失敗しないWMSの選び方SCM成功のカギ(2/2 ページ)

» 2008年03月12日 12時00分 公開
[近藤倫明,アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティングサービス]
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導入以前にサプライチェーン全体の構想策定を

 さて、以上のように、WMSは導入さえもサポートしてくれるレベルにまで、使いやすく、熟成されたものになっています。とはいえ、こうした「業務改革」を行ううえで、ツールには決して頼れない点を2点、付け加えておきます。

 1つは荷主や出荷先、あるいは自社内の関連部門に協力を求める必要が生じるかもしれないということです。改革とは組織や人が絡むもの。やはり、ある程度の「リーダーシップ」や「協力要請」は不可欠な要素といえるでしょう。

 そしてもう1つ、絶対に忘れてはならないのは、現場の業務改革以前に、もっと上流部分にあるロジスティクスの構想を、しっかりと策定しておくべきだ、ということです。

 WMSがサプライチェーンのプロセスの一角を担うものである以上、有効に使い切るには、その導入だけを切り出して単独で考えるわけにはいきません。企業戦略に基づいて、サプライチェーン全体の構想を立て、その流れのなかで、WMS導入も含めた実行計画に落とし込むのが正しいやり方です。すなわち、WMS導入とは本来、それくらい大掛かりな作業になるということです。

全体構想のなかでWMS導入を考えることが大切

 自社は何を目指しているのか、そのために何をすべきか、概算費用はいくらまで出せて、定量・定性効果をどう考えるのか。しっかりとしたプランを立て、それを実行できる体制を作り上げ、メンバー1人1人が力を合わせてプロジェクトに取り組む──。

 こうした全体構想を策定せずに、いきなりシステム導入から始めると、システムを無事にサービスインさせることだけに重点が置かれ、本来何のために導入するはずだったのか、よく分からなくなってしまいます。これはWMSに限ったことではなく、すべてのシステムにいえることです。

 大きな投資を伴うシステム導入案件については、全体の構想策定と、それに沿った業務改革を行うことと、稼働後に本来目指した効果が得られたか、チェックポイントを設け、定期的に確認することが重要です。

WMSパッケージ選択のポイント

まずは予算額を明らかにまずは予算額を明らかに

 さて、ではそろそろWMSパッケージソフト選択のポイントについてお話ししたいと思います。1つ目は投資可能な予算を明確にすることです。もっとも、ソフトウェア価格やシステム開発費は一概に幾らといえないところがあるため、目安を立てるのは難しいところです。

 ざっくりといえば、数億円単位の予算が確保できれば、大手ベンダのパッケージソフト導入から展開保守まで、選択範囲に入りますが、数千万円以下の場合、選択肢は限定的になります。

導入後のサポート体制をチェック導入後のサポート体制をチェック

 2つ目は、導入後のサポート体制や、採用するITプラットフォーム、導入実績のチェックです。これは販売元であるベンダや、システムを導入する協力会社のサービス体制を評価することになります。ここがしっかりしていないと、いくらWMSの機能がよくても、トラブルがあった際の対応に苦慮することになります。

 例えば、貴社の倉庫が24時間365日で稼働している場合、システムテストや稼働直後のサポートにどこまで立ち会ってくれるのでしょうか? 稼働後の監視体制は大丈夫でしょうか? システムトラブルの際は対応時間などに関係なく、しっかりと支援してもらえるでしょうか? マテハン(マテリアルハンドリング=倉庫や工場内で、物品を運搬、仕分け、保管するための技術。搬送システムなどがそれに当たる。そうした技術の管理や合理化を指す場合もある)や基幹システムと、WMSのトラブルの切り分けは誰がするのでしょうか?

 これらは業務遂行に直接影響を与えるものだけに、ベンダ選定を行う際、必ず念頭に置くべきポイントです。 納得できる回答が得られるかどうか、きちんと確認しておきましょう。

どこまでカスタマイズしてくれるのか?どこまでカスタマイズしてくれるのか?

  3つ目は機能評価です。もっとも大手ベンダのパッケージソフトの場合、最近は機能的にこなれてきた感が強く、各業種に必要な要件は、何らかの機能によって一通り満たしています。

 例えば、製造業向けの「BOM(部品表)」や「セット品の組み合せ引き当て」、食品業界向けの「出荷先別 賞味期限追い越し禁止管理(前回納品の賞味期限を記憶しておき、それより古いものを納品しないよう自動的に制限する)」などです。

 従って、差別化要因はユーザーインターフェイス(UI)がほとんどといっていいでしょう。ただ、UIは好みに左右されやすく、また、それぞれ一長一短があるため、本質的な判断基準にはなり得ないと思います。 結局、あらゆる機能を使って、どこまで安心して、使いやすいものにセッティングしてくれるのか、サポートの問題同様、ベンダのカスタマイズ対応姿勢が重要になると思います。

 以下では、大手向けを中心に、代表的なものをピックアップしてみました。いずれにせよ、購入前にデモで機能や使い勝手を確認し、導入済みの事例も実際に見た上で、慎重に絞り込むことが肝要です。

日本インフォア Infor SCM Warehouse Management

数多くの企業、物流会社に導入実績を持つ、倉庫管理ソリューションの老舗。WMSとしての基本機能に加え、複数のビジネスルール適用、複数顧客の請求処理管理といった機能を持ち、3PL業者や配送業者の効率性向上に定評がある。一連のSCM支援ソリューションの1つとして機能。


マンハッタン・アソシエイツ Warehouse Management

物流センター管理、労務管理、ロケーション最適化など、多くの機能をそろえているほか、必要な機能を持つモジュールだけを選んで構築することも可能。RFIDや基幹システムとのシームレスな連携・統合により、業務最適化に貢献する。グローバルでは900社以上の顧客企業を持つ。


フレームワークス Logistics station iWMS

コスト低減やリードタイム短縮など、ロジスティクス改革のノウハウを生かし、製品販売と共にコンサルティングにも注力。中堅〜大規模向けのiWMS G5、全機能をWebアプリケーションとして提供する中堅・中規模向けのiWMS G3をそろえる。国内外に500サイト以上の導入実績を持つ。


インフォセンス 倉庫管理

総合物流会社、山九の情報システム部門が独立した会社。「倉庫管理」TC(トランスファーセンター)版、DC(ディストリビューションセンター)版をそろえる。また、ハンディターミナルを標準装備し、管理の迅速性を期した「Web倉庫管理」DCもリリースしている。


フェアウェイソリューションズ φ-Conductor Warehouse Operation

入荷から出荷まで、一連の業務処理を効率化する倉庫業務支援アプリケーション。受注情報に基づいて納品までのプロセスをシミュレーションし、実行指示を行う同シリーズ「OrderFulfillment(受注手配)」と組み合わせることで、在庫照合、引き当て、出荷指示などを自動化できる。


 日本インフォアやマンハッタン・アソシエイツの製品は、主にグローバル企業に導入実績があり、フレームワークスやインフォセンスなどは国内でよく使われています。一方、フェアウェイソリューションズや、表にはありませんがスターリングコマースのように、受注管理や引き当て機能に軸足を置いた特徴的な製品もあります。

 パッケージソフトを選択する際は、そのパッケージソフトの生い立ち(もともと、どういう業種用に開発されたか、使われていたかなど)を十分に考慮し、用途に合ったものを選択することが重要です。

WMS、今後の可能性

 最後にWMSの今後の可能性について述べます。この分野は一過性の流行に左右されるものではなく、業務の基盤となるシステムであるため、今後も安定的、継続的な需要はあると思います。

 パッケージも導入事例が増えれば増えただけ使いやすく改善され、稼働後のサポート体制はますます向上していくことでしょう。イニシャル・ランニングコストも下がっていくと考えられます。

 今後、個々の倉庫の現場管理用としての導入が一段落すると、今度はそれを本社・本部でどう管理するかというところに焦点が移るのではないでしょうか。例えば、本部が全倉庫の状況を一元管理してつぶさに指示を出せる、物流に関する統合マスタ登録ができる、といったことです。

 こうした機能が実現できれば、全拠点の現場業務について、本社・本部が一元的に改善に取り組むといった可能性も見えてくるでしょう。SCMにおけるWMSの重要性は、ますます高まっていくと考えられます。

著者紹介

近藤 倫明(こんどう みちあき)

アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス(IBCS)株式会社

流通事業本部 SCMコンサルティング事業部 シニア・マネージング・コンサルタント。

2001年1月、消費財メーカーからプライスウォーターハウスクーパースに入社。その後、日本IBMとの事業統合を経て、現在、流通事業本部SCMコンサルティング事業部のリーダーとして、配下のサプライチェーン戦略、ロジスティクス、プロキュアメントの3部門を率いている。消費財メーカーを中心に、流通事業会社のサプライチェーン戦略策定からシステム導入、運用展開支援まで幅広い範囲のコンサルティングを行っている。


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