年もしばらくはベトナムブームが続きそうな勢いです。

オフショア発注の目的

 日本企業にとって、オフショア開発の主目的は「コスト低減」と「人員確保」にほかなりません。

 しかし最近は、日本の大手発注企業の関心が「リスク分散」に移ってきました。いまのところ、ベトナムは中国を代替するものではなく「China plus one」の有力候補地として選ばれる可能性が大きいといえます。

ベトナムオフショア開発における今後の規模予測



オフショア発注の形態

 ある程度成熟した中国とは異なり、ベトナム発注ではオンサイト派遣が始まったばかりです。2007年現在では、ラボ契約でテスト要員を確保する企業も目立ちます。本格的な立ち上げは、2008年以降の課題となる見込みです。

 いまのところ、大手のFPT Softwareや日本への留学生が集まって設立したRunSystemなどは、直接ユーザー企業とコンタクトを取ってプロジェクトをこなしています。ですが、それらも含めて多くの企業ではコーディング工程以降、もしくは詳細設計以降の受託が多く、研究開発やデザインを行っているプロジェクトはごく一部です。

 しかし、その一部のプロジェクトの評価やオンサイト技術者の評価が高いことから、これから順次工程が拡大していくと思われます。

日本語対応力

 漢字が使えないベトナムでの日本語教育は難しいといわれます。

ALT ホーチミンの帰宅ラッシュ

 製造や貿易分野での日本語人材は少なくありませんが、IT業界ではまだまだ希少価値だといわざるを得ません。ベトナム企業にとって「日本語が話せます」とは、せいぜい日本語能力検定3級レベルです。

 近年ベトナムでは、各企業や大学のIT関連学科における日本語教育が急速に整備されつつあり、日本語を話す技術者の育成が広く実施されています。

しかし、現状ではベトナム企業とのコミュニケーションはブリッジSEとの直接コミュニケーションではなく、ドキュメント翻訳や通訳などを行う通訳者(コミュニケータと呼ばれる)を介する場合も少なくありません。

 日々の連絡窓口は重要なファクターですので、日本企業・ベトナム企業のそれぞれの要望や条件、語学スキルを折り合わせ、発注先の企業やプロジェクトリーダーを選定する必要が日本企業にはあります。

国民文化の相性度

 オフショア開発関係者の間では、日本人とベトナム人は相性がよいとうわさされます。

 前出の霜田氏も、ほかの東南アジア諸国の開発者と比べてベトナム人開発者は誠実だと太鼓判を押します。以前、ある国のIT企業を視察した際に「実績を見せてほしい」とお願いしたら、その開発者はほかのお客さまの開発資料を自慢げに見せてしまったという笑えない話があります。もちろん、機密保持契約があるにもかかわらずです。一方ベトナムでは、そのような光景に出くわすことはめったにないそうです。

 ところが、日本と中国そしてベトナムの国民文化を比べたとき、「ベトナム人の気質は日本的である」との表現は誤解を招きます。なぜなら、ベトナムと日本の類似性が高いのは、あくまでも相対比較の世界だけであって、絶対的には中国南方民族との類似性が高いといえるからです。

終わりに

 最後に、ベトナムの最新事例を紹介してくださった霜田氏から読者の皆さまへ、締めの言葉を贈ります。

 最近では、「オフショア開発を活用すれば、すぐにコスト削減の効果が出る」といった誤った理解は少なくなりました。

 それでもなお、オフショア開発は「魔法のつえ」といわんばかりに、即効薬を求める傾向が残ります。前出のヒューマン・オンラインにしても、初回のプロジェクトは万事うまくいったものの、その後に継続して付き合っていくなかでさまざまな課題が見えてきています。

 ベトナム企業と共に乗り越えていくためには、課題を共有し、お互いの成長に向けて努力しなければなりません。このように、オフショア開発で成功する企業は、時間をかけるなり人の交流を図るなり、必ず何かしらの努力をしています。

 このようなことから、もし、隣の企業が「まだベトナムは早い」といっているとしても、いまから動き出すことの意義は大きいと思います。ベトナムは、中国のようにモノもヒトも無尽蔵に大量生産する国ではありません。ですが、ベトナム人は繊細でモノ作り精神にたけており、なおかつ国民全体が日本に対して好意的な感情を持っているというメリットもあります。

 ベトナムの良い面も悪い面も踏まえたうえで、ベトナムと付き合ってみるかどうかを判断してください。私はその価値は十分にあると確信しています。

筆者プロフィール

幸地 司(こうち つかさ)

琉球大学非常勤講師

オフショア開発フォーラム 代表

アイコーチ株式会社 代表取締役

沖縄生まれ。

九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ株式会社(旧アイコーチ有限会社)を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門〜失敗しない対中交渉〜」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心にセミナー活動をこなす。


オフショア開発フォーラムhttp://www.1offshoring.com/

アイコーチ株式会社http://www.ai-coach.com/



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