ホーチミンはサイゴン時代、かつてのフランスや米国の占領下で西洋文化が広まり、近代的な考え方と合理主義、自由主義の浸透と、経済の発展が進みました。
ベトナム戦争が終結した際に、北ベトナムの指導者ホー・チ・ミンの名前から「ホーチミン市(ホーチミンシティ)」とその名称が変更されましたが、現在でも「サイゴン」と呼ばれることがあります。都会的で洗練されたものという意味で「サイゴン風」という使われ方もします。
人口は640万人程度で、最近近隣県を吸収したハノイと同程度です。気候的にも、人々の性格からも、ハノイよりも活気があるように思えます。ハノイでさえ多いバイクの数が、ホーチミンではさらに密度が多く、その運転スピードも速く感じます。「静」のハノイに対して「動」のホーチミンともいえます。欧米文化への適応経験も含め、欧米企業にとってはハノイよりもホーチミンの方が進出しやすいといえます。
気候は熱帯に属し、1年を通じて気温が高いです。北部に比べて蚊が1年中おり、蚊が媒介する伝染病は北部よりも多い傾向にあります。ただし、外資系医療機関(ローカルな医療機関は利用を勧めない)はハノイよりも多いので、万一の際は利用しやすいといえます。
なお、筆者が入院したことがあるのは(ホーチミンにも同系列の病院がある)ハノイの外資系医療機関ですが、清潔で英語・日本語の話せる医師やスタッフがおり、「袖の下」が必要なローカル医院とは違い、安心して利用することができました。
2005年時点で340社のIT企業がホーチミンに存在すると推測されてます。
日本企業が発注する場合の人月単価相場は、各企業によって相当の開きがありますが、物価・地域GDPがともにハノイに比べて高いことから、エンジニアの給料レベルも比較的高く、その結果として、人月単価もハノイと比較すると若干高めであると推測されます。
以前から米国やフランスの思想に影響され、さらにシンガポールをはじめとする東南アジア諸国との交流が盛んで、国際商業都市として発展してきたホーチミンは、ハノイと比べて異文化に対する適応力や英語力が総じて高いといえます。英語以外の語学に関しても、全般的に習得スピードが速いともいわれています。
また、ビジネス感覚にも優れており、マーケティングや営業スキルはホーチミンを拠点とする企業の方がより優れているようです。
ハノイが物事を慎重に進める傾向があるのに対し、ホーチミンではフライング気味に話が進んでいきます。
離職率はハノイよりやや高めという印象です。また、コツコツとルーチンワークをすることはあまり得意ではない人がハノイよりも多いようです。
これには人々の性格が影響していると思います。
もともと南部は肥沃な大地とメコン川の恩恵で食料が豊富であり、また、1年中温暖な気候から、どちらかというとその日暮らしで楽天的、自由放漫、仕事がなくても食料に困らない、寝る所に困っても凍え死ぬことはない、という考えが染み付いているように思えます。これは米国西海岸や沖縄などの温暖な地域にもある程度共通する性格ではないかと思います。
また、外国文化の影響もあり、サバサバとしていて付き合いも浅く広く、という印象が強いですし、ハノイよりもストレートな表現をします。
ホーチミン市民とハノイ市民はあまり反りが合いません。方言も違い(少し失礼ないい方をするとホーチミンの方はゆるい発音に聞こえる)、人々の性格も街の雰囲気も違い、その差はかなりのものであるといえます。
現地進出する場合には都市の経済規模以外にも、自社の文化や作業内容、求める人材との適合性を総合的に見極める必要が出てきます。
ホーチミンにもホーチミン市国家大学という首相直轄の大学があります。
ホーチミン市国家大学傘下のホーチミン工科大学がホーチミンでは理系人材のレベルが一番高く、次いで同じく国家大学傘下のホーチミン自然科学大学といわれています。またRMIT(ロイヤルメルボルン工科大学)といった、海外の教育機関が多いのも特徴です。
ベトナムは小中国と呼ばれ、中国に似た側面を持ちますが、明確に異なる点として「小国ゆえの立ち回り」「闘いと侵略の歴史」「欧米思想の影響」「親日国」「擦り合わせ文化」「関係性の重視」など、いくつかのキーワードがあります。
重要な点は、ベトナムは中国から見ると規模的にも民族的にも「中国の1地域」ととらえることができる一方で、1つの国として独自の価値観を発展させてきた点です。
また、最近の中国の外資系企業に対する締め出し策や食品の品質問題で、「リスク」が身に染みている方も多いでしょう。例えば、「中国国内で情報家電などの製品を販売するためには、中国当局にソースコードを開示しなければならない」方針(*注1)が打ち出されました。
中国は、世界でも最もリスクを受容する国民性を持っているといわれますが、上記のような大きな方向転換は、進出する企業としてはたまりません。
(注1)関連リンク
中国のセキュリティ製品の強制認証措置に関するJISAの対応(PDF)
中国のセキュリティ製品の強制認証措置について(社団法人コンピュータソフトウェア協会)
これまでベトナムでオフショア開発を実施する理由として、上記のようなチャイナリスクを回避し、生産拠点をポートフォリオ化することと、低コストによる原価低減の2点が主なものでした。
ですが、実は第3の材料として、国民文化の類似性や人の潜在力からくるプロジェクト運営のしやすさを動機とした進出も少なくありません。プロジェクト運営の根幹は“人”ですから、非常に大事なポイントです。
これはなかなか定量的には表現できませんから、どちらかというと中小〜中堅企業の責任者・経営者による決断に影響したと思われます。
さらに上記の第3の理由について、擦り合わせ型という国民文化の類似性にフォーカスを当ててみます。
ベトナムを含む東南アジアは外的変化要因に対する適応力が強く、また、比較的低い離職率という特徴があり、その結果擦り合わせ力に強みを発揮します。先行する製造業ではすでに、組み合わせ型作業は中国で、擦り合わせ型作業は東南アジア諸国で、という区分けを行っている例が見られています。
これは多能工によるセル生産方式を採用するキヤノンがベトナムに大きく進出しているか、という問いの答えにもなってくると考えます。標準化は当然重要ですが、ベトナムの強みを生かし、取り込んでいく方法を構築していくことで、より一層強くなれるのです。
勤勉・真面目といった特徴は、アジアやそのほかの多くの国々と比較したときのものであり、日本人が考えるモノサシで「勤勉」というのは危険であることを認識したうえで、自分の組織で、外国人と働くことを「仕方なく」から「強みの源泉」としていくにはどうしたらよいかを考え始めてみてはいかがでしょうか。
霜田 寛之(しもだ ひろゆき)
オフショア大學 講師
Global Net One株式会社代表
日立ソフトにおいて、ベトナム最大手ソフト開発企業とのブリッジSEとしてオフショア開発プロジェクトに参画。現地ベトナム人の人間性の体験や優秀なエンジニアたちとの出会いを通してベトナムの可能性と魅力に取りつかれ、Global Net One株式会社を設立。
ベトナム活用のメリット、注意点をより多くの日本企業とシェアしてオフショア開発を成功に導くために、ベトナムに特化したオフショア開発コンサルティングやオフショアベンダ情報の提供と選定支援、ベトナム進出サポートなどを行う。
オフショア大學ではプロジェクトへの影響要因としてのベトナムの地域特性、文化特性について教鞭(きょうべん)を執る。
ベトナムIT企業総合マッチングサイト:http://outsource2-vietnam.net/
Global Net One株式会社:http://www.globalnet-1.com/j/
オフショア大學:http://www.offshoringleaders.com/
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