会計ソフトが業務改善に効く理由内部統制時代の会計ソフト(2)(2/3 ページ)

» 2008年05月12日 12時00分 公開
[山口 邦夫 (経済ジャーナリスト),@IT]

カタログスペックだけを鵜呑みにするな

 昨年、@IT情報マネジメントで「会計ソフトの選び方」を執筆した税理士、松波竜太氏は、暗号化したデータをグループで共有化するマイクロソフトのOffice Grooveを活用し、ネット環境で顧問先企業と会計データの交換をしている。「企業側で会計ソフトにデータを入力すると、こちら側でもタイムラグなくデータを把握できる」と、日常業務でのメリットを指摘する。

 中でも効果を発揮するのは、年度更新時だ。中小企業では、年に1度の年度更新を会計事務所に依頼するケースも多い。しかし会計ソフト一般の問題として、決算時に勘定科目を統廃合する際、更新のやり方によってはデータが消滅してしまうリスクがある。例えば実務上の都合によって、年度更新以前に当期の数値を入力したときなどだ。一般に、前期と当期で勘定科目が異なる場合、人為的にひも付けしない限り会計ソフトが認識してくれない。

ALT 「使い勝手を見極めて、慎重に選ぶべき」と松波氏

そこで年度更新の際は、残高を正しく繰り越すために、会計事務所が前期と当期の両データを預かって処理することが必要となる。Office Grooveによってタイムラグなく安全にデータを共有できることは、こうした際にも都合が良いという。

 これを受けて松波氏は、「会計事務所にもそれぞれのインフラがある。会計事務所を利用することが考えられる以上、事務所側とのデータ共有、データ交換が行いやすいソフトかどうかも重要な選択基準となるだろう」と話す。

 確かに会計ソフトを使えば、基本的には自社で処理が行える。新規導入においても、弥生会計、PCA会計、勘定奉行のどれもがデータ設定の利便性を高めて、導入しやすいよう配慮している。

 しかし会計実務のプロでない以上、年度更新に限らず、適切な処理ができているか確認してもらうなど、会計事務所とのデータ共有やアドバイスが必要になるシーンはさまざま考えられる。したがって、価格や評判だけで判断せず、購入前に会計事務所に相談し、事務所側と同じソフトを使うことも1つの方法といえよう。

 一方、中小企業の会計実務において豊富な実績を持つ公認会計士、青山恒夫氏は「管理会計的な視点で言えば、経営資料を作成するうえで、データをExcelに落とせるかどうかも重要。機能の数ではなく、自社での使い方を吟味して、それに必要な機能があるかどうかでチェックすべき」と語る。ソフト選択のカギは、価格やカタログスペック以外の部分にも隠れていることがよく分かるのではないだろうか。

 以上のように、選択にあたって重視すべきことは多数ある。ただ松波氏は「第1の基準は誰がソフトを使うのか。もう1つは会社の規模と将来的な見通し。注目すべきポイントは複数あるが、これらを軸に判断すれば間違いないだろう」とまとめる。ここでは松波氏のアドバイスを参考にしつつ、あくまで筆者の主観ではあるが、操作性と拡張性をポイントに各ソフトを検証してみたい。

操作性 〜ソフトを使うのは誰か〜

 まず操作性について、松波氏の指摘通り、「誰が経理業務を行うのか」、いい換えれば「会計ソフトを使うのは誰か」という視点で考えてみたい。担当者が経理に精通しているか否かによって、選ぶべきソフトも異なってくる。

 この点では、簿記に詳しくなくても入力しやすいよう、さまざまな工夫が施された低価格帯の会計ソフトに軍配が上がろう。例えば弥生会計は、会計ソフト導入時のハードルになっていた勘定科目コードを覚える手間を解消している。

 具体的には、勘定科目を入力する際、ローマ字で最初のアルファベット1文字を入力すると、該当する勘定科目が表示され、その中から選ぶことができる。いわゆるインクリメンタルサーチという機能で、科目が「現金」であれば、「g」と1文字入れれば「現金」と表示される、といったように、 携帯電話のメール同様の感覚で入力できるというわけだ。初心者の場合、マウスでマウスポインタを動かすたびに操作方法をアドバイスしてくれるガイダンス機能も重宝しよう。

 また、各ソフトには「税金の支払い」などの摘要を選ぶと自動的に仕訳する仕訳辞書機能もある。頻繁に使う適用項目を登録しておけば、以降はいちから入力する必要はなく、辞書を参照して選択するだけで入力できる。

 この仕訳辞書機能の操作性において優れていると評判なのが弥生会計で、仕訳に迷った際に便利な「仕訳アドバイザー」機能も付いている。勘定奉行やPCA会計にも仕訳辞書機能はあるが、弥生会計は初心者にとって特にやさしい作りだといえよう。

 逆に業務の効率性を優先するなら、スピーディな入力機能を重視すべきだ。その点、PCA会計、勘定奉行は簿記の知識があることを前提に作られている。仕訳辞書などヘルプ的な機能よりも、単一仕訳の連続入力機能など、高速大量入力に適した機能や入力後のデータ変換、集計機能などを重視している。

 特にPCA会計は、部門横断で発生したコストを勘定科目単位で部門間配賦する「部門配賦入力」を備えるなど、部門間管理にも配慮した機能を持つ。弥生会計が初心者向けなら、PCA会計、勘定奉行はベテランや会計事務所のプロ向けといえよう。

拡張性 〜社員は何人? 今後の規模はどうなる?〜

 第2のポイントは拡張性だ。上位バージョンが用意されていれば、取引量が増えた場合でもデータ整理など煩雑になりがちな作業をすることなく、スムーズに拡張することができる。

各ソフトの上位バージョン(3ライセンス3ユーザーの価格)
製品名 価格
勘定奉行21Ver.IV LANPACK Broadband Edition 92万4000円
PCA会計9 for SQL 60万9000円
弥生08ネットワーク for SQL 50万4000円

 販売管理や在庫管理、給与システムなど、ほかの業務ソフトとの連携が取りやすい仕組みかどうかもポイントだ。 会計ソフトのみをスタンドアロンで使うなら弥生会計で十分だが、会社の規模が大きくなれば、各業務のデータを自動的に集計する仕組みがあった方が効率的だ。

 その点、勘定奉行は商奉行(販売管理)、蔵奉行(在庫管理)などほかの奉行シリーズとも連携できるほか、複数のパソコンで運用できる奉行LANPACKも用意。さらに既存システムとの連携、カスタマイズも可能な奉行新ERPシリーズもラインアップし、企業の規模に合わせてステップアップすることができる。

 PCA会計も2台以上のパソコンで使う場合のSQL版を用意。さらに大規模かつ本格的な運用を目指すなら、ERPパッケージとしてPCA Dream21という選択肢もある。こちらはWebサービスによる既存システムとの連携が可能という特長を持ち、財務会計、販売管理、仕入れ・在庫管理といった各モジュールに入力されたデータを1つのデータベースに格納する。これによって基幹業務におけるデータ管理の利便性、確実性を向上させることができる。

重視するものを決めて、自社なりの結論を

さて、以上から特徴をまとめてみると、次のようになろうか。

各ソフトの特長
製品名 特長
勘定奉行21 充実したモジュール群と高度な連携性。安定した機能
PCA会計9 部門別管理などが優秀。会社規模の拡大に対応しやすい拡張性
弥生08 携帯電話のメール辞書感覚で勘定科目入力が可能。ガイダンスも充実

 従業員数が10〜50人ほどで、会計業務の効率化を第一目的とするなら、弥生会計など低価格ソフトが費用対効果で適しており、各種業務ソフトとの連携、あるいは将来的にERP導入を目指すなら、拡張性のあるPCA会計、勘定奉行などの高価格帯ソフトが適している、ということになろう。その意味で、自社の将来に向けた戦略を見据えながら会計ソフトを選ぶことが不可欠といえる。

 ちなみに内部統制との関連では、パスワードの設定、社員別の入力制限、入力期間制限、入力伝票の承認、操作履歴の保持、操作ログ、予算設定といった機能の有無をチェックしておきたい。もっとも会計ソフトを導入しただけで内部統制が確立できるわけではないが、これらの機能は自社で定めた統制ルールの管理・運用に大いに役立つはずだ。

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