現代の企業は業務プロセスの多くをITシステム+ネットワークに依存しており、その信頼性と即時性が極めて重要な要件であることに議論の余地はありません。プリンティングがその一部であるならば、これにも高い信頼性と即時性が求められます。
数十年前であれば、その企業で印刷書類が必要なときは、本社や計算センターのコンピュータルームで夜間バッチの印刷を行い、翌日にトラックで各拠点に配送して、エンドユーザーに届くのは翌々日──でよかったのですが、現代ではそうはいきません。
例えば、荷積みのためのピッキング・リストをERPデータから印刷するのであれば、まずオフィスにいる出荷業務担当者がその日(あるいはその時間)に出荷したい商品のデータをERPシステム上で確認して、それを荷積み現場にあるプリンタへ出力するよう操作します。すると、すぐに荷積み現場のプリンタでリストが印刷され、荷積み現場ではこれに基づいて、即座に作業を開始します。インターネット通販であれば、お客さまの注文や入金があり次第、出荷リストや送付票が印刷されるかもしれません。
もしそこで印刷に時間がかかったり、エラーが起こったり、エラー回復に時間がかかったりすれば、荷積み現場がたちまち操業を停止し、出荷が滞る事態に陥ってしまいます。
このように事業継続性の観点からも、ネットワーク時代のプリンティングにはいままでにない高い信頼性と即時性が求められてきており、また企業はそれを重要な要件と位置付け、統治する必要性が高まっているのです。
「コーポレートガバナンス」を平たくいえば、「企業の経営が問題なく行われるようにする仕組み」といったところでしょうか。第一義的には「(株主が)経営者をどのように規律付けるか」がテーマでしょうが、さらに広い範囲のステークホルダーや経営要素を対象にその規律付けや組織的仕組みづくりが課題になることもあります。コーポレートガバナンスの一部として企業内IT運用を規律付ける「ITガバナンス」、情報セキュリティの面から仕組みづくりを考える「情報セキュリティガバナンス」といったあんばいです。
本稿でもプリンティングガバナンスをコーポレートガバナンスの一部として位置付け、プリンティングのあるべき姿を論じていきます。まずはプリンティングガバナンスが目指す目標をはっきりさせましょう。
企業がプリンティングガバナンスの確立によって達成すべきことを整理していくと、2つにまとめられると思います。1つは「確実なプリンティング」、もう1つは「セキュアなプリンティング」です。前者はプリンティングがビジネスプロセスの一端を担っているという観点から、それが確実に行われることを要求します。後者は文字通り、情報セキュリティの観点からの要求です。
これらを具体的な要件レベルで考えていくと、確実プリンティングとセキュア・プリンティングはかなり共通点を持っていることが分かります。これらの要件を実現する仕組みを作っていくことがプリンティングガバナンスだというわけです。
これらの要件を機能別に展開すると、例えば次のような機能が実現できればよいことになります。
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次回は、プリンティングガバナンスができなくなった理由と、対処法について考えていきます。
向井 俊一(むかい しゅんいち)
LRSジャパン 支社長
1976年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。以来、約20年にわたって同社開発研究所でソフトウェア技術者として、後年は開発本部長として同社の日本市場向けプリンタ製品の開発に従事。IBMプリンタ製品 25機種以上の開発に貢献した。1997年からは先進ソフトウェア・ビジネス開発など、ソフトウェアのマーケティング・マネジメント専門職(ICP-MM)を経験。2005年10月、LRSジャパンの発足と同時にLRS(Levi, Ray & Shoup, Inc.)に入社し、2007年6月より現職。現在はLRSジャパンの責任者として、同社のソリューションの国際的マーケティング活動にも意欲的に取り組む。日本におけるプリンタの市場や技術に精通するほか、CIM-UK認定マーケティング・マネジメント、英検1級、通訳案内士などの資格を所有する。
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