「CIO」という固定観念から、自らを解き放て!進化するCIO像(1)(3/3 ページ)

» 2008年07月28日 12時00分 公開
[碓井誠(フューチャーアーキテクト),@IT]
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状況によって、変幻自在に業務の重点を変える

 図1はセブン-イレブンにおけるCIO機能の変遷である。システム開発と管理に始まり、各部門へのサポーターとして、さらに社内や取引先とのコラボレーターとしての役割を果たし、事業戦略の推進、新規事業の立ち上げなど、イノベーションの推進役を果たす役割へと、徐々に進化していった。

 一方、図2は、CIO機能の変遷に応じて、ビジネスとシステム、ITの3つが、どのように融合していったのか、変遷の各フェイズにおける3者の関係性を示した概念図である。

 従って、図1、図2は企業におけるIT活用とCIO機能の発展段階を表す概念図として読むこともできる。

ALT 図1 セブン-イレブンにおけるCIO機能の変遷図。この図は同社以外の企業においても、CIO機能の発展を示す1つのモデルケースとして読むこともできる。しかし、CIOは機能の発展だけを目指せば良いわけではなく、変幻自在にどの役割も果たすことが重要(詳しくは後述)(クリックで拡大)
ALT 図2 ビジネス、システム、ITの融合レベルの概念図。図1の横軸「ITの活用度」が高まるほど、3者の融合度も高まる。図1と照らし合わせてみると、各フェイズにおける融合度がいっそう理解しやすい

 ただ注意したいのは、ただ単にCIOとしての機能向上を目指せばいい、というわけでは決してないことだ。企業の特性やコアコンピタンスによって、情報システム部門の位置付けやCIOの在り方は変わってくるのである。

 例えば、金融業や輸出型製造業では、システム投資額の売上比が大きく、CIOの設置も進んでいる。しかし同じ製造業の中でも、情報システム部ではなく、製造技術にかかわるIT部門が力を持っている例もある。

 かつての商社のように、情報システム部門が社内全体のITを統括するのではなく、事業グループ別にシステムを構築する色彩が強い企業もある。CIO機能が企画部門や営業部門のイニシアチブの下にある企業もあれば、CEOの強力なリーダーシップの下で、CIOが全体最適化を推進している企業もある。

 さらに同じ企業でも、IT活用を積極的に推進する「攻めの時期」と、システム機能の改善や既存機能の活用徹底に専念する「守りの時期」がある。CIOと一口でいっても、その位置付けは企業によって実にさまざまであり、ITの活用フェイズも状況によって異なるのである。

 従って、CIOやシステムリーダーは、自社におけるCIOの位置付けや自社の状況に応じて、システム化する業務のプライオリティを評価・分析するとともに、いま力を入れるべきはシステムの開発・運用なのか、業務分析なのか、あるいは業務改革レベルでシステム構築に取り組むべきなのか、といったように、CIO機能のうち、どこにウェイトを置くべきなのか、考えることが重要である。まさに、CIOには変幻自在な対応力が求められている。

 最後にCIOの基本的な役割を整理してみよう。CIOの置かれる環境が企業によって大きく異なることを述べたが、私自身は、企業はITをより有効に活用すべきであり、CIOはチーフ・インフォメーション・オフィサーの域を出て、“チーフ・イノベーション・オフィサー”であるべきだと思っている。その視点で“CIO”の果たすべき役割を列挙すると、下の7つに整理できる。

“チーフ・イノベーション・オフィサー”の果たすべき7つの役割

戦略的IT活用
システムとITを、戦略やオペレーションのなかに、どう位置付けるかを決定する
問題解決の提案と
改革・改善への取り組み
現状の問題と今後の課題に対する解決策を提起し、ビジネス進展の可能性を探る。新規ビジネスモデルの提案および立案を支援する
システムの開発と運用
開発、運用のみならず、活用支援や効果測定を含め、品質と効果の向上に向けてシステムの見直しを行う
IT獲得手法と活用能力
ITやシステムの活用・最適化や新技術の活用能力を高める。人間系とシステム系の連動による効果を追求する
IT活用推進組織とパートナーシップ
情報システム部門の体制作りや人材育成、社内の他部門、外部パートナーとの連携、アウトソーシングの在り方を考え、実践する
コストパフォーマンスと他社との差別化
システム構築を「コスト」ではなく「投資」と考える。業務とシステムの整合性と最適化を実現し、同時にコスト削減を図る
ITガバナンスの整備
情報共有や意思決定、リソース配分の枠組みを作る。投資効果、生産性、品質、サービスレベルの評価と方法論を確立する。IT内部統制を実行する

 これらの役割も、時代と環境に対応して進化して行くことだろう。次回は「時代の変化から自らの役割を知る」と題して、環境の変化を読み的確な対応を図るために、CIOはどうあるべきかを語りたい。

著者紹介

碓井 誠(うすい まこと)

1978年セブン-イレブン・ジャパン入社。業務プロセスの組立てと一体となったシステム構築に携わり、SCM、DCMの全体領域の一体改革を推進した。同時に、米セブン-イレブンの再建やATM事業、eコマース事業などを手掛けた経験も持つ。2000年、常務取締役システム本部長に就任。その後、2004年にフューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)取締役副社長に就任し、現在に至る。実務家として、幅広い業界にソリューションを提案し、その推進を支援しているほか、産官学が連携した、サービス産業における生産性向上の活動にも参画。さらに各種CIO団体での活動支援、社会保険庁の改革委員会など、IT活用による業務革新とCIOのあり方をメインテーマに、多方面で活動を行っている。


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