会計ソフトが業務改善に効く理由内部統制時代の会計ソフト(1)(2/3 ページ)

» 2008年04月03日 12時00分 公開
[山口 邦夫 (経済ジャーナリスト),@IT]

「誰が見ても」業務の流れが分かるようにする

 さて、これで内部統制とは義務感で取り組むようなものではないことが分かった。では、内部統制に対して会計ソフトはどんな意義を持つのだろうか。それを理解するために、ここで内部統制の基本となる文書化作業を振り返っておこう。

 周知の通り、文書化は業務の流れをフローチャート化することから始まる。万一、不正やミスがあった場合、どのプロセスで問題が起こったのか、原因を遡及(そきゅう)できるようにするためだ。その上で、各プロセスで起こり得るリスクを把握し、各リスクに対するコントロールを設定していく。

 具体的には(1)各業務部門で発生する1つ1つの業務プロセスをフローチャートに書き出した「業務フローチャート」、(2)担当者の所属、承認者の所属や役職、売上計上基準、関係する規定類などを記入し、各プロセスにおける作業の目的、手順、対象範囲などを示した「業務記述書」、(3)各プロセスで発生しうる不正やミスを抽出した上で、各リスクに対するコントロール方法を決定し、一覧表にまとめた「リスクコントロールマトリクス」(RCM)、以上の「文書化3点セット」を作成する。 

 田中氏は文書化作業のポイントとして、「業務フローを確実に可視化することが大切」と指摘する。「業務を可視化するとは、ただ業務を書き出すことではない。誰が見ても分かるようにすることだ。それができて初めて、現状を仔細に分析したり、リスクをコントロールしたりすることが可能となる」(田中氏)

ALT 業務フローチャートは、人が行う業務行為を「誰が見ても分かるように」明記する。(仰星監査法人の資料より抜粋)

 南氏も業務フローチャートの重要性を強調する。内部統制はPDCAサイクルを繰り返し、継続的に改善してこそ意味があるもの。その点、業務フローチャートは、内部統制ひいては業務改善に向けた、すべての取り組みの基盤となる。「内部統制というとRCMばかりに注目しがちだが、本来の意義である業務改善を狙うためには、正確な現状認識が不可欠だ」(南氏)

会計ソフトで実現する「己を知る勘定科目」

 会計ソフトが役立つのはまさしくこの点だ。会計ソフトは会社のお金の流れを管理し、財務管理報告の作成を支援する。つまり「お金の流れ」という視点から、「業務の流れ」を俯瞰(ふかん)することができる。

 田中氏は「勘定科目を強化する」という取り組みを顧問先企業に行ってきたという。 例えば勘定科目のうちの「交際費」であれば、「誰が、どの程度の金額まで、どのように使う権限を与えられているか、誰が最終的に承認しているか」を明確化する。そして実際に使われた交際費が「どのように使われ、売り上げや新規開拓にどれほど貢献したか」検証し、対策を打つという。

ALT 「勘定科目から業務状況をつぶさに知ることができる」と田中氏

 お金の流れから業務プロセスをひもとき、問題点を洗い出し、検証し、対策を打つ─これはまさしく内部統制の文書化作業と共通している。

 この手法を田中氏は「己を知る勘定科目」と表現し、「適切な業務改善の足掛かりとして不可欠な作業」と語る。すなわち、会計ソフトは内部統制、業務改善の道標となるわけだ。

 ERPも同様だ。販売、在庫、生産、購買、物流、会計、人事・給与など、基幹業務系の機能を統合したERPは、企業内の「ヒト」「モノ」「カネ」にまつわる情報を整理し、会計データとして集約する。つまり財務データから出納帳、伝票にまでさかのぼって業務プロセスをチェックすることができる。

 つまり会計ソフト、ERPともに、お金の流れ、業務の流れの履歴を記録する点で不正行為に対する抑止力にもなる。加えて「内部統制対応」をうたう製品は、不正な伝票がないかチェックする監査機能や、複数の担当者がチェックを済ませない限り伝票が承認されない機能など、統制支援機能が充実している。

 田中氏は「会計ソフトとは、ただ会社の財務会計をはじき出すだけの計算機のようなものではない。お金の流れから業務の流れを精査して、リスクや無駄を発見し、確実に改善につなげていくためのものだ」とまとめる。

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