“きずな”がWebコミュニケーションの常識となる日Web 2.0マーケティング・イノベーション(5)(2/2 ページ)

» 2008年09月08日 12時00分 公開
[森田進,ストラテジック・リサーチ]
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コミュニケーションにチャンスを見出した広告業界

 こうした流れは公開APIの在り方にも影響を及ぼしつつある。これまでの公開APIは、顧客や市場に対するコミュニケーション機能において、ややメリハリに欠けていた感が強い。というのは、公開APIと、それがぶら下げている“メタ情報”や”ダイジェスト・リソース”との関係性がいまひとつ明快ではなかった。

 具体的にいえば、グーグルのAdWords/ AdSense、ヤフー/オーバーチュア、アマゾンのアフィリエイトAPIをはじめ、小さな売り上げを広く薄く集めるロングテール型のサービスモデル(粒度の粗い、個的な分散コンポーネント)以外に、広告効果が分かりやすいサービスがこれといって存在しなかった。

 こうした中、公開APIの活用度や、顧客や市場に対する接触度が高い広告業界の動きについて注目しておきたい。広告業界では、Webにおける広告効果をより確かなものとするうえで、「Web 2.0」というややあいまいなコンセプトよりも、「ソーシャルメ ディア」「ソーシャルメディア・オプティマイゼーション(SMO)」という、より具体的なコンセプトや呼称を好んできた。

 彼らはソーシャルメディアやSMOという概念のうち、ソーシャルブックマークに象徴される「集合知の価値増大」といった側面だけではなく、SNSのように人と人、 サービスとサービスの繋がりや、やり取りを媒介する「コミュニケーションの拡大」 という側面に着目したのである。この点で、彼らは、コミュニケーションを軸とする新しい文化圏がWeb空間において形成されつつある現状を認識しているように思える。

 ソーシャルブックマークのように”集合知の価値増大”を重視した仕組みは、人と人とのコミュニケーションよりも、情報の厚みや立体化、多層化を主目的としている。この点で、コンテンツそのものやアテンション(注目)が鍵となる。

 すなわち、ソーシャルブックマークとは、「キーワード情報を基にしたブックマーク数のレイティングによって、ユーザーの注目を集めるための仕組みや方策」であり、広告・コンテンツ業界がこれをビジネスに活用する場合、「潜在顧客に、いかに確実かつ効率的に情報を発見・認知してもらえるか」という、情報の見つけやすさ(ファインダビリティ)を確保することが成功の鍵となる。

 最近では、スコアリング、トラッキング、プロッティングといった技法を駆使して情報を2次加工したり、集散している情報にメタデータを適用して付加価値を付けることも、アテンションやファインダビリティ向上に効果があることが分かってきた。しかしいずれにせよ、”集合知の価値増大”を重視する場合の主たる狙いは、Webサイトの仕組みやコンテンツの出し方・見せ方の方にあり、ユーザーとのコミュニケー ションや、ユーザー同士のコミュニケーションによるCGMの生成といった点はそれほどポイントとはならない。

コミュニケーションそのものが、ビジネスフィールドとなる日

 こうした中で、広告業界やマーケティング業界、インターネットサービス業界では、第2回「口コミ・マーケティングの秘めた効果とジレンマ」でも紹介した、口コミ・マーケティング、バズマーケティングバイラルマーケティングといった数々のマーケティング手法を実現するために、“コミュニケーションの拡大”という側面に着目した。

 これらのマーケティング手法は、いずれも参加者による情報の加工・コメントの技法を駆使しながら、エバンジェリスト(伝道師)やインフルエンサー(影響者)による加工・コメントを活用して、単なるサイト誘導に終わらせず、話題(情報)への引き込み、購入インセンティブへの誘導、リピート、刷り込みといった効果を生むことを主目的としている。彼らはそれを実現する手法として、SNS(コミュニケーション型SNS)をはじめ、mixi、Twitterなどのマイクロブログ/ミニブログやチャットを採用した。

 こうした人と人のつながりを媒介する“コミュニケーションの拡大”を重視した仕組みは、コンテンツの内容そのものよりも、リアルかつ日常的な雰囲気、コミュニケーション慣習をネットに持ち込むことが重要となる。“独り言”や“井戸端会議”のような、メインコンテンツにまつわるちょっとした 周辺情報、接点情報にさまざまな解釈を加えながら会話を盛り上げ、コミュニケーション自体を充実させていく方向性である。すなわち、ソーシャルブックマークとは異なり、こちらはコミュニケーションの醸成こそが成功の鍵となるわけである。

マーケティング手法とメディア文化の同時進行

 さて、ここで話を戻すと、いま注目したいのは、広告業界がWebにおける広告効果を高めるうえで、ソーシャルメディアやSMOという概念のうち、“コミュニケーションの拡大”という側面に着目し、それを実現するための手段を進んで取り入れているトレンドである。

 そして、第2回「口コミ・マーケティングの秘めた効果とジレンマ」で紹介したように、これらのマーケティング手法の軸であるコミュニケーション重視の考え方が、いまやマーケティングの世界を飛び出し、Webメディア一般の在り方にも変化を迫るような、新たな“文化圏”を形成しつつあることである。

 その文化圏とは、具体的には「エンゲージメント型」のネット空間である。これまでは、Webメディアにおいても、マスメディア型マーケティングに代表されるような、話題性や露出度の高さによって人々の注意を引く一過性のアプローチが中心であった。

 しかしここにきて、Webメディアは、日常的なコミュニケーションによって、長期的なスパンで個々人と“きずな”を築き、その過程で何らかの目的を達成するための種を蒔いていく場──すなわち“プロセス重視型ソーシャルメディア”へと、急速に旋回しつつあるのである。

 マーケティング手法とメディア文化の同時進行──今後のWebコミュニケーションの在り方を考えるに当たって、見逃せない傾向といえよう。

筆者プロフィール

森田 進(もりた すすむ)

経営・ICTコンサルタント。ストラテジック・リサーチ代表取締役、「産・学・官リサーチセンター」主宰、国際印刷大学校客員教授。バランスト・スコアカード、ITガバナンスをはじめとする各種経営・公共モデルの導入支援、オントロジ工学、セマンティックWeb、Webサービス論の研究および白書監修。そのほか、SaaS、ナラティブ・テクノロジなど多岐にわたって探求を深める。著書に、『新たなビジネスモデルの覇者ASP』『複雑適応系と電子市場・電子取引』、訳書に『Webサイト完全マスター』ほか。論文に「eラーニングと物語論(ナラティブス)」「バランス・スコアカードの発展、枠組みの再構築」ほか多数。

産・学・官リサーチセンター: http://www.x-portals.com/


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