なぜ、人材育成に必要なツールが作れないのかITSSはなぜ生かされないのか(4)(2/2 ページ)

» 2008年10月15日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]
前のページへ 1|2       

実務ロードマップが作られていない原因

 ITSSには研修ロードマップはあるが、実務ロードマップはない。

 ITSSにないのだから必要ないのだろうと思われていることが、実務ロードマップが作られていない大きな原因である。

 実務ロードマップがなくても、「達成度指標を見れば、職種・専門分野・レベルごとに必要とされる経験・実績は分かるだろう」といわれるかもしれないが、達成度指標は同一職種・専門分野だと同じような言葉が繰り返し使われている文章のため、レベル差が把握しづらい。

 ITSSは、バージョン2からスキルレベル判定は達成度指標により判定するべきであるとしているが、達成度指標でレベルを判定するのであれば、なおさら、レベル差は社員に理解しやすいものにしなければならず、達成度指標の定義だけでは不十分である。これを補うのが実務ロードマップである。

 筆者がかかわる人材開発コンサルティングでは、必ず実務ロードマップの作成を含んだツール作りを提案しており、顧客が提案を採用する際の決め手の1つになっている。

現場部門と人材開発部門のCFTの構築が成功の鍵

 研修ロードマップは、人材開発部門だけでも、現場部門だけでも作成することが難しい。そのため、両者が集まったCFT(Cross Functional Team)が必要になる。

 このCFTは研修ロードマップ作りの場面だけでなく、キャリア体系や人材育成の仕組み作りからプロジェクトとして編成され、活動するべきである。人材育成部門だけでキャリア体系構築や人材育成の仕組み作りを行うと、現場部門からは「お仕着せのキャリア体系や人材育成の仕組みである」と思われることが多く、実際の運用に積極的にかかわってもらえないことがある。

図表4:CFT体制

 人材育成は現場で行われるものであり、人材開発部門だけでできるものではない。CFT内で十分な議論を行い、現場部門のコンセンサスを得ることが、体系や仕組みを絵に描いたもちにしないポイントである。筆者がかかわるプロジェクトでは、必ず(図表4)のようなCFTを編成することをお願いしている。

抽象度と適用範囲のトレードオフ

 実務ロードマップは、社員が自分の実務計画を立案しやすくするためのものであるため、達成度指標のレベル差を明確にし、自分の目指すレベルに達するためにはこれからどのような実務経験をしなければならないのかを容易に分かるようにしなければならない。

 そのため、達成度指標よりも実際の仕事に近い内容で記述した方が社員にとっては分かりやすい。しかし、具体的な仕事の内容を記述してしまうと、適用できる部門や社員が限られてしまい何種類もの実務ロードマップが必要になってしまう。

 実務ロードマップの記述内容の抽象度と適用範囲はトレードオフの関係にあることを理解したうえで、自社に最適な実務ロードマップを作成する必要がある。この作業も、研修ロードマップと共に人材開発部門と現場部門のCFTで行わなければ難しい作業である。

 ITSSがIT人材育成に生かされていない原因を、求められる人材ポートフォリオ、人材育成の仕組み、仕組みを容易に運用するためのツールという観点から追究し、解決策を検討してきた。本連載はこれで終了となるが、これらの解決策に多くのIT企業が1日も早く取り組み、ITSSが人材育成に生かされ効果を発揮することを期待したい。

筆者プロフィール

井上 実(いのうえ みのる)

グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。MBA、中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。

第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:『システムアナリスト合格対策』(共著、経林書房)、『システムアナリスト過去問題&分析』(共著、経林書房)、『情報処理技術者用語辞典』(共著、日経BP社)、『ITソリューション 〜戦略的情報化に向けて〜』(共著、同友館)。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ