『キャリア開発/キャリア・カウンセリング』の著者である上田敬氏は、CDPを広義のCDPと狭義のCDPに分け、狭義のCDPとして、
を支援する施策を挙げている。
広義のCDPでは、狭義のCDPだけでなく、組織の中でのキャリア開発は日々の仕事が原点であることから、MBOに基づく業務遂行、評価制度、賃金処遇制度がコアとなる施策となり、これを支援する教育などが含まれるとした(図表2参照)。
狭義のCDPで社員の中長期のキャリアデザインを行い、単年度の目標にブレイクダウンしてMBOで管理を行うことで、スパイラル状に目標とするキャリアに近づいていくことが可能になる(図表3参照)。
この広義のCDPこそが、CDPとMBOのあるべき姿であり、企業はこれを人材育成の仕組みとして構築しなければならない。
自社の事業に必要な人材を育成するための目標を設定するためには、まず、自社の現在および将来の事業を担うキャリア体系を構築する必要がある。
なぜなら、スキル診断を自社のキャリア体系に基づいて行うことで作られる現状の人材ポートフォリオと、自社のキャリア体系と戦略から作られる求められる人材ポートフォリオを比較することで、人材ギャップが明確になり、人材育成目標を設定することが可能となるからだ。
自社の人材を的確に把握し、戦略に合致した人材育成を行うためには、ITSSをそのまま自社のキャリア体系として導入することはできないため、自社に最適化されたキャリア体系の構築は欠かすことができない(図表4参照)。
個人任せの育成プラン作成と、実施の第1の問題点である会社の事業の方向性や戦略と個人の育成プランのすり合わせが行われていない点を解消するためには、MBOの1つの項目として「育成目標」を設定すればよい。
これにより、ほかの目標と同様に、目標面談で個人の作成した育成目標(プラン)と、上司(会社)の意向とのすり合わせを行うことができる。
第2の問題点である育成実施が個人任せになり管理されていない点も、同様に解決できる。上司とすり合わせを行った育成目標は、個人だけでなく会社も認めた目標であり、実施責任は個人だけでなく会社側にもあるため、人材育成は上司の大きな仕事の1つになる。
そのため、目標に設定した研修受講や実務経験の場を、上司は積極的に社員に提供する責任があり、「研修は仕事が暇な人が受講するもの」という職場の意識がなくなり、研修受講は仕事の1つになる。
育成の結果は、MBOのほかの項目と同様に、自己評価および上司が評価した上で、評価面談の場で調整を行う。また、結果を次年度の育成プランに反映させることで、個人単位の人材育成のマネジメントサイクルが実践される。
MBOに個人単位の人材育成を組み込んだプロセス例は図表5のようになるが、各企業にはさまざまな人事制度や評価制度があるため、それらとの整合性を取った仕組みを構築しなければならない。
▼井上 実(いのうえ みのる)
グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。MBA、中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。
第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。
著書:『システムアナリスト合格対策』(共著、経林書房)、『システムアナリスト過去問題&分析』(共著、経林書房)、『情報処理技術者用語辞典』(共著、日経BP社)、『ITソリューション 〜戦略的情報化に向けて〜』(共著、同友館)。
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