“自主性”なくして、仮想化技術は生かせない仮想化時代のビジネスインフラ(1)(2/2 ページ)

» 2008年12月04日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]
前のページへ 1|2       

「ITを使って何をするか」が、大きな差別化要因に

 では、なぜいまITを積極活用する姿勢が求められているのでしょうか。それは前述のように、「仮想化技術」とはコンピュータのあらゆる物理的制約を取り除き、さまざまな装置、機能を論理的に扱うことを可能にする技術だからです。

 これによって、従来なら物理的制約によって不可能だったことも、実現可能となってきます。加えて、企業間競争は年々激化しています。こうした中で勝ち残るためには、「ITを使って何をするか」という発想が、差別化を図るうえで非常に重要なポイントとなるのです。

 また、 「装置、機能を論理的に扱える」ということは、「ハードウェアをシンプルかつ安価に扱えること」も意味しています。しかし、仮想化技術もきちんと使いこなせば素晴らしい武器になりますが、使い方を間違えると期待した効果が得られないばかりか、かえってシステムの複雑さや運用コストの増加を招いてしまいます。

 以上2つの理由から、ITを経営にどう生かすか、いままで以上に真剣に考えることが求められているのです。

新技術への挑戦は、多くの可能性をもたらす

 では一方で、ユーザー部門や経営層、また情報システム部の人たちは、なぜこれまでITそのものやITの利活用に対して、いまひとつ積極的になれないケースも多かったのでしょうか。はっきりいえば「既成概念にとらわれた考え方」と、新しいことに対する「チャレンジ精神の欠如」です。

 例えば、「これが常識なのだから仕方がない」「これしか方法がない」という情報システム部門の人がよくいます。確かにITの急速な技術進歩と、ユーザー数の増加により、われわれはさまざまなメリットを享受できた半面、システムが複雑になりすぎたゆえの問題も数多く抱えるようになりました。利便性向上の裏では、問題発生時の対応力低下を招いていたのです。

 それゆえか、新しい技術が開発されても何も変えたくない一心で、古い技術を我慢して使い続けるというおかしな現象も起きるようになりました。複雑なものには触らない、まさに“臭いものには蓋をしろ”ということが、情報システム部門の中で現実に起こっているのです。しかし、そうした場合、「サポートが切れるのでスペアパーツを買っておく必要がある」「このバージョンをサポートするハードが販売中止になるので、不必要なソフトウェア変更をしなければならない」といった無駄な問題が発生します。

 一方、経営層やユーザー部門にも問題があります。常にアンテナを立てて必要な情報を収集し、最新の技術について「それがどう経営に役立ちそうなのか」、自身の見解を大切にしながら把握しておくべきなのですが、偏った情報しか持っていないケースが多く見受けられます。例えば「ベンダがそういっているから間違いない」「あのベンダは実績が少ないから危険だ」といったように、既成概念にとらわれたまま、自分で考えることなく納得してしまうのです。

“チャレンジ”なくして、UNIXは企業システムになり得たか

 しかし、後から考えれば当然のように思えることも、すべては既成概念を捨てて、自らその活用法を考え“チャレンジ”することから始まっています。例えば、1980年代にUNIXをミッションクリティカルで使うことなど考えられませんでしたが、1990年代に入るとメインフレームからUNIXへ移行するユーザーが増加しました。これも最初に“チャレンジ”があったからです。その後のLinuxも同様です。

 パソコンの技術は個人向けであり、大規模なミッションクリティカルには使用できない──これもまた既成概念にとらわれていた例です。以前は何十億円もするメインフレームで稼働していたアプリケーションが、いまではパソコンと同じCPUとOSで動いています。このチャレンジによって、どれだけのコストが削減できたことでしょう。

 現在も日々さまざまな技術が開発されています。それらの技術を駆使して一番よい使用方法を決めるのは、ベンダではなくユーザー自身なのです。この連載のテーマである仮想化技術もその1つです。「仮想化技術」と一言でいっても、さまざまな技術が存在しています。それらをきちんと理解して、自ら考え、活用すれば、グリーンITの実現、システムの早期立ち上げ、低コスト・短期間での障害復旧システムの実現、運用管理コストの大幅な削減などが可能になります。 

 あるユーザー企業では、年間IT予算の 80%が保守に使われていましたが、仮想化技術の積極的な導入により、保守費用を半分の40%に削減しました。同様に、ネットワークケーブルが3万本減った例もあれば、100個のサーバラックが10個になったケースもあります。既成概念を捨てて、新しいものにチャレンジする姿勢があれば、仮想化技術は実に多くのものをもたらしてくれるのです。

 次回から、仮想化技術がどのようにビジネスを加速させてくれるのか、実例を交えつつ詳しく紹介していきたいと思います。

著者紹介

▼著者名 大木 稔(おおき みのる)

イージェネラ 代表取締役社長。日本ディジタルイクイップメント(現 日本ヒューレット・パッカード)でNTTをはじめとする通信業向けの大規模システム販売に従事した後、オクテルコミュニケーションズ、テレメディアネットワークスインターナショナルジャパンで代表取締役を歴任。その後、日本NCRで事業部長、日本BEAシステムズで営業本部長を務めた後、2006年1月から現職に着任した。現在は「インフラレベルでの仮想化技術が、企業にどのような価値を生み出すか」という観点から、仮想化技術の普及・啓蒙に当たっている。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ