クチコミ・マーケティングの秘めた効果とジレンマWeb 2.0マーケティング・イノベーション(2)(2/2 ページ)

» 2008年06月11日 12時00分 公開
[森田進,ストラテジック・リサーチ]
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「バズ」と「バイラル」の本当の違い

 前項ではバズ・マーケティングとバイラル・マーケティングの意味、それぞれの意味の違いなどについて解説した。しかし、意味の取り違い以上に気を付けたいのは、概念レベルの取り違いである。

 元来マーケティングという行為は、販売促進のための施策を企業が計画的に仕掛ける活動を指すはずである。しかし、バズ・マーケティングの場合は一部意図的にせよ、あるいは恣意(しい)的にせよ、うわさをばらまくことで予期しないコメントを誘発することに眼目がある。計画的に仕掛けるというより、他力本願的な傾向が強いという意味で、本来のマーケティングからやや逸脱した側面を持っている。

 さらにバイラル・マーケティングに至っては、そもそも恣意的な操作では絶対に起こり得ないはずの口コミという現象、あるいはコントロールとは対極の位置にあるはずのバイラルという自己組織化的な現象を、無理やり人工的に起こそうとするものである。計画性と自然発生(自己組織化的な特性)という相矛盾し合うことをいっぺんにやってしまおうというのが、バイラル・マーケティングである。

 さらに、最近はバズ・マーケティングだけ、バイラル・マーケティングだけという単独の手法ではなかなか十分な効果が得難いということで、この両者を組み合わせたハイブリッド型という手法も出てきているという。ここまで両者の混同が進むと、何が仕掛けとしてのマーケティングで何が予期しないブームなのか、ますますその境界が分かりにくくなってくることだろう。

口コミ・マーケティングが直面するジレンマ

ステルス・マーケティング

 本来、口コミ情報に消費者の関心が集まる理由は、企業にコントロールされず、広告エージェントの息がかかっていない率直な評価情報を入手できるところにあったはずだ。前節でも述べたように、こうした自然発生的な情報を意図的に生成し、さらに効率よくコントロールしようという行為自体は、一種のパラドックスとさえいえよう。このため、さまざまなジレンマに直面している。

 広告エージェントの息がかかったブロガーなどにインセンティブを与え、巧妙な誘導記事を書かせたりするような手法は「ステルス・マーケティング」と呼ばれているが、こうしたマーケティング手法はアンフェアではないかという声が上がっている。このような手法に手を染めたブログ(ブロガー)が、批判の標的となったり、ブログが炎上してしまったりする例も珍しくない。

 2005年にはオレゴン州ポートランドに本部を置く消費者団体「Commercial Alert」が、幾つかの企業が製品の宣伝とは無関係を装ったバズ・マーケターを使った広告を展開し、バズ・マーケティングを使った詐欺まがいのステルス・マーケティング戦術を展開していることに懸念を表明する書簡を米連邦取引委員会(FTC)宛てに送付し、詳しい調査を行うよう要請している。米国ではすでに、こうしたステルス・マーケティングの是非をめぐって賛否両論の議論が行われている。

口コミ・マーケティングに潜む危険

 企業の社会的責任や取引の公正さに厳しい監視の目が光っている現在、最悪の場合、不公正な取引と見なされ法的規制の対象になることもあり得る。事実、Commercial Alertでは、宣伝の目的をあいまいにし、スポンサー名を表から隠したマーケティング行為や、通常の検索結果と広告料金を支払っているスポンサー情報(ペイド・プレースメント)を同じように見せ掛ける手法は、偽装広告を取り締まる法律に違反すると主張している。

 マーケティングの世界も情報化の洗礼を受ける中で、商品サイクルも短縮し、インタラクティブなコミュニケーションがそのまま企業と消費者との間に開示されるようになった。そんな中、安易にその効果だけを狙ってバズ・マーケティングや口コミ・マーケティングに首を突っ込んだ場合、一歩間違えばそうした行為によって企業の品格が疑われ、当初の意図とは逆にその商品や企業のマイナスイメージが伝播していってしまうことにもなりかねない。

筆者プロフィール

森田 進(もりた すすむ)

経営・ICTコンサルタント。ストラテジック・リサーチ代表取締役、「産・学・官リサーチセンター」主宰、国際印刷大学校客員教授。バランスト・スコアカード、ITガバナンスをはじめとする各種経営・公共モデルの導入支援、オントロジ工学、セマンティックWeb、Webサービス論の研究および白書監修。そのほか、SaaS、ナラティブ・テクノロジなど多岐にわたって探求を深める。著書に、『新たなビジネスモデルの覇者ASP』『複雑適応系と電子市場・電子取引』、訳書に『Webサイト完全マスター』ほか。論文に「eラーニングと物語論(ナラティブス)」「バランス・スコアカードの発展、枠組みの再構築」ほか多数。

産・学・官リサーチセンター: http://www.x-portals.com/


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