ベトナムのオフショア開発事情知っていますか?世界のオフショア事情(2)(2/3 ページ)

» 2008年05月13日 12時00分 公開
[霜田寛之(オフショア大學 講師),Global Net One株式会社]

ベトナム人のITリテラシーはこんな感じ

 国のIT産業のすそ野の広さを知るには、一般ユーザーのレベルについて知ることも有効でしょう。

 日本のJPNICに当たる、ベトナムのドメイン管理団体VNNICによると、2007年5月時点でのインターネット人口は1617万人で、これは世界で17番目に多いそうです。ただし、人口に対する比率は約19.5%で93位です。

 大学生は、街の至る所にあるインターネットカフェで長時間を過ごします。主な目的はオンラインゲームやチャット、メール程度です。

 Webカメラとヘッドセットがある店も多いので、外国の友人や家族とビデオチャットする人もいます。大学生数の増加に伴い、インターネットカフェはこれからも増加傾向がしばらく続くと予想されます。PCは各家庭で気軽に買える価格ではないため、PCの普及台数のうちの相当数がこのインターネットカフェのものだとみられています。

 一般家庭とは違い、ほとんどのインターネットカフェやホテル、企業ではADSLを使用しています。ただし最近では、一般家庭をターゲットにしたADSLの値下げ競争の結果、月額基本使用料が最安で数百円程度にまで下がってきており、普及しつつあります。一般向けの光ファイバサービスも2006年末ころから始まっていますが、高額なこともあり、普及にしばらく時間がかかると思われます。

 なお中小の企業にとって利用しやすいのはADSLの4Mbpsの回線で、月額2〜3万円程度(固定IPアドレス付き)です。光ファイバ(20Mbps・固定IPアドレス付き)は月額12万円程度で、中小企業にとっては高価な投資となるでしょう。

 ISP事業者・固定通信事業者・携帯電話事業者の3つは、ほぼ同じ企業またはグループ数社による寡占状態です。国営系列の企業が多く、日本のようにISP事業者の乱立による過当競争という状況にはありません。

 携帯電話の加入者数は2006年末時点で2200万人と、固定電話網の未発達もあって普及率が非常に高く、若い人にとってはバイクと並んで必須アイテムとなっています。そのほとんどは第2世代携帯(GSM方式)ですが、第3世代携帯(CDMA方式)も登場してきています。

 ハノイ市やホーチミン市には電線が複雑に張り巡らされており、その解消にはWiMAXも期待されています。このWiMAXの試験運用がハノイ市やホーチミン市や北部のラオカイ省などで2006年から始まっており、2007年の中ごろにサービス提供予定だったのですが、2008年3月になって、ようやく幾つかの事業者にライセンスが与えられました。

 また、日本が普及を後押しするNGNへの取り組みも行われており、ベトナム企業各社が実証試験に向けて動き出しています。このあたりは意外と進んでいると思われる方が多いのではないでしょうか。

ALT ハノイ市中心部の裏通り。緑が多く、落ち着いた感じがするが、よく見ると電線がグチャグチャに張り巡らされているのが分かる

 国際インターネット回線の利用帯域は年々増加し、2007年6月時点では約8.7Gbpsとなっています。ベトナムの弱点でもあるインフラ面ですが、2007年3月にはベトナムにおいて「海外との通信(国際電話・データ通信・インターネットなど)がすべて断絶する」という通常ではあり得ない危機に見舞われました。

 ベトナムでは、国際通信の82%を2本の海底光ケーブル「SMW-3」と「T-V-H」に依存していました(残りの18%は衛星回線と陸上ケーブル)。しかし、このうち「T-V-H」がベトナム沖で盗難にあったのです。

 残る「WMW-3」が何らかのトラブルにあった場合には、海外と通信が困難になります。真相は定かではありませんが、ある省では使用していない古いケーブルの引き上げを許可したために、地元の人が鉄くずとして安価に売却しようとしていたといわれています。

 これにさかのぼって2007年1月に起きた台湾沖地震でも海底ケーブルが切断し、通信に支障が出ました。この際には、筆者も発注先とのプロジェクトの連絡に困りました。

 これらと前後してインフラの整備のために、ベトナム企業3社が新たな国際海底光ケーブル網の敷設プロジェクトに参加しました。この国際海底光ケーブル「AAG Cable」が2008年11月に完成すれば、新たに1.92Tbpsが使用できるようになり、国際通信帯域は飛躍的に上昇します。

 このうちどれだけインターネット回線に使用されるかは分かりませんが、現在の光ケーブルによる国際通信の帯域が0.3Tbps程度といわれていますので、現在と同じ割合のまま増えるとすれば、インターネット回線帯域に関しても同様に飛躍的に上昇します。これまでベトナムとのオフショア開発プロジェクトを実施していた(またはこれから実施する)多くの人の不安要素だったベトナムとの通信も、これでかなり安定することが期待されます。

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