本当につらいときに支えになるもの目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(20)(5/5 ページ)

» 2008年09月29日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]
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経営者の視点というもの

 そして坂口は、加藤と会議室を出て副社長室へと向かった。加藤はなぜ自分だけ呼ばれたのかが不思議だった。

加藤 「どうして、私だけ呼ばれたんですか」

坂口 「伊東くんからあなたの知識と行動をお聞きしました。広報で培った人脈とノウハウを生かさせていただきたいのです」

加藤 「それはもちろんです。それはいままでと同じです」

坂口 「いえ、その力を業務改革に向けてもらいたいんです。角野工場長のような方にも聞いてもらって心を動かしてもらうには、伊東くんや私だけではだめなんです。そのためにしばらく、専任になっていただくよう副社長にお願いしに行くんです」

加藤 「えぇ! 私にそんな大役はできません!」

坂口 「大丈夫です。豊若さんの所に松嶋さんというプロがいます。その方に支援してもらうようお願いはしてあります。つまり、マスコミ対応だけでなく業務改善も手伝ってほしいんです」

 加藤は坂口の熱意に少し戸惑いながらも、広報で接した社員みんなの力になれることに喜びを感じていた。2人は副社長室に入ると窓際にいた西田がこちらを向いた。

西田 「なんだ、その思いつめた顔は。2人の仲人でも頼みに来たのか? ガハハハ」

坂口 「違います! 今日はお願いにあがりました。副社長、システムの完成を3カ月延長させてください! それと加藤さんを専任にしていただきたいのです」

 すると西田は笑顔から急にきつい顔になり、腕を組んだ。

 西田の出す威圧感にたじろきながらも、坂口はシステムの品質向上のための開発工期見直し、需要予測支援システムの話、そのための業務改善の話を要点よく話した。西田はきつい顔のままだったが、いつもの落ち着いた声で確認した。

西田 「つまり、商品納期短縮を実現するためには必要な期限ということだな」

坂口 「はい、何もなければ、ただ単に開発を3カ月延ばさないと品質が確保できない、というものなので、経営陣の理解は得られないと思います。しかし、需要予測支援システムの追加は、開発より関係者の合意形成と業務改善がカギであり、品質確保とともに、商品納期短縮やコスト削減効果もあります。これなら経営陣に納得していただける内容だと思います。もちろん、3カ月で確実に仕上げてみせます。……ぜひ、お願いします!」

西田 「経営者の視点でも意味がある、といいたいんだな」

坂口 「はい、その通りです」

 西田は腕組みをしたまま少し思案をした後、はっきりとした声で坂口にいった。

西田 「分かった。お前の思う通りにしろ。ただし、これ以上の延期はなしだ。加藤さんの件はワシから広報部長に連絡しておく。表向きは兼任だが実質は専任として動いてもらえばいい。それでいいな」

坂口 「ありがとうございます!」

西田 「ただ、ワシ以外にも合意をとらなきゃいけないやつはいるだろう。坂口、それはお前の役目だぞ」

坂口 「はい、頑張ります!」

西田 「加藤くんもとんでもないやつに見込まれたな」

加藤 「いえ、光栄です。皆さんのお役に立てれば幸いです」

西田 「じゃ、頼むよ」

 そういうと西田は2人に背を向け、窓の外を見るような姿勢になった。

 その顔にはさっきと違ったより大きな笑みが浮かんでいた。まるでわが子の成長を実感した親のような顔つきだった。いわれたことを明確な形にして自分の立場を確実なものにしていく。坂口の期待通りの成長に喜びを隠せない西田であった。

 そんな西田の親心を坂口は気付くこともなくIT企画推進室へと戻り、加藤は少し引き継ぎの準備をしたいといって広報室に戻っていった。

 坂口はIT企画推進室に戻ると、メンバーに西田の承諾を得たことを説明した。

坂口 「しかし、ほかにも合意を取れっていわれたんです。後は西田副社長経由でお願いすればいいのかと思っていたので、ちょっと戸惑っているんですが……。」

名間瀬 「確かに表向きはそうでしょう。しかし、3カ月の延期となると何かと騒ぐ人たちもいるはずです。時間がないときに、正面突破はあまり得策ではありません。話を早く進めるために関係部署に『根回し』する必要がありますね」

坂口 「『根回し』ですか。う〜ん、何か後ろ向きな気がするなぁ」

名間瀬 「そんなことはありません。迅速な合意形成をするためには、『根回し』を行うことはプロジェクトマネジメントとしては必須ですよ。玄関から入るのが普通ですが、裏口から入るときもあるのですよ」

坂口 「なるほど。ただ、あんまり裏口から入ったことがないもんで……」

名間瀬 「その点はお任せください。少し相談して役割分担を決めましょう。どの人を押さえるべきかは大体分かりますので」

坂口 「よろしくお願いします」

 坂口と名間瀬は小声になりがちながらも作戦を立て始めた。


◆次回予告◆

 3カ月の開発延期とともに需要予測システム開発への本格的な検討が始まった。八島の思いを背負った谷橋と小田切もいままで以上の働きを見せ、開発は無事に終盤を迎えていく。

 一方、佐藤はこのままでは、自分がカヤの外になってしまうことを危ぐし、システムの成果をわがものにするために最後の仕掛けを考えていた……。

「目指せ!シスアドの達人-第2部」の登場人物関係図

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IT企画推進室

室長 名間瀬 勝也(なませ かつや) 46歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 31歳


社員 伊東 敦史(いとう あつし) 24歳


今回登場メンバー
(注:SD=サンドラフト、SDS=サンドラフトサポート)

SDS アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ) 27歳


SDS 総務部 深田 祐子(ふかだ ゆうこ) 24歳


SD 副社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 59歳


SD 専務取締役兼CIO IT企画部長 佐藤 光一(さとう こういち) 52歳


SD 営業企画部長 天海 有紀(あまみ ゆうき) 39歳


配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 42歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 34歳


情報システム部主任 八島 秀樹(やしま ひでき) 36歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 豊若 越司(とよわか えつし) 39歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 松嶋 七海(まつしま ななみ) 38歳


松嶋七海の娘 松嶋 真鈴(まつしま まりん) 10歳


ホテイドリンク 社長 布袋 泰博(ほてい やすひろ) 45歳


ホテイドリンク システムセンター長 園村 純(そのむら じゅん) 51歳


ホテイビール 社長 布袋 四郎(ほてい しろう) 70歳


情報システム部 生産管理システム担当 谷橋 章介(たにはし しょうすけ) 35歳


情報システム部 営業支援システム担当 小田切 要(おだぎり かなめ) 31歳


西東京物流センター 配送計画担当 小沢 隆夫(おざわ たかお) 39歳


松嶋七海の夫。教師 松嶋 隆史(まつしま たかし) 39歳


SD 広報室主任 加藤 三咲(かとう みさき) 27歳


SD 工場長 角野 孝三(かどの こうぞう)59歳


筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


森下 裕史(もりした ひろし)

上級システムアドミニストレータ連絡会正会員。ミンツ代表


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